Act9-322 せめて別れを
本日一話目です。
引き続き香恋視点です。
カルディアを喪った。
「獅子の王国」のときと同じだ。
あのときも俺はカルディアを守るどころか、カルディアに守られてしまった。
どうして俺はいつもこうなんだろう?
どうして俺はいつも守りたい人を守ることができないんだろうか?
どうして俺はこんなにも弱いんだろう?
もっと強ければ守れるのに。守ってあげられるはずなのに。
なんで俺は誰も守れないんだ?
どうして俺はいつも大切な人を死なせてしまうんだろう?
「カルディアママ」
カティが涙を溜めていた。
カルディアと触れ合っていた時間はそう多くない。
けどカティはカルディアをママとして慕っていた。
そのママを目の前で喪ってしまった。その悲しみがどれほどのものであるのかは考えるまでもない。
(せめてカティにお別れをさせてあげなきゃ)
シリウスはいない。
どうしてシリウスがいないのかはわからない。
シリウスはカルディアと一緒にアルトリアを抑えていたはずだった。
そのカルディアは死体となってアルトリアに連れてこられた。
ではシリウスはどうしたのだろう?
あの子は無事なのかな?
でもそのことを尋ねる気力さえない。アルトリアも答えることはできなさそうだ。
右手首を抑えて蹲っている。手首から先はなくなっていた。
(……あぁ、そういえば俺がやったんだっけ?)
カルディアの髪を掴んでいた手を斬り落としたんだった。
カルディアの体をこれ以上誰にも傷つかせたくなったから。
だから斬った。不思議と躊躇いはなかった。斬ったという感触さえもなかった。
ただ自然と剣を振るっていた。
(……不思議だな。あれほど恋焦がれていた相手だったのに。重傷を負わせてもなんの悲しみもない。ただあたりまえのことをしたとしか感じられない)
不思議と悲しみはなかった。アルトリアを傷つけたというのに、不思議と悲しみはなかった。ただわずかな切なさはある。
けどそれがアルトリアを傷つけたへからなのか、カルディアを喪ったからなのかは判断がつかなかった。
「……カルディア」
声を掛けるけど、カルディアは応えてくれない。まぶたをぎゅっと閉じたままだった。
(眠っているみたいだ)
この腕の中で死を受け止めるのは3回目だった。
1回目はモーレ。2回目はカルディア。そして3回目もカルディアになった。
愛する人の死を2回も経験するなんて俺くらいじゃないかな。それも同じ人を2回も喪ったのは俺以外にはいないだろう。
「……少しだけ待っていてカルディア。すぐにカティのところに──」
「行かせませんよ!」
不意に声が聞こえた。振り返るとアルトリアが左手に剣を持って振りかぶっていた。
目は相変わらず血の瞳のまま。よく見ると脂汗を掻いている。
その状態でよくやると思うけど、苛立ちの方が強かった。
「邪魔をするなよ」
右腕でカルディアを抱き締めながら、空いた左手でアルトリアを攻撃しようとした。
でも不意にまた人影が踊りこんだ。
「……主様の邪魔はさせません」
影の中から彼女は現れた。その手に風の神器たる「ジールヘイズ」を握りしめて、アルトリアの攻撃を受け止めていた。
「……エレーン」
「ここは私が抑えます。いまのうちにカティちゃんに彼女とのお別れをさせてあげてくださいまし」
エレーンは顔だけを振り返っていた。仮面から覗く目は悲しみに染まっている。
「……すぐ戻るよ」
「いえ、ごゆっくりどうぞ、主様 」
エレーンは笑った。
でもその目はやはり悲しそうだった。
そんなエレーンを眺めつつ、俺は背を向けた。
「待ってください、「旦那様」! 私にその雌犬の死骸を壊させて──」
「黙りなさい、気狂い女。主様の悲しみも理解できないのですか!?」
「うるさい! 私は「旦那様」と話をしているの! 天使ごときが邪魔をするな!」
アルトリアとエレーンの叫び声が交錯していた。それぞれの得物の音もまた。
でもそれらの音を置き去りにして俺はカルディアをカティのもとへ向かった。
どうしようもないほどにぽっかりと開いた穴を感じながら、冷たくなったカルディアをカティのもとにまでに連れていったんだ。
続きは十六時になると思います。
ただスマホで更新するので、ちょっと体裁がががががが←




