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Act9-333 さようなら、アルトリア

 ラスト注意です。

 アルトリアは困惑していた。


 でも当然だ。私が口にした内容はとてもではないが、まともなものじゃなかった。むしろ口にしている私自身が、自分で自分の頭の中身がまともであるのかを確かめたくなるような内容だった。


 だけど考えれば考えるほど。いや、考えうる限り、アルトリアたちの出自はホムンクルスでありながら、アンデッドであることを考えればこれ以上の答えはない。ホムンクルスであるはずのアルトリアたちから「死肉の臭い」が漂う理由。その理由は彼女たち自身がホムンクルスの遺体から作られたクローンであるということ。それも何代も、それこそ何十代も連綿と続けられた成果の結晶であるからだ。


(……正直この答えに至ってしまった私自身の頭の中身がまともなのかを確認したくはありますが、それ以上にこの荒唐無稽であり、そして生命への冒涜を本気でやろうとする連中の精神がまともであるのかを確かめたいところではありますがね)


 命を創造すること自体が、すでに生命への冒涜と言ってもいいことではある。その冒涜を何十回も繰り返したうえに、そうして産まれた命自身に次代の命を産ませ、その次代の命に殺させる。殺された命の遺体を元にそのまた次代の命を創造し、産ませて、やはり殺させる。ホムンクルスでありながらアンデッドである理由はそこにある。そう、そこにあるのだが、こうして改めて考えてもやはりそれは異常でしかない。いや異常を通りこして完全に狂気でしかない。その狂気の産物が目の前にいるアルトリア。


 だが、そのことをアルトリア自身は知らない。自分をただのホムンクルスとしか思っていない。それはきっといままでの「アルトリア」たちにはなかった反応だったに違いない。きっといままでの「アルトリア」たちは世代交代するたびに、いや、自身を殺し、自身の居場所を奪った「もうひとりの自分」に対する怒りと殺意を抱き続けていたことだろう。それは「アルトリア」だけではなく、「アイリス」や「アリア」も同じだったのだろう。


 だからこそ彼女たちのほかの姉妹は自慢げに、母親を殺したことを自慢げに語っていたのだろう。自身を殺した仇を討てたのだから、自慢げに話さないわけがない。


 しかしその狂気に終止符を打ったのが当代の「アルトリア」たち。すなわち目の前にいる彼女とその妹であるアイリスとアリアなのだろう。若干アリアはそれまでの「アリア」に引っ張られているところもあるようだが、アルトリアとアイリスは想定以上の出来栄えになった。だからこその「最高傑作」なのだと思う。


 連綿と受け継がれてきた狂気と戦闘力をその身に宿しつつも、まっとうな人のように振る舞える精神。それでいて創造主に対する絶対的な忠誠心。これ以上となく便利な手駒の完成と言ってもいい。……やはりどう考えても冒涜と狂気による産物としか思えないことではあるけれど。


(……もっともこれも全部私の推測にしかすぎないから、妄想と言われても否定はできませんけど)


 そう、あくまでもこれは私の推測。だが、いくらかある推測の中でももっともエグいものだった。その行為自体は主様の世界でいう「蠱毒」と同じ。無数の蛇や虫などの毒を持つ生物同士で殺し合わせるという狂気の産物。それと同じことを「アルトリア」たちは行い続けてきたという推測は、ホムンクルスでありながらアンデッドである彼女の理由を私なりに考えたものの中で、もっとも残酷なものだった。


 だがもっとも残酷な答えは、もっとも納得のいく答えでもあった。だからこそ思った。彼女たちの創造主である「お父様」とやらは狂いに狂った狂人だという結論に至っていた。


 とはいえ、やはり推測は推測でしかない。確証なんてなにもない。確証もない答えをあえて口にしているのは、アルトリアの心を折るため。再起不能にするために私はあえて確証のない答えを口にしていた。そう、確証はない。確証はなかったのだけど、いまのアルトリアを見るかぎり、どうやら事実のようだった。


「違う。そんなわけない。でも、でも、なに、なに、これ? 違う。知らない。こんなのは知らない!」


 アルトリアは過呼吸じみた吐息を繰り返しながら、頭を振り乱していた。顏は脂汗で覆われ、雪のように真っ白な髪を掻きむしるようにして乱し、その目からは光りが失せていた。……どうやらなにかしらの光景が、いままでの「アルトリア」たちが経験してきた光景でもフラッシュバックしてしまっているのだろう。残酷な光景を何度も何度も見せられているのだろう。


(……残酷なのは私もですね)


 あくまでも推測ではあった。でもその推測から開けてはいけない扉を開かせてしまった。それを残酷と言わず、


 なんと言えばいいのだろうか。


「せめて安らかに」


 アルトリアはもう私を見ていない。髪を振り乱しながら叫ぶだけ。隙だらけの彼女の胸を穿つのはとてもたやすかった。


「ぁ」


 小さくうめき声を上げながらアルトリアは神器の柄に触れた。「ごふっ」と大量の血を吐きながら、アルトリアの体からは力が抜けていく。


「さようなら、アルトリア」


 神器を引き抜くとアルトリアは両ひざを着いて倒れた。その胸から雨を想わせるような大量の血を噴き上げながら、アルトリアは地面に倒れ伏した。

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