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Act9-337 スカイディアの限界

 本日二話目です。

「……パパもエレーンママも緊張感なさすぎると思うの」


 少し離れた場所でパパとエレーンママがなんとも言えないことをしていた。


 それまでパパを後ろから抱きかかえるようにしていたエレーンママがいきなりパパを背後に投げ落としていた。それもちゃんとパパを掴んだままでだった。


『ふむ。あれはなかなか理に適っておるな。投げ飛ばせばその分の力も加わるが、あの体勢だとその力に加えて投げる方の体重も加わる。よりダメージが期待できる投げ技だな』


 ヘン様はエレーンママの暴挙を見て、感心したような口調で言っていた。


(いや、まぁ、たしかに。たしかにそういう風に捉えることもできるけどさぁ。この緊張した場面ですることじゃないと思うのは私だけなの?)


 いま私たちがいるのが死地であることには変わりない。なにせ私たちが対峙しているのはスカイディア。この世界の創造主である真なる母神だった。その母神と対峙しているというのにも関わらず、エレーンママもパパもずいぶんとのんきなことをしてくれるのだもの。呆れるなと言う方がおかしいと思うの。


 だというのにヘン様ったら、まさか感心するなんて。それこそどうかと思うのは私だけなのかな? むしろ私の方がおかしいのかな?


(いやいやいや、そんなことあるわけがないの。むしろ私の方が正しいと思うの)


 そう。こんな状況でいきなり変なことをし始めるパパとエレーンママの方がおかしいよね。私は正しいはず。でもなぜだろう? この状況をおかしいと思う方がおかしいという雰囲気になぜかなっていた。これはいったいどういうことなんだろうか? 誰かに説明してほしいよ、切実に!


「……そもそもなんでスカイディアにサラママのブレスが効いたんだろう?」


 パパとエレーンママの行動の謎もあるけれど、スカイディアにサラママのブレスが効いた理由もよくわからない。パパとエレーンママの攻撃でスカイディアは両手が塞がっていたけれど、でもあの女はこの世界の「民」では、自分を傷付けることはできないみたいなことを言っていた。


 なのになんでエレーンママのブレスにあの女はあっさりと呑み込まれてしまったんだろう? うっすらと憶えているけれど、ゴンさんの弾幕じみた攻撃を受けても平然としていたのに、サラママのブレスを受けるときはあきらかにあの女は焦っていた。とてもらしくない反応をしていた。その理由はなんなんだろう?


「……どうやらスカイディアの無敵さには限りがあるようだな」


「みたいですねぇ~」


 ゴンさんとサラママがそれぞれに口にした言葉を聞いて思わず唖然としてしまった。


「限りがあるってどういうこと?」


 どうしてそんなことが言えるのかがいまいちわからなかった。だってゴンさんの「刻」属性の弾幕でも傷ひとつつけられないほどにあの女はこの世界の「民」相手では無敵の存在だというのに。その無敵には限界があるなんて言われても理解はできなかった。


「そのままの意味ですよぉ~。スカイディアはたしかにこの世界の「民」には無敵なのでしょう。でもぉ~、完全に無敵であるのであればぁ~、エレーンさんの神技に対してあそこまで慌てて防御するものでしょうかぁ~?」


「それは」


 たしかに言われてみれば、いくら神技であっても、「神器」の遣い手しか使えない神技であったとしても、この世界の「民」であるエレーンママの攻撃であるのだから、あの女の前では無意味のはず。なのにあの女は必死に防御していた。それまでは余裕たっぷりな表情だったはずなのに、一転して余裕がなくなっていた。言われていればたしかにおかしなことだった。


「でも、それって単純にエレーンママの攻撃が思っていた以上に強力だったからとかじゃないの?」


 だけど、それもあの女の想定をエレーンママが超えていたというだけのことかもしれない。だからこそ必死に防御をしていただけということじゃないだろうか? でもゴンさんは静かに首を振った。


「だとしてもだ。あの慌てようは明らかにおかしい。本当に無敵であれば、どんなに想定外の威力であったとしても必死に防御をするとは思えぬ。むしろあの女の性格であれば、あえて受けることで自分と我々の間の格差を見せつけようとするはず。なのにあの女は攻撃を受けまいとしていた。その理由は考えられるとすれば、あの女の無敵には限りがあるということだよ」


「もっと言えば、無敵でいられる上限があるということですねぇ~。それも威力ではなく、数という意味でですねぇ~」


「数?」


「ええぇ~、数ですよぉ~。人数と言ってもいいかもですねぇ~」


 サラママは笑っていた。笑っていたけれど、言われた意味はやっぱり理解できなかった。無敵なら人数がいくら増えたって変わらないんじゃないだろうか? そう思っていたのだけど、サラママとゴンさんは静かに首を振った。


「そう、たしかに無敵であれば人数なんて関係はない。だが、あの女にとっては関係ないわけではなかった」


「エレーンさんの攻撃を防ごうとしていたのはわかりませんが、その後の行動を見るかぎり、あの女が無敵であれるのはおそらく単独での戦いだけなんでしょうねぇ~。さきほどの姉様の攻撃は弾幕じみたなものでしたがぁ、姉様おひとりの攻撃でしかありませんでしたぁ。私の最初のブレスもそうですねぇ~。この世界の「民」でかつ単独での相手のみにおいてあの女は無敵であれるのではないかぁと思ったのですよぉ。おそらくは旦那様もそう思われたんでしょうねぇ~」


「単独の相手だけって、そんな中途半端な」


「たしかに中途半端だ。だが、仮に相手側で最強の者の攻撃を完璧に防ぎ切れたらどうだ?」


「それは」


 相手側の最強の人の攻撃が無意味に化したとしたら、それは相手にとって相当の衝撃を与えることになる。実際ゴンさんの攻撃が通じなかったことにパパたちは唖然としていた。それこそ絶望に近い状況にあった。それがあの女の目的だったとすれば、これ以上となく相手の心に、敵対する側に対してこれ以上となく絶望を与えることになる。それこそそれだけで相手の心を折ることだってできるはずだ。たしかにスカイディアが好んでやりそうなことだった。


「それがあの女の狙いだったのだろう。破れかぶれの総攻撃をしようとするものなどそうはおらん。それもある一定の領域を超えた実力者であれば、なおさらだ。となれば、だ。相手側の最強の者の攻撃をあえて受けることで自分たちではどうあっても敵わない存在だと思わせることがあの女のやり口だったとすれば、サラのブレスにあっけなく呑み込まれてしまうのも無理もない」


「単独ではなかったから?」


「うむ。単独相手には無敵であっても、複数の同時攻撃の前にはあの女の無敵は発揮されなくなる。いや、化けの皮が剥がれることになる。そもそもこの世界の母神であるあの女に対して複数での同時攻撃をしようと考える者などこの世界にはおらんよ。たとえその精神が邪神じみたものであったとしても、あれが創造主であることには変わりない。その創造主に本気で危害を加えようとする者はそうそういない。おそらくはそう思うこともまたあの女が仕掛けた罠なのかもしれぬがな」


「まぁ、旦那様には通じなかったわけですけどねぇ」


 ふふふとサラママは嬉しそうに笑っていた。まさかののろけで締められるとは思っていなかったけれど、たしかに言われてみればそうかもしれないと思えてくるのが不思議だった。


 いくら敵対しているとはいえ、あの女はこの世界の創造主だった。その創造主に本気で攻撃を仕掛けられる人はそうそういない。いたとしても単独か時間差での攻撃となるはず。単独ではなかったとしても時間差となれば、それはもはや単独と変わらない。その前提であれば、あの女が無敵となるのもわかる気はする。もっともその無敵がどうやって発揮されるのはわかるけれど、その無敵の理由がまだわかっていないのだから、あまり楽観視はできない。


 けれどその無敵を突破できる方法がわかった。あくまでも暫定ではあるけれど、可能性が高いことには変わらない。


「これからはみんな一斉で攻撃するってことでいいのかな?」


「うむ。少なくともいままでのように一方的な展開にはなるまい」


「いわば、ここが攻め時ですねぇ」


 ゴンさんもサラママも揃ってやる気になっていた。そのやる気がどういう字になるのかは言うまでもない。かくいう私もふたりと同じ意味でのやる気になっていた。


 本当のパパとママの仇をいまこそ討ってやる。自然と唸り声を上げつつ、あの女が呑み込まれた氷炎のブレスを見つめていると、ブレスが不意に散り散りになった。散り散りになったブレスの中心地には地面に膝を着いたあの女が、大きく肩を動かして呼吸をするあの女が座り込んでいた。

 続きは明日の十六時予定です、たぶん←

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