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Act9-308 命を燃やし尽くしても

少し遅れました←汗

あと今日は昨日の夏コミの影響と言いますか、続きを書かずに寝てしまったので、一話更新だけになります。加えて「おたま」の方も書けていないので、更新が大きくずれ込みます。ご了承ください←汗

 なんとも言えない気分だった。


 俺の隣にいるのはアルクのバカだ。そして目のまえにいるのはクラウディウスのおやっさんだった。俺とアルクの仲間だった。


 でもその仲間はいまや外道に堕ちた。いや、もともと外道だったのか。魔物であるとは思ってもいなかったけれど、腹に一物を抱えていることはわかっていた。ただそれは聖職者に非ざる女色に狂っているという程度の印象だった。


 その証拠にクリスティナを見るおやっさんの目つきはいつもどこか怪しい輝きに染まっていた。その一方でアルゴとの関係を祝福もしていた。それも上っ面だけではなく、心の底からの祝福をしているようだった。


 正直俺にとってのクラウディウスのおやっさんはどういう人物なのかは読み切れなかった。色情魔のような部分もあれば、聖職者らしい清廉さもある。本当のこの人はどっちなのかはまったく理解できなかった。


 そこにまさかの実は魔物でしたなんてオチが待っているとは考えてもいなかった。そしてアルゴを喰らうなんてこともな。


「ちっくしょぉぉぉぉぉ、なんで俺はモテねぇんだよぉぉぉぉぉ! 姉ちゃんばっかりずるいぞぉぉぉぉぉ!」


「……ですから、そううやってがつがつとしているからこそ女性が引いてしまうわけでありましてな?」


「うっるせぇぇぇぇぇ! 好みの女の子を見つけて声をかけない方が男として問題だろうがぁぁぁぁぁ!」


「あー、いや、まぁ、たしかにそうとも言えますが。それでもアルク殿は女性の胸部をじっと見つめすぎですし、あからさまな態度すぎてかえって引かれてしまうわけでして」


「女性の胸は男にとってドリームだろうがぁぁぁぁぁぁ! そのドリームを前にして見ないことの方がはるかに失礼だろうよぉぉぉぉぉ!」


「……ちょっとアスラさん? あなたの幼なじみをどうにかしてもらえませんかな!? この人色ボケにもほどがあるんですが!?」


「色ボケてこその男だっつってんだろうがぁぁぁぁぁ!」


「物には限度があるんでずぞ!?」


「限界を超えろぉぉぉぉ!」


「意味がわかりませんぞ!?」


 ……どうやら現実逃避の時間も終わりのようだ。というか、それまでのまじめな空気がアルクのバカのせいで消えてなくなってしまったんだが。なんだよ、このグダグダとした空気は? 本当にあのバカはいい加減にしてほしいぜ。さっきから叫ぶ度に俺の方を見ていやがるし。俺に向かって叫ばれても困るんだがなぁ。


 もっともそのバカのバカすぎる姿を見て、「あいつらしいなぁ」と思ってしまうあたり、俺もいい感じに毒されているんだろうなぁ。なんだかんだでも十数年もの付き合いだから、あのバカに毒されてしまうのも無理もないんだろうが。そしてまた俺を見てくる。もうわかったから、やめてほしいものだ。


 とはいえ、そのバカの本当の家族があのカレンさんだとは思っていなかったが。はじめに帰化されたときは驚いたもんだ。いくら男女という違いがあるからと言って、まるで似ていないんだから驚くの無理もなかった。


 けれど、見た目はまるで違うが、カレンさんとアルクは中身がよく似ていた。なんというか、自然と人を惹きつけてしまうという部分はそっくりだし、誰かのために自分を犠牲にしようとするところもやはり似ていた。


 ただアルクの言う通り、カレンさんはよくモテるのだけど、アルクはまったくモテないという悲しい差があるのはどうにかしてほしいなと思うんだがな。それもカレンさんがモテる相手はたいていアルクの好みそうな女性というのは、一種の罰かなにかなのかと思わなくもない。


 まぁ、単純にカレンさんが紳士的な態度を取り、アルクがあけすけな視線で胸をガン見しているという違いがあるからこその差なんだろうが、そのことをアルクは理解してくれない。どころか、男としては当然のことだと言い切ってくれた。


 まぁ、言いたいことはわかるんだ。たしかに女性の胸というのは大抵の男は見ちまうもんだから。だからアルクの言うことにも一理あるんだよ。


 ただそれをあんなにもあけすけに言う必要はない。というか、もっと我慢しろと言いたいな、俺としては。いや、むしろ好みの女性に出会っても最初は寡黙でいてくれと言いたい。黙っていれば美形なんだから、余計なことを口走らなければ好みの女性にも興味を持たれやすいはずなんだ。


 しかしアルクのバカはそのことをやはり理解しておらず、好みの女性に出会うとまっさきに近づき、そして──。


「やぁ、俺勇者アルクです! さっそくだけど、付き合ってください! むしろ結婚してください、お願いします!」


 ──なんともアホなことを抜かして土下座をさらしてくれる。……当然そのあとの女性の反応は言うまでもない。


 だというのに「なんでモテないんだ?」はねえだろうよ。普通に考えれば、好みの女性を見つけたら、真っ先に近づいていろいろとかっ飛ばしたことを言ったら、誰だって引くわ!


 そしてその女性に対して俺がフォローせにゃならん。そのたびに俺が惚れられてしまうという、なんとも言えない状況になってしまうんだよな。おかげで何度アルクから恨みがましい視線を向けられたかはわからん。俺だってモテたくてやっているわけじゃないんだが、そのことをあいつは理解してくれない。それでもそんなバカの面倒をいまのいままで見てきたんだから、本当に腐れ縁だ。そう、腐れ縁だからこそわかることもある。……チラチラ見られすぎてそろそろ鬱陶しいというのもあるがな。


「おう、止めてやるよ」


 アイテムボックスから細長い筒を取り出す。そしてその筒をおやっさんの目の前にと放り投げた。おやっさんは「なにをして」と意味がわからないと顔に書いてあった。そんなおやっさんの目の前でその筒は爆発した。ただし爆発した筒からあふれ出したのは炎じゃない。あふれ出したのはまばゆい光だった。


「な!?」


「行け、アルク! ここは俺が受け持ってやる!」


「感謝するぜ、アスラ!」


 まばゆい光におやっさんの目は眩んでいた。その隙を衝いて、アルクはカレンさんたちが向かった山頂へと向かっていく。


「あ、アスラさん! あなたはまさかずっとこれを!?」


「ああ。いくらあのバカでも場所と状況は弁えるさ。それをあえてしたということは、本当にするべきことのための布石ってところだ。今回の場合はカレンさんたちのもとへと向かうために、俺に足止めをしろと言っているってことさ。その証拠に何度も俺を見ていたしな」


「た、たしかに見てはいたようですが。まさか、言葉も交わさずに、仕種だけで」


「おいおい、俺を誰だと思っているんだ? 俺はあのバカ勇者の幼なじみで親友で、そして最初の仲間だぜ? あいつの考えることなんて、あいつの言いたいことなんて言われなくてもわかっちまうよ」


 そう、わかっている。あいつがそこまでしてカレンさんの元へと向かいたいということは。だが、それでも躊躇していたのは俺単独ではおやっさんにはかなわないというのがわかっていたからだ。


 それでもあいつはカレンさんを優先した。どれほどの葛藤があったのかは考えるまでもない。なら俺ができるのはあのバカの背中を押してやること。ただそれだけだった。


「さぁ、やろうぜ。俺の命が尽きるまであんたには俺と遊んでもらう!」


「……人の絆というものを甘く見ていましたか。であれば、その絆をここでつぶさせていただきましょうかね」


 目の眩みも治ってきたのか、おやっさんは表情をなくしていた。


(やれやれ、これは死んだなぁ)


 あのバカの世話をしないといけないが、俺がここで生き残ることは無理だろう。ならばせいぜい派手にやるとしよう。それがあのバカの幼なじみとしての最後の仕事だ。


「我が命の輝き、しかと見よ!」


 らしくない口上を口にしながら、俺はおやっさんへと向かっていく。腹の底から雄たけびを上げながら、命のすべてをぶつけ始めた。

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