Act9-344 被害を防ぐために
すいません、昨日は更新できなかったです←汗
加えて今月はちょっと変則的な祭りになります。
今日の3話と明日の3話で九月の更新祭りといたします。
なわけでさっそく1話目です。
「助け、られない?」
言われた意味がわからなかった。
すぐに理解することができない。いまフェンリルが言った言葉の意味を理解できなかった。だけどフェンリルは説明してくれない。ただ泣きじゃくるだけで、それ以上の言葉を口にしてくれなかった。
『すまぬ。本当にすまぬ、カレン』
フェンリルはやはりなにも教えてくれない。でも教えてもらわなければどうしようもなかった。カティを助けられないという世迷言はどうでもいい。
だってシリウスのときだって、助けることができたんだ。
ならカティだって助けられるはずだ。
なによりもカティの体にはフェンリル本人が宿っているんだ。その力を借りればきっとカティを助けることはできるはずで──。
『……無理だ。一度「フェンリル」となった狼の魔物を元の姿に戻すことはできぬ』
「え?」
──フェンリルは首を振るようにして言った。実際に首を振っているのかはわからないけれど、口ぶりからしてフェンリルが首を振っているということはわかった。
でも、フェンリルが言わんとしていることは理解できないし、納得もできなかった。
「シリウスのときは助けられたじゃないか! ならカティだって助けられるはずだ!」
そう、シリウスもフェンリルとなった。でもシリウスは元の姿に戻ってくれた。だからカティだって元の姿に戻すことができる。助けてあげられるはずなんだ。
だけどフェンリルは決して頷いてはくれなかった。
『……我とて助けたいのだ。あの子を元の姿に戻してあげたい。だが、無理なのだ。もう手遅れなんだ』
「手遅れなものか! 俺はカティを、愛娘を助ける! 絶対に元の姿に戻してみせる!」
フェンリルに向かって叫ぶ。ありのままの気持ちを、愛娘を助けたいという想いをぶちまけていく。けれどフェンリルの答えは変わらない。
むしろカティへの想いを吐露するたびに、その声はより深い悲しみに覆われていく。
『……言ったはずだ。我とて助けられるのであれば助けたいのだ、と! 愛おしい孫娘を助けたいと思わぬわけがなかろう! だが、だが! 無理なのだ! 深き闇に、一度でも深き闇に堕ちた者はもう助けることはできないのだ!』
「どういうことだよ!?」
『そのままの意味だ。深き闇に、強い復讐心と深い悲しみと大きな怒りを抱きし者は、その魂ごと闇に堕ちてしまう。そう、かつての我のようにだ。かつての我は深き闇に囚われていた。その闇は我だけには収まらず、我が眷属たちにも一種の呪いとして受け継がれてしまった。その呪いこそが「フェンリル化」である。血に飢えた獣となり、見境なく破壊と殺戮の力を振り回すようになる。いまのカティは破壊と殺戮の力をスカイディアにだけ向けている。だが、それも時間の問題だ!』
「なんでだよ!」
『勝てぬからだ!』
「なに?」
『たとえ「フェンリル化」したところで、大元である我でさえもあの女には敵わなかった。我の寵愛を受けしあの子でもそれは変わらぬ。だが、あの子の中にある深き闇はスカイディアに敵わないからと言って、霧消するわけではない! であれば、あの子は次にどうすると思う!? 敵わない相手であれば、どうすれば敵うようになると考える!?』
「まさか」
『そうだ! いまは敵わぬのであれば、時間を掛けて敵うようになればいい! 他者を殺し、その死肉を喰らって強くなろうとする! スカイディアを殺せるようになるまで、あの子は多くの命を屠り、そして喰らうであろう! その心の闇を払うためだけにだ! そしてそれは我が眷属たちに、狼の魔物たちすべてが等しく陥りかねない可能性でもある! それが「フェンリル化」だ! 復讐のためにすべてのものをみずからの血肉にするために利用すること! その他者には親や兄弟、友人や恋人であろうと関係なく含まれるのだ! そして一度その状態になったら、もう元には戻れぬ。復讐を果たしたところで一度憶えて血肉の味を求めて、いもしない仇を討つためにただ他者を喰い殺す化け物となるのだ! おまえは、カティにそんな血塗られし道を歩ませたいのか、カレン!』
フェンリルの言葉になにも言い返せなくなってしまった。他者を喰い殺すだけの化け物。いまのカティはそうなりかねない存在になってしまった、と。もう俺の愛娘ではなくなってしまっているのだ、とフェンリルは涙ながらに語った。その内容になんて返事をすればいいのか、わからなくなった。
フェンリルが語ったのは、あくまでも「フェンリル化」の内容だった。けれど考えてみれば、シリウスのときは尻尾のリボンがあったから助けられたんだ。母さんの力で「フェンリル化」を状態異常として処理して元のシリウスに戻すことができた。
でもカティには「フェンリル化」を状態異常として処理できるアイテムなんてない。そんなアイテムなんて母さんから渡されていなかった。つまりカティを元に戻す手段はない。できることがあるとすれば、それは──。
『……他者の血肉の味を憶えるまえに、カティを殺せ。そうするしか被害を防ぐ方法はない』
フェンリルは苦渋に満ちた声ではっきりと告げた。
カティを助けるために、カティを殺す。本末転倒な内容でしか、もうあの子を助ける手段はない。フェンリルが伝えてくれた内容に、俺はなにも言えずにただ地面に膝を着くことしかできなかった。
目の前にいるはずなのに、どこか遠くに聞こえるスカイディアとカティのやり取りの音をただ茫然と聞くことしかできなかった。
続きは十六時になります。




