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Act1-35 逢魔が時

 アルトリアからの、思わぬカミングアウトに、頭が痛くなった。


 なにせ夜な夜な、人が眠っているのをいいことに、既成事実を作ってくれていたのだから。


 まぁ既成事実というには、ちょっと弱い。


 なにせ証拠なんてなにもないのだから。


 それじゃ本来は既成事実にはなりえない。そう、本来であれば、だ。


 だが、アルトリアのしていたことは、俺に対しての既成事実というには弱い。


 そうあくまでも俺に対してはだ。


 外堀を埋めるという意味合いでは、既成事実になりえた。


 その日の朝のアルーサさんの言動がその証拠だった。


 普段あんなことを言わないはずのアルーサさんが「きのうはおたのしみでしたね」なんてバカなことを言い出すなんておかしいと思っていた。


 けれどアルトリアが夜な夜なそういう既成事実を作っていたとすれば、アルーサさんが、あんなバカなことを言い出すのもわかる。


 というか言うよ。アルトリアの言い方からして、途中から声を出しているみたいだし、その声を聞かれているということだろう。


 これは確実に俺の失態だった。


 みんなからかうにもほどがあると思っていたけれど、からかっていたわけではなく、事実を言っていたまでのことだったんだ。それもアルトリアの自作自演の事実を。


 いや、自作自演とは言えないか。


 俺は寝ながらではあるけれど、アルトリアに手を出しているわけだから、自作自演とは言えないはずだと思う。


 正直それでも自作自演だと言いたい気分ではあるが、そんなことを言ったところで、誰も聞いてくれそうにはない。


 なにせ夜な夜なアルトリアのソウイウ声が、俺の部屋から漏れているわけなのだから、自作自演なんてとてもではないけれど、言えないよね。


 やられたと思うし、やってしまったとも思う。


 そもそもアルトリアがなんの考えもなしに、毎朝全裸で一緒のベッドで寝ているわけがなかった。


 なにかしらの意味があると思うべきだった。


 そのことに思いつかなかった時点で、この劣勢は決まりきっていたのかもしれない。


 本当にアルトリアは恐ろしい子だ。わかっていたことだったけれど、それを再確認した気分だ。


「どうされましたか? 「旦那さま」」


 ニコニコと笑うアルトリア。


 相変らず俺の手をその胸部装甲に触れさせながら笑っている。


 離したいところではあるのだけど、アルトリアは俺の手の甲の上からみずからの手を置いてくれている。


 つまりはみずから押し付けてきている。既成事実をそれほどに作りたいのかと、ちょっと怖くなる。


 俺はノンケだ。そう、あくまでもノンケだ。


 多少自分でもちょっとノンケと言い切るには、無理があるかなぁと思わなくもなかったけれど、ここでノンケではないと言い切ること自体がまずい。そうなれば、あっというまに食われる。性的な意味で。


 恋人同士であれば、ソウイウことをするのは、当然だとは思う。


 恋人同士なんだから、いいじゃんと言われてしまえば、よほどのことがない限り、反論はできない。


 まぁ、まだ若い身空の上で子供ができてしまったら、いろいろと言われてしまうだろうけれど、俺とアルトリアの場合は同性だから、子供はできないから問題はない。


 そう子供ができないという意味であれば、問題はないんだ。


 問題があるとすれば、俺とアルトリアが恋人ではないってことだ。


 もっと言えば、俺はアルトリアを恋人として見ることができないということ。


 ずっと一緒にいてほしいとは思う。


 いなくなってしまったモーレの代りに、俺の隣にいてほしいとは思う。


 けれどそこまでだ。その感情が愛情になることはない、と思う。


 でもそれを言う気はない。言えば、アルトリアを傷つけるだけなのは、目に見えていた。


 俺にできるのは、アルトリアを傷付けないように、いまのままを続けていくことだけ。


 それが最低な行為だっていうのはわかっている。


 意味のない希望を与え続けるよりかは、さっさと希望を切り捨ててあげたほうが、アルトリアのためになる。


 本当にアルトリアのことを考えているのであれば、まだ傷が浅いであろう、いまのうちに、完全に拒絶してあげるべきだった。


 そうわかっている。わかっているのに、俺はなにもできない。


 アルトリアのしたいようにさせることしかできない。


「……なんでもないよ」


 ため息混じりに、俺はそう言った。


 アルトリアはそうですかと嬉しそうに笑った。


 なんで笑うのかはわからない。


 わからないけれど、その笑顔は、とてもきれいで、同時にこれ以上となく、俺の心を抉ってくれた。


「……部屋に戻るよ。アルトリアはどうする?」


 デスクから立ち上がると、アルトリアはシリウスを抱えた。


 シリウスは、たいてい執務室にいる。


 本当なら中庭で駆けまわらせてあげたいところだけど、毛並みの珍しいウルフでしかないシリウスを、中庭に放つのは、いささか憚れた。


 下手をすれば、誘拐される可能性だってある。


 いや誘拐だけで済めばいい。


 これがもしシリウスの生皮を剥いで、毛皮のコートなんてものにされてしまったら。


 そう思うと、シリウスをひとりで中庭に放つことはできない。


 毛並みは珍しくても、シリウスはまだEランクのウルフでしかない。


 せめてDランクのブラックウルフかホワイトウルフに進化してくれないと、ひとりで遊ばせておくということはできなかった。


「シリウスちゃんを、お連れするので、ご一緒いたします」


 アルトリアに抱えられて、シリウスは満足げな顔をしている。


 犬の表情はわからないけれど、シリウスだけであればわかる。


 アルトリアに抱きかかえられているときのシリウスは、いつも嬉しそうにしている。


 アルトリアが好きだからなのか、それともアルトリアの胸部装甲がちょうどいい大きさだからなのか。


 どちらであるのかは、判断がつかない。


 アルトリアが好きであればまだいいが、その胸部装甲に惹かれているというのは、できれば勘弁願いたい。


 だってシリウスがそうなってしまったら、ナイトメアウルフに申し訳なさすぎる。


 ナイトメアウルフであれば、たぶんおかしそうに笑ってくれるだろうけれど、ショックを与えかねないことはするべきじゃない。


「……あんまり、シリウスを、甘やかすなよ?」


「それは、ヤキモチですか、「旦那さま」」


 ナイトメアウルフの忘れ形見であるシリウスの将来を思えばこそ言ったわけだったのだけど、アルトリアにはあっさりとそう返されてしまった。


 というか、なぜそうなるのかが、俺には理解できなかった。


 どこに俺がヤキモチを妬く要素があっただろうか。


 そんな要素など皆無だったはずだ。なのになぜそんなことが言えるのか、まるで謎だ。


 それを言ったところで、アルトリアは聞いてくれやしないのだろうけれど。


「勝手に言っていろ」


「はい。では、勝手にそういうことにしておきますね」


 ドアへと向かうと、アルトリアは俺の一歩後を追いかけてくる。


 昔ながらの良妻賢母かと言いたかったが、不思議とアルトリアには似合っていた。


 というか、アルトリア以上に、その言葉が似合う子はいない。


 本当に美人さんは得だなと思いながら、俺はアルトリアとシリウスを連れて、自室へと戻った。

明日は日付変わってすぐに更新だぜよ←エ

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