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Act9-328 世界の一部となれ

 断罪の刃──「空」属性の刃である「斬空」を放った。


 たかが「七王」風情にはすぎた攻撃だけど、私を怒らせたという罪を償わせるには相応しい致死の攻撃だった。まぁ、私自身が放つのはこれが初めてではあるのだけども。


「……やっぱり「空」属性はおかしいね」


『まぁ、表向きは究極と言われるものじゃしな』


 先代が呆れながら答えていた。呆れられるのも当然だった。だって「斬空」は初歩の魔法ではあるけれど、人間に放つには過剰すぎた。その証拠にひどい土煙が上がっている。たぶんあの男がいた周辺の地面はめくれ上がっているどころか、大きな竪穴ができているだろう。周辺の木々は再利用ができないくらいに粉々になっているだろうし。人間がいたら完全に細切れになっている。


 だからこそアイリスさんには先に行くように伝えた。レアママの体を連れて行ってもらったんだ。「斬空」を使えばレアママを巻き込むことになるのは必定だもの。私はレアママの体をこれ以上傷付けたくなかった。だからアイリスさんに頼んだわけだ。でもその甲斐あってレアママの体を傷付けることなく、あの男を殺すことができたわけだ。……周辺の被害はまぁ致し方がないかな?


『仕方がないであるか、バカ者が』


 ……致し方がないと思っていたら、先代に怒られてしまった。……やっぱり被害を出しすぎだったかな? まぁ、下手したら周辺の地形が変わっているだろうから、怒られるのも無理もないかな。


『この程度のことで「神獣化」しおって。スカイディアに対するまでは、なるなと口が酸っぱくなるほどに言っておいただろうに』


「……この程度のことじゃない」


『……わかっておる。だが、それでも耐えねばならぬことだった。そなたは散々耐えてきたではないか。それを無駄にしおって』


「……ごめん、なさい」


『ふん。謝ったところでもう遅いわ。完全に台無しじゃ。まぁ、そなたらしいと言えば、そうだがのぅ。まったくいったい誰に似たのかのぅ? その直情的なところは』


「……たぶん、パパかな?」


『あぁ、「我が君」か。たしかにあの方はわりと直情的じゃのぅ。「悪魔」の方が冷静であるからこそ、なんだろうがな』


「……そうだろうね」


 パパはわりと直情的だった。その理由はたぶん「悪魔」が冷静だからだ。いや、冷酷だからか。だからパパは無意識のうちに直情的な性格になっている。無意識のうちに「悪魔」を否定しているんだ。だからすべてが「悪魔」と対照的になっている。「悪魔」を否定し、自分こそが「本物」だと言うかのように。


「……パパには本当に困るよね。でも」


『そういうところが大好きなのじゃろう?』


 喉の奥を鳴らして笑う先代。なんとも言いづらいことを言ってくれた。「ノーコメント」とだけ言うとようやく土煙が晴れ始めていた。


「ようやく土煙がなくなるね」


『そうじゃのう。まったく過剰すぎ──なに!?』


 先代が驚いていた。


 普段感情を律している先代が驚くなんて珍しかった。


 でもそうなるのも無理もない。


 だって私もいま驚いていた。


 私たちの前にはありえないものが存在しているのだから。


「……ふふふ、さすがは神獣王殿の一撃。かなり堪えましたぞ」


 土煙の向こう側に人影が見えた。いや人影どころかあの男の声が聞こえていた。


『バカな。初歩とはいえ、「空」属性に耐えたというのか!?』


 信じられない。先代の声は驚愕していた。目の前で起きていることを信じることができないでいるようだった。なにがあったのかも先代はわからないようだった。


 私自身なにがあったのかさえわからない。わからないまま土煙は晴れていった。そして「斬空」の被害がどれほどであるのかを目の当たりにした。


「……さすがに死ぬかと思いましたぞ」


 あの男は息も絶え絶えになっていた。見れば服はズタズタに切り刻まれていた。その下の肌は血だらけどころか、ところどころで骨が見えていた。いや、骨まで斬られるのを避け、肉だけを切らせたんだろう。それでもあの男の被害は甚大だった。すでに死に体と言ってもいいほどには。


 ただ不思議なことにあの男の足場付近だけはきれいな円形で残っていた。それ以外は断崖絶壁を思わせる深い縦穴ができている。あの体では縦穴を飛び越えるのもやっとだろう。そう思えるほどの重傷だった。


『なぜ、生きているのだ?』


 先代はまだ理解できていないみたいだったけど、私にはなんとなく理解できた。


「……「天盾」で耐えたのか」


 あの男の足場だけは円形に残っていることを踏まえると「天盾」で自身の周囲を覆ったんだろう。……正直無茶にもほどがあることだけど、その無茶をやり抜かれたのであれは致し方はない。


『なにを言うか! 「天盾」程度で「空」の力に耐えられるわけが──』


「……想いの力」


『なに?』


「大切な人を想う力はとても強い。だからこそあの男も耐えられんだと思うよ」


『バカを言うでない! たかがその程度のことで──』


「でも現象としてあの男は生還した。それが答えだよ」


『む、むぅ』 


 先代は生まれつき強大な力を持っていたからわからないだろうけど、私にはわかる。大切な人を想う力はとても強い。その力が「空」属性をわずかに凌駕したんだ。信じられないことではあるけど、人の想いの具現とも言える「勇者」を経て、「英雄」に至ったこの男であれば可能性はあったんだろう。


 要は私たちがこの男の底力を見謝っていたというだけのことだった。


「……驚嘆に値する。竜王、いや、ベルセリオス」


「恐悦至極ですな」


 死に体で笑う竜王ラース。いや、英雄ベルセリオスを心の底から讃えた。だからこそこの男は念入りに殺すべきだった。


「貴様は殺しても死ななそうだ。ゆえに死ぬまで殺すことにしよう」


 ベルセリオスの周囲をさきほどの2倍の「斬空」と「弾空」──他の属性で言う「球」系の魔法の弾幕で覆っていく。


「……これは」


 ベルセリオスの表情が絶望に染まる。


「ひとついいことを教えてやる。この程度であれば、我は一昼夜続けられることも可能だ」


 ベルセリオスの目が見開かれる。その表情を見て少し溜飲は下がった。だがもう遅い。


「さぁ、世界の一部となれ。英雄ベルセリオス!」


「空」による弾幕。逃れようのない死の攻撃を私は放った。ベルセリオスは呆気ないほどに致死の攻撃に呑み込まれていった。

 今夜十二時より八月の更新祭りです。

 今回もちょっと少なめですが←汗

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