Act9-338 遊び相手
2日ぶりの更新となってしまいました、こんばんは←
9月はダメダメですね←汗
さて、今回はイケイケムードが……という内容になります。
スカイディアは膝を着いていた。
あの女らしからぬ姿に、一瞬だけ目を疑ってしまった。
腐っても母神であり、創造主であるあの女がこんな簡単に膝を突くなんて想像もしていなかった。パパたちはそれなりの確信があったみたいだけど、私には理解できなかった。
だけど、理解できないことであっても、いま目の前に起きていることが現実であることは理解していた。
スカイディアはいま倒れている。肩を大きく動かしながら繰り返す呼吸は、とても荒々しい。普段のあの女の姿からでは想像もできない姿だ。
しかしその想像もできない姿を私は、いや、私たちは目の当たりにしていた。
きっとこのことをほかの誰かに伝えても信じてもらえはしない。
むしろ誰が信じるだろうか、こんな与太話のようなことを。
この世界の真なる母神に膝を着かせたなんて誰が信じてくれるだろうか。
私が聞き手側の立場であっても、きっと信じはしない。いや、信じられるわけがない。
だけどその信じられないことがいま現実に起きていた。あまりにもありえない光景。信じられない光景。その光景がいま目の前で繰り広げられていた。
「あの、スカイディアが」
呆然としながら私は見ていることしかできない。けれど私の中のヘン様はかなりテンションが上がっていた。
『ふふふ、はははは! ざまぁないな、忌々しき母よ! 自分にはなにも通じないと抜かしたのがなんとも無様を晒すものだ! その無様を晒してもなおまだなにも通じぬ、と。自分は無敵だとほざくのか!? 笑止と知れ!』
ヘン様のテンションがずいぶんとおかしくなってしまっていた。でも気持ちはすごくわかる。私もヘン様みたいに散々に笑い飛ばしてやりたい気分ではあった。
でもその一方で嫌な予感もしていた。背筋がなぜか冷たくなっていく。
(……なんだろう、この妙な胸騒ぎは?)
スカイディアはいま私たちの前で無様を晒している。
いまだに呼吸も整っていないところを見るかぎり、あの女はもう限界なんだと思う。あと少しで「神殺し」が為せるはず。
(なのに、なんでこんなにも嫌な予感がするんだろう?)
どう考えても同じことをもう一度繰り返せば、スカイディアを討てるかもしれない。私にとっては本当のパパとママの仇を討つことができる。そう、そのはずなのに、私の胸はやけに動悸していた。
(……私たちはなにか致命的な勘違いをしているのかもしれない)
不意に思ったことだった。致命的な勘違いをしている、と。
でもその内容はわからなかった。勘違いをしているかもしれないとは思うけれど、その内容には憶えはない。
憶えはないけれど、なにか大きなミスをしている気になっていた。その内容はやっぱりわからない。わからないけれど、油断していいわけじゃない。
『ふふふ、どうした、カティ? そんな縮こまって? もうすぐ勝利であるぞ。我らが勝利だ!』
ヘン様はもう勝った気でいるようだった。たしかにいまのスカイディアの姿を見ているとそういう風に思える。パパとエレーンママ、サラママの同時攻撃をもう一度お見舞いすればそれですべてが終わるだろう。
でも本当にそうなのかがわからない。ヘン様は体がないからなのか、それとも浮かれすぎて見落としているのかはわからないけれど、ひどく油断していた。普段のヘン様であればするはずのない油断を、いまのヘン様はしている。
その時点でもうだいぶ危険な気がする。パパの世界では勝ったと思うときほど油断をしちゃいけないという意味の言葉があったはず。
たしかに勝利は近いかもしれない。だからこそ油断はしちゃいけないと思う。むしろ油断をできるほどに私たちに余裕があるわけじゃないんだ。だから油断はするべきじゃない。
「ヘン様。油断しちゃダメだよ。あの女は腐っても母神なんだ。なにかしらの隠し玉があってもおかしくないんだから」
油断しすぎのヘン様を諌めると、ヘン様は「むぅ」と少し唸ってしまった。でもすぐに「そうであったな」と調子を元に戻してくれた。
『あれのいまの姿は、あれ自身の油断から来るもの。であれば、我らが同じ轍を踏む道理はない、か。ここは徹底的に攻め落とす方がよかろうな。よし、感謝するぞ、カティ』
ヘン様はいくらか鼻息を荒くしつつも冷静になってくれたみたいだ。これで少しは安心できるかもしれない。でも完全に安心できるわけじゃない。
なにせあの女がいまなにをしているのかはわからないんだ。肩を大きく動かしてはいる。呼吸も荒い。地面に膝を着く姿は、敗走寸前のものと言えなくもない。
だけどあの女がこの世界の母神である以上、この世界の理をあの女が好き勝手にできることは事実。であれば、今度はどんな反則技をしてくるかはわかったものじゃない。
特にいまみたく絶体絶命と言えるほどに追い詰められている現状、あの女がどんな行動に打って出るかはわかったものじゃなかった。ならその手を打つ前に潰すのが得策だった。
『カレン! 手を貸せ! いまのうちにあの邪神を討ち滅ぼす!』
ヘン様が叫ぶ。その叫びにパパたちはそれぞれに頷いた。エレーンママはゆっくりと空を舞い、パパは剣を力強く握りしめ、サラママは大きく息を吸い込んでいく。そしてヘン様はゴンさんの代りにとばかり「刻」属性の魔法で周囲を埋め尽くしていく。
(これなら)
勝てる。そう私は確信した。だけど──。
「ふふふ。ははは、あははははは!」
──その確信をあざ笑うようにしてスカイディアが高らかに笑い始めた。笑い飛ばしながらその目が蒼い光を、「神気」を宿していくのがはっきりと見えた。
「いいでしょう。あなたたちを「おもちゃ」ではなく、私の「遊び相手」として認めてあげる」
スカイディアが笑う。その笑い声と同時にエレーンママがもう一度「神技」を放った。
体を回転させ、その回転が神器であるジールヘイズへと伝わって始まる神技「風牙穿」──。
スカイディアが必死で防御していた奥義とも言える一撃。その神技をスカイディアは──。
「ふふふ、ダメよ、エレーン。そんな中途半端が何度も通じると思って?」
──エレーンママを見ることなく、エレーンママの顏を掴むことで、その一撃を潰したんだ。「エレーン!」と叫ぶパパの声が空しくこだましていった。
通じた技が通じなくなるという絶望なラストでした←




