Act9-296 管制人格
本日二話目です。
言われた意味がよくわからなかった。
「俺が偽物?」
俺が偽物とスカイディアは言った。けれど言っている意味がわからない。
俺は偽物じゃない。そもそも鈴木香恋には本物も偽物もない。いまここにいる俺が鈴木香恋であって、そこには本物も偽物も存在しない。
でもスカイディアは俺を偽物と言った。どういうことなのかがわからない。
けれどそんな俺を見てもスカイディアは笑っているだけだ。
対してドラームスさんはなにも言わない。
けれど、どこか痛ましそうな雰囲気を纏っているようだった。その雰囲気のまま俺をじっと見つめていた。
どういうことなのかがよくわからない。わからないけれど、その反応が事実を物語っているように思えた。
「ふふふ、答えてあげないの、ドラームス?」
「……」
「あらあら、だんまりなの? かわいそうねぇ。その子、まだ自分のことを「カレン」だと思い込んでいるのに。いや、思い込まされているのよ? 救ってあげるのが優しさではないかしらねぇ?」
「……それ、は」
ドラームスさんの声は沈んでいた。いや、声だけじゃない。その顔さえも沈んでいる。まるでどうしようもない苦渋に苛まされているようだった。
どうしてそんな表情をドラームスさんが浮かべているのかが俺にはわからない。わかりたくなかった。
「ドラームスさん? どうしてそんな」
「……なんでも。なんでもないのです、神子様。ですから、どうかお心を」
「あっはっはっは! なぁに? まだ続けるの? そのつまらないお遊戯を? 言っているじゃないの、そのお遊戯を続けたところで意味なんてないんだから、って。それ以上続けたところで意味はないわよ? むしろそれ以上続けたらその子の心が本当に壊れてしまうと思うのだけど? それとも壊したいの? あぁ、そうよね? だってその子は所詮本物の「カレン」を──」
「黙れ!」
ドラームスさんが叫んだ。ゴレムスさんくらいにしか使わなかった言葉遣いをスカイディアに使った。なんともらしくない。あまりにもらしくない姿だった。
「ふふふ、嫌よ? だって本当のことだもの。そもそもあなたに命令される筋合いはないわ。だって私こそが母神だもの。だからあなたがなにを言おうと黙ってなんかあーげない」
ふふふ、と心底おかしそうに笑うスカイディアにドラームスさんが「貴様」と怒りをあらわにしていた。
いったいなにがどうして怒っているのかがわからない。なにもかもがわらかなかった。
情報量が多すぎるというわけじゃない。情報があまりにも突拍子がなさすぎて理解ができなかった。
でもそんな俺を無視するように、いや、言い聞かせるようにスカイディアは続けた。
「いい、カレン? あなたはね、さっきも言った通り、偽物なのよ。あなたは本物の「カレン」ではないの。あなたは本物の「カレン」を封じ込めるためだけの存在なのよ」
「封じ、込める?」
「ええ、そうよ。だって本物の「カレン」は──」
「やめろ! スカイディア! これ以上神子様のお心を!」
「嫌だって言ったでしょう? そもそもあなたに命令される筋合いなんてないのよ。だから黙るのはあなたの方よ、ドラームス」
スカイディアがドラームスさんへと掌を向けた。スカイディアの前で飛んでいたドラームスさんの体が不意に地面に叩きつけられた。まるで地面に縫い付けられてしまったかのようにドラームスさんは動くことができなくなってしまった。
「す、スカイディア! 言うな! これ以上なにも、なにも言うんじゃない!」
「ふふふ、お断りよ。というわけで、真実を教えてあげるわ、カレン。いいえ、「蓋」の子よ。あなたは本物の「スズキカレン」を、化け物のような力を持って産まれた「スズキカレン」を封じ込めるためだけにスカイストが「スズキカレン」に植え付けた存在。化け物を抑え込むためだけに創造された名もなき人格、言うなれば管制人格でしかないのよ」
スカイディアは笑っていた。笑いながら俺という存在をはっきりと否定したんだ。
続きは十六時になります。




