Act9-289 穿ち、断ち、舞う
今日はいつも通りに更新できました。
今回はゴンさんの独壇場です。
ゴンさんが咆哮を上げる。
静止した世界がゴンさんの咆哮のたびに、びりびりと震えていく。それほどの怒りと悲しみがゴンさんの中で渦巻いているのがよくわかる。
「……ゴンさん」
ゴンさんの背中の上にいても、ゴンさんの感情のひとつひとつが理解できていた。
いや、ゴンさんの悲しみが直接流れ込んでいるかのように、はっきりと伝わってくるんだ。
だから改めて理解できた。もともとわかっていたことではあったけれど、よりはっきりと雄弁に物語ってくれた。
(……ゴンさんは意地っ張りすぎるよ)
事あるごとに愚妹だのなんだのとサラさんに言うくせに、その実誰よりもサラさんを愛しているんだ。
家族として、大切な妹としてサラさんを愛している。
そのサラさんに重傷を負わせたスカイディアを許せないんだろう。
俺と同じだ。いや、俺よりもはるかにゴンさんは激高していた。だからこそみずからの正体を露わにしたんだ。
「風」のドラゴンロードではなく、「刻」のドラゴンロードとしての自分をさらけ出したんだ。
どうして自分を偽っていたのかは。どうして「風」のドラゴンロードと偽っていたのかはわからない。
そもそも「刻」のドラゴンロードってなんだって思う。
ドラゴンロードは六属性しかいないはずなのに、ゴンさんが言ったのは「刻」のドラゴンロードだ。
まるでシリウスやカティのように特殊進化したような──。
『……その通りだ、我が主。我は風より変質したもの。シリウスやカティと同じ特殊進化個体となった。爺様やサラたちにはずっと嘘を吐いていたのだ』
咆哮を止めることなく、ゴンさんは念話で言った。その声はとても重たい。だが、たしかな覚悟に彩られたものだった。
『我はエレン様の力を受け継いだ。ゆえに「刻」の属性を得た。そしてその力をずっと隠し続けてきた。すべてはこの時のために。あの忌々しい破壊神を滅ぼすためだけに、我はすべてを騙した。我を信頼するすべてに語ることなく、この力を隠し続けてきたのだ』
ゴンさんの声は悲しそうだった。だが、悲しみつつもどこか楽し気でもある。
いや、このときをずっと待っていたというように感じられる。
実際待っていたんだろうね。スカイディアが目の前に現れるのをこの人はずっと待ち続けてきたんだ。
でもなんでスカイディアを待ち続けてきたんだろうか。その意味が俺にはよくわからない。
『なんであの女を?』
『……あの女こそがエレン様を殺したからだ』
ギリっと奥歯を噛みしめながらゴンさんははっきりと告げた。
『二代目英雄を?』
そんな話は聞いたこともない。
二代目を殺したのは竜王ラースというのを俺は何度も聞いたし、レアもそう言っていたはずだった。
けど、ゴンさんはラースさんではなく、スカイディアが二代目を殺したという。
いったいどういうことなんだろう?
『そうだ。あの女がエレン様を殺した! そのうえ、我が妹の腕を切り落とした! あの子がどれほど鍛治師という職に生き甲斐を感じていたのかを理解したうえで、だ! 許せぬ。許さぬ。許しておけぬ!』
ゴンさんからの念話が不意に途切れ、再び咆哮が上がる。その咆哮とともにゴンさんの周囲に無数の灰色の槍が浮かんでいく。
レアと同じかそれ以上の数の弾幕じみた無数の槍。その矛先はスカイディアへと向けられていた。
「穿て!」
ゴンさんの掛け声とともに無数の槍はスカイディアにと突撃していく。
「断て!」
槍の次は灰色の剣がスカイディアの背後に浮かんだ。一瞬スカイディアが放ったのかと思ったけど、ゴンさんの一言でスカイディアにと殺到していく。
この時点で前後を囲まれている。いや、槍と剣は左右に回るようにも放たれているようで、前後左右を囲んでいた。すでに逃げ場はなくなっていた。
「顕現せよ!」
そして最後に現れたのは灰色の巨大な球がスカイディアの頭上にと現れた。その質量だけで押し潰せそうなほどに大きな球。その球をスカイディアにと迷いなく落としていくゴンさん。
でも量より質とは言うけど、あまりにも大きすぎる。
あれじゃ槍も剣も押し潰してしまいそうだ。
スカイディアは無数の槍と剣、そして巨大な球を見ても笑っているだけだった。
この程度では意味がないと言っているかのような余裕の表情だった。
「舞え!」
けれど、 ゴンさんが追加した一言で状況は変わった。
スカイディアの頭上に落ちていた巨大な球に亀裂が走った。
次の瞬間には亀裂から無数の球が駆けていく。
いや、もともと巨大な球ではなかったんだろう。
巨大なひとつの球ではなく、無数の球によって形成されていたんだ。
それがいま本来の姿に戻っただけ。
そう、たったそれだけのこと。
でもそれだけのことが、大きな差異を生じさせた。
スカイディアさえも思いもよらない攻撃だったのか、驚いたように目を見開いていた。
「これはまた凄まじいわねぇ」
だが、どこかのんきな口調のまま、スカイディアはゴンさんの放った逃げ場のない無数の弾幕にあっという間に呑み込まれていった。
周囲には爆撃を思わせるような大音量が響いていった。
逃げ場のない弾幕の三段構えというわりとオーバーキルなことをするゴンさんでした。




