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Act9-330 ホムンクルスだからこそ

2日も更新できずすみませんでした。

どうも風邪を引いた模様です。

次の更新はたぶん明後日になります。

効果は抜群だった。


アンデッドと言うだけでアルトリアは激情していた。


まぁ本人にしてみれば、謂われのないことだろうから怒るのも当然かもしれない。


でも本人にとっては謂れはなくても、現実的に彼女はアンデッドだった。


だが同時に彼女はホムンクルスでもある。


アンデッドであり、ホムンクルス。


意味のわからないことだとは私も思う。


だがそれが事実だ。


彼女はアンデッドでありつつも、ホムンクルスだった。


アイリスの「母親」を殺した話を聞いていて、不思議に思ったことがあった。


彼女たちには「お母様」がふたりいた。


アルトリアとアイリスをそれぞれに産んだ母親がふたりいたのだ。


母親たちは双子であり、それぞれにアイリスたちを産み落とした。だから四人はそっくりだった。

そこで私は違和感を覚えた。


だが、そこまではただの違和感ではあった。


いやまだ取るに足らないと思っていた。


話が進めばおのずとわかるだろうと思っていた。


しかし結果は変わらなかった。


まるでアイリス自身も知らないかのようだった。


そしてそれはおそらくアルトリアも同じなのだろう。


「姫君」


「なんだ!?」


「……激昂していてもちゃんと返事はするのね?」


「う、うるさい!母様たちにそう教わったから!」


顔を真っ赤に、怒りではなく羞恥で赤く染めながらアルトリアが叫ぶ。


一応の教育を母親たちに受けていたようだ。


だというのになぜ彼女たちは口にしないのだろうか?母親の名前を、だ。


アイリスもそうだが、アルトリアもまた母親の名前を口にしようとはしていない。


ふたりの母親は双子だった。


瓜二つの母親たちだった。


となれば自然と名前を呼ばなくては区別などできないだろう。


だが、アイリスの話の中で彼女たちは一貫して「母様たち」としか呼んでいなかった。


それでどうやって区別していたのだろうか?


双子の母親たちをどうやって区別していた?


そっくりだったという母親たちを、どうやって区別していたのだろうか?


名前を呼ぶこともなく。ただ「お母様」たちとしか呼ばすにどうやって区別していたのだろうか?

「姫君」


「今度はなんだ!?」


「お名前は?」


「は?」


「あなたたちのお母様のお名前は?」


アルトリアは困惑していた。まぁ、いきなり母親の名前なんて聞かれても困惑するでしょう。


でも彼女の困惑はそれだけではないようだった。


「名前、だと?」


「ええ。礼儀も教えてくれた。愛してもくれた。そんなお母様たちの名前。当然知っていますよね?」


あえてにこやかに笑いかける。アルトリアはいままでの激情がどこかに行ったように慌て出した。


(……この反応。間違いないか)


反応からして間違いはない。そう、間違いはないのだが、それは同時に憐れみを抱かせてくれるものだった。


「……どうしました?母親の名前を知らないとでも?」


「そんなわけがあるか!」


アルトリアは叫ぶ。


だが、そこまでだ。


それ以上先に続かない。


いや、続けられないようだった。


この先に続けるとすれば、それは母親たちの名前を言うこと。


しかし彼女は母親たちの名前を呼ばない。


いや、口にできないようだ。


それはそうだろう。


彼女は「母親」たちの名前を知らないのだから。


「……やはり知らないようですね?大好きな母親たちの名前を」


「違う!ただ、ただ、その思い出せないだけだ!」


「……大好きな母親たちの名前を忘れてしまったと?」


「それは」


アルトリアは狼狽えていた。


無理もない。


いままでの自分を支えていたであろう根幹が揺らされているのだから、狼狽えないわけがない。


狼狽えるのは当然だった。


だからこそあえて攻める。


申し訳なさはあるけども、これも致し方はない。

「ごめんなさい」と心の中で謝りながら、私は決定的なことを告げた。


「無理もないでしょうね。なにせあなたの母親たちには名前などなかったのでしょうから」


「……なにを言っている?」


言われた意味がわからない。アルトリアの顔にははっきりとそう書かれていた。そんなアルトリアに言葉での追撃を行う。


「言葉のままです。あなたたちが母親たちの名前を口にしないのは、単純に知らないからです。ですが、共同生活をしていたら名前を知らないというのはありえない。それも見目がそっくりな双子であればなおさらですよ。「~母様」と呼ぶはずです。シリウスちゃんたちだって、「~ママ」と呼んでいます。「母様」だけでは区別はできない。区別するには名前が不可欠です。だというのに名前を知らないというのは明らかにおかしい。しかし名前がなかったのであれば、知らなくても無理はないのです」


「……ふざけたことを言うなよ。名前がないなんてあるわけがないだろう?」


「いや、ありますよ?たとえば生まれた頃から奴隷であれば、奴隷の子であれば名前はありません。ですが、もうひとつ名前がない可能性があるものもあります」


「……なんだ?」


「名前を奪われたということですよ」


「名前を奪われる?」


意味がわからないとアルトリアの顔には書かれていた。


そう、これだけでは意味はわからないだろう。


だが、ここにひとつの仮定が加わると話は別だ。


「あなたに、いえ、あなたたちに名前を奪われたのですよ」


「は?」


唖然とするアルトリア。


母親たちの名前が自分たちが奪ったなんて言われても理解はできないでしょう。


だけど、アイリスの話を聞いて、同じ顔をしたほかの姉妹と殺し合ったと聞いて疑問に思ったことがあった。


なぜ同じ顔なのか、と。


なぜ母親たちとそっくりに産まれたアルトリアとアイリスと、同じ母親たちに産み落とされたわけではないほかの姉妹たちが同じ顔をしているのか、と。


「ほかの姉妹たちはあなたたちとそっくりだったのでしょう?」


「……アイリスから聞いたの?」


「ええ。もっとも彼女は主様にだけ話したつもりだったのでしょうが」


私が影に潜んでいるとは考えてもいなかっただろうけど、まぁそれはいい。


「それで姫君。あなたたちとほかの姉妹は同じ顔だったのでしょう?」


「そうだ。だが、それがなんだ?私たちはホムンクルスであって」


「だからですよ」


「なに?」


「ホムンクルスだから名前を奪われたのです。いえ、正確にはホムンクルスのクローンとでも言えばいいのでしょうかね?」


「……おまえはなにを言っている?」


わからないと。理解できないと。アルトリアの顔には書いてあった。


私が言っているのはあくまでも仮定の話。だが、考えれば考えるほど仮定は仮定でなくなっていった。そしてその仮定を私は口にしている。


正直言うべきかどうかは迷う。迷うけど、口にしておこう。少なくともこの女は再起不能にしておく方がいい。なにをやらかすかわらかない相手は先に潰しておくべきだった。「ごめんなさい」と心の中で謝りながら、私はあえてそれを口にした。


「あなたたちの「母親たち」は母親ではない。ひとつ前の世代のアルトリアとアイリスだったと言っている」


仮定でありながらも残酷な現実を私は伝えたんだ。

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