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Act1-34 嫁(自称)が積極的すぎて

本日二話目です。

「どうぞ、「旦那さま」」


 アルトリアが、紅茶を差し出してくれた。


「ありがとう」」


 差し出された紅茶を啜る。


 ダージリンのセカンドフラッシュに近い、コクのある味が口の中に広がっていく。


 少し疲れが取れたように思えた。


「お疲れのようでしたので、少々お砂糖を多めにしておきました」


「疲れたら、甘いものだからね」


「ええ。甘いものは、疲れたときには最適です。食べ過ぎるとすぐに体重に現れてしまいますけど」


 アルトリアが笑った。自然と俺の目はアルトリアの胸部装甲に向けられていた。


 自分でも気づかないうちに、そのけしからん、たわわなものを見つめていた。


 食べ過ぎると体重に直結するというが、どう見てもアルトリアは痩せている。


 余計な脂肪などあるように見えない。ごく一部を除いて。


 いや、その体重に直結するという戯言も、おそらくはそのごく一部に集中するということなのだろう。


 昼間に見た限り、上半身にはそのごく一部を除いて、余計な脂肪は見当たらなかった。


 むしろアニメや漫画のヒロインみたく、出ているところは出ているのに、引っ込んでいるところは引っ込んでいるという奇跡のようなスタイルをしていた。


 出るところを出そうとしたら、引っ込めたいところも当然出てしまうものだ。


 むしろそれが普通だ。それがリアルだ。


 出るところは出て、引っ込むとこは引っ込んでいるというのは、ファンタジーにしかすぎない。


 ゆえにぽっちゃり系女子が、男にモテるということになる。


 なのに、アルトリアと来たら、ぽっちゃり系ではない。


 なのに、出ているし、引っ込んでいる。


 地元の友人たちが、アルトリアを見たら、全員「ふざけんな」と言ってくれるだろう。


 もしくは「どうやったらそうなれるの」と食いついてくるはずだ。


 ちなみに俺は「ふざけんな」派だ。


 アルトリアの奇跡のスタイルの秘訣を知りたいところだが、知ったところで見せたい相手もいない。


 それにだ。


 アルトリアがなにか特別なことをしているようには見えなかった。


 三食をそれなりに食べて、事務職ゆえに、ほとんど動かないというのに、体型の変化があまり見受けられない。


 いやないわけじゃない。ただそれはごく一部にまた脂肪が集中しているように見えるということ。


 やはり友人連中が知れば、「ふざけんな」と言いたくなるような事実だった。


「どうかなさいましたか? 「旦那さま」」


 アルトリアが首を傾げた。


 俺の仕事が終わってから、アルトリアは俺のことを「旦那さま」と呼んでいた。


 仕事が終わるまでは、「ギルドマスター」一択だったのに、仕事が終わったとたんに、プライベートモードに切り替わったようだ。


 公私をきっちりと切り替えるというのは、実に仕事人間らしいやり方だったし、アルトリアらしいとも言えた。


「いや、アルトリアさ」


「はい?」


「デカくなっているよね?」


 じーっとアルトリアのごく一部を見やる。


 アルトリアは慌てて胸を隠し、頬を染めた。


 俺のことを「旦那さま」呼びするくせに、胸を見られるのが嫌というのは、なんだかおかしい気もする。


 とはいえ、俺がじーっと見ていたら、そのまま胸元を露出するようになったら、ちょっと困るけれど。


 だがアルトリアはまだ恥ずかしがっているし、隠してもいるからいいだろう。


「……「旦那さま」をお慕いしているからかと」


「いやいや、そんなわけが」


「もしくは、「旦那さま」に毎晩マッサージをしてもらっているおかげかと」


「そっか、マッサージかって、え?」


 胸部マッサージ。またの名を豊胸マッサージ。要は胸を揉むってことだ。


 よく聞くことではあるが、効果は個人差があるとは聞いていた。


 久美さんも毅兄貴に頼んで、してもらっているという話だったけれど、効果があまりないと嘆いていたが、アルトリアの場合は効果があるようだ。


 そう豊胸マッサージが、アルトリアには効果があった。


 それはいい。個人差だから、効果がある人もいれば、まるで変わらない人がいるのも不思議じゃない。


 うん、それ自体はいい。


 問題なのは、俺がアルトリアにそういうことをした記憶がないのにも拘わらず、アルトリアが俺に毎晩してもらっていると言ったことだ。


 俺はいつからアルトリアにそんなセクハラまがいなことをしたのだろうか。


 どれだけ慎重に、記憶を探っても、一切した覚えはなかった。


 だがアルトリアは、頬を染めて俺を見つめている。


 そのまなざしは、なにかしらの嘘を吐いているようには見えないものだった。


 つまり俺はいつのまにか、アルトリアに豊胸マッサージをしてあげているということだ。


 だが、そんな憶えはない。


 なにが悲しくて、同性の胸を揉まなければならないというのだろうか。


 かと言って異性の胸を揉みたいとは思わない。


 どうせ揉むのであれば、同性の、かわいい女の子の胸を揉みたいよ。


 野郎の胸なんて揉んでなにが楽しいと言うのだろうか。そんな趣味など俺にはない。


 そう異性の胸を揉む趣味はない。かと言って、同性の胸を揉む趣味もない。


 むしろ同性の胸を揉むのが趣味とか言ったら、ただの変態だろうに。


 けれどその変態行為を俺は夜な夜なアルトリアにしているという。


 いつどこでそんなことをしたのだろうか。思わず頭を抱えて、その場に跪きそうになりながらも、どうにか尋ねた。いやどうにか尋ねることができた。


「いつ?」


 言えたのは、たった二文字。


 それだけで精いっぱいだった。


 主語も述語もあったものじゃない。


 だが、それだけでアルトリアは俺が言わんとすることを理解してくれた。


「夜ベッドの上でです。「旦那さま」は一度されると、すぐにやめてくださいませんから、少し大変です。時折声を抑えられなくなりますから」


 ぽっと頬を染めるアルトリア。


 うん、かわいい。かわいいが、意味がわからない。


 なぜだ。俺にはそんな記憶などないのに、いつアルトリアの胸を揉んでいるというのだろうか。


 理解ができない。理解が及ばない。理解できないまま、俺は尋ねていた。


「本当にいつ俺そんなことを」


「寝ているときですよ?」


「そう、寝ているとき。うん? 寝ているとき?」


 アルトリアが思わぬことを口にした。


 寝ているときにマッサージをしている。意味がわからない。


 寝ながらどうやってマッサージなんてできるのだろうか。


 というか、できるわけが。そこまで思って、ふと気づいた。


「……アルトリア、ひとつ聞きたい」


「はい、なんでしょうか?」


「この頃、毎朝起きたときに、アルトリアが全裸で俺のベッドにいるのってさ」


「夜伽のお相手をしようと思って、着替えを持って、「旦那さま」のお部屋で脱いでいます」


「いや、それはいい。いや、よくないけれど、それはいいんだ。大事なのは、それでベッドに入った後だ。俺眠っているよね? そのとき、なにをしているの?」


「「旦那さま」のお手が手持ち無沙汰というか、寒そうでしたので、人肌で温めて差し上げようかと思って、こう」


 アルトリアは俺の手を取ると、とても自然な動きで、とても慣れた動きで、みずからの胸にと押し当てた。


 制服と下着越しとはいえ、アルトリアの胸部装甲の感触が伝わってくる。


「これで、終わり?」


「はい。そのままじっとしていると、「旦那さま」がお手を動かし始められるので、その手つきがとても情熱的で、いつも最初は声を抑えられるんですが、徐々に声を抑えきれなくなって」


 アルトリアは、また頬を染めて話してくれた。


 だが、俺はもうアルトリアの話を聞いていなかった。


 そりゃあ記憶にないはずだよ。


 むしろその状況で記憶にあったら、逆に驚くわ。


 俺は熱心に語るアルトリアの話を聞き流しながら、深いため息を吐いた。

明日は十六時更新になります。

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