Act9-355 愛の形
サラさんがスカイディアを睨み付けていた。
サラさんはゴンさんの手を借りてあの女の頭上、いや上空にいる。
上空からの攻撃というのは、基本的には有利だ。どんなに強くても上空からの攻撃というものは絶対的な優位性を誇る。
大戦末期に戦艦大和が爆撃の雨で沈んだように。地上にいる相手は上空の相手に対して取れる行動は限られてしまう。
上空を取れれば相手の行動を狭めることができる。今回の場合も基本的には同じだ。
加えてサラさんたちは、艦載機よりもはるかに小回りが利く。そこから体重と落下速度を組み合わせた一撃を放つことも可能だ。なによりもどんな武術であっても上からの攻撃というのはあまり想定されていない。
そもそも上空からの攻撃自体が、近代化してからのものであり、それまでは地上か海上での戦いが一般的だった。
軍と軍での戦いだって元は上空からの攻撃という考えがなかったのだから、当然個人同士での戦いとなる、いわゆる白兵戦がメインとなる武術において上空からの攻撃が想定されていないのも突然だった。
だからこそ上空を取れれば、制空権を獲られれば、一気に有利に立てる。
けれどそれはあくまでも相手による。
サラさんが相手をしようとしているのは、母神スカイディア。
この世界の創造主の上空を取ったからと言って、有利になったとは、たったそれだけで有利になったとは言えない。
言えるわけがない。
でもサラさんにはなにかしらの策があるようだ。
それがなんなのかはわからない。
わからないけど、サラさんに策があるのであれば、いまは任せるしかない。
『サラさん、任せてもいいの?』
『もちろんです。必ずや仕留めてみせます』
念話で確認すると、サラさんは自信があるように言っていた。その目は「任せてください」と雄弁に物語っていた。
『……わかった。でも無理だけは』
『ええ。無理はしませんから』
サラさんが俺を見やる。にこやかに彼女は笑っていた。
でもその笑顔になぜか嫌な予感がした。
そのことを確かめようとしたけど、サラさんは念話を切ってしまった。そして眼下にいるスカイディアを改めて睨み付けた。
「貴様の罪。その身で贖うがいい!」
「罪?この世界の神たる私を誰が裁くというの?私を裁く権利も資格さえも持つ者は存在しないのに?」
スカイディアは笑っていた。
それが当たり前であるかのように。
だが、そんなスカイディアに対してサラさんは言った。
「資格も権利も必要ない。ただ我が裁くのみ。天が貴様を裁かなくとも、我が貴様を裁くのだ」
「なんの理由があって?」
「我が愛する方から大切なものを貴様は奪った。理由はそれだけで十分である」
「へぇ?その愛する人からの寵愛をほとんど受けていないのに?あなたがどんなにあの子を想ったところで、あの子があなたを選ぶことなんてありえないのに?」
スカイディアは俺を見て笑っていた。
でも言われた内容に反論したくても、すぐにはできなかった。
サラさんを愛してはいる。
けど一番かと言われたら、頷くことはできなかった。
でもサラさんは俺にとって大切な人のひとりだ。それだけはたしかだ。
たとえサラさんと俺の気持ちが釣り合うものでなかったとしても。
「……それでも構わぬ。我は我が想うままに旦那様を愛するのだ。それが我が愛の形だ!」
はっきりとサラさんは叫んだ。その言葉に、その想いに胸の奥が温かくなる。そして申し訳なく思う。サラさんを一番想うことができないことを、申し訳なく思えた。
それでも構わない、と彼女は言った。迷いのない顔で、目ではっきりと言いきった。
「さぁ、問答は終わりだ!」
サラさんが再び叫んだ。同時にサラさんは、体に可視化した風の力を纏っていく。
「行くぞ、邪神!」
咆哮が響く。響き渡る咆哮とともにサラさんはまっすぐにスカイディアにと突っ込んでいった。




