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Act9-269 ヤキモチ

 本日五話目です。

 アリアとタマちゃんの戦い。


 ティアリカやアルクたち同様にもう音しか聞こえなかった。ティアリカたちのようにタマちゃんも大丈夫だとは思いたい。ただ、アリアが言っていたことがあった。


「「ティアリカが負けた」か」


 アリアが言っていた「ティアリカが負けた」という戯れ言が気になっていた。


 どういうことだと聞き返すよりも早く、状況が動いてしまって、結局あの言葉の真意を問いただすことはできなかった。というよりも信じられないと言う方が正しいのかな。


 いくら相手が実のお兄さんであったとしても、ティアリカがそう簡単に負けるわけがない。


 たしかに相手とは激戦を繰り広げていたけれど、それでもティアリカが勝つと俺は思う。そもそも負けるティアリカがいまひとつ想像できなかった。


 時折稽古をしてもらっているから知っていることではあるけれど、ティアリカの動きは尋常なものじゃない。


 あの動きはまさに閃光と言ってもいいレベルだ。そんなティアリカと打ち合える時点ですでにありえないんだ。少なくとも俺にはできなかった。目で追うことができても体が着いて行かなかった。


 でもお義兄さんはあっさりと着いて行っていた。ティアリカはお義兄さんを弱いとはっきりと言っていたけれど、あれで弱いとかなんの冗談だろうと思う。


 だけどお義兄さんの強さはティアリカ自身も思っていなかったもののようだった。


 なにせ打ち始めた当初のティアリカは驚いた顔をしていた。


 その時点でティアリカの知っているお義兄さんとはまるで違っていたということなんだろうけれど、本当にあのお義兄さんは生前弱かったんだろうか?


 どうやってかは知らないけれど、いきなり生き返って強くなったとしては、あまりにも力を自由自在に使いすぎている気がする。


 生前になかった力であれば、普通はもっと振り回されそうなものだけど、お義兄さんはあっさりと使いこなしているようだった。生前に力がなかったらより力に呑まれてしまいそうな気がする。


 でもあの人は力に呑まれているという風には見えない。十全に使いこなしていた。


 本当に弱かったのなら、そんなことがはたしてできるのかな?


 強い力を与えられて、それまで通りの自分でいることってできるのかな?


 これが小説や漫画であれば、可能性はあるのかもしれない。


 けど、現実では無理だと思う。


 どんな人でも強すぎる力をいきなり、なんの下地もなく与えられれば普通は呑まれてしまう。


 いや、下地があったとしても、キャパシティーを越えれば待っているのは破滅だけ。


 よくあるハッピーエンドなんてものはそう簡単には存在しない。


 あるとすれば、それは当事者がとんでもない努力のはてに掴んだ結果だ。


 努力なしに得られるわけがなかった。


 努力なしに力を得て、力を考えもなしに振るえば待っているのは身の破滅だけ。


 もともと弱ければ弱いほど、その傾向は強まると思う。


 でもお義兄さんにはその傾向はない。力に振り回されているような言動ではあったけど、あの人は無差別に攻撃をしなかった。


 そしてなによりも「ティアリカを斬る」とは言っていたけど、「ティアリカを殺す」とは一言も言っていなかった。


 まぁ、斬るというのは基本的には殺すことに繋がるのだけど、力に呑まれているのであれば、「斬り殺す」というのが普通なんじゃないかな?


「斬る」しか言わないと言うのはありえない気がする。それを「斬る」と言ったということは──。


「さっきも言ったと思いますが、あの兄妹は不器用なんですよ」


「レア?」


 ──お義兄さんの本当の「目的」について考えていたら、レアがぽつりと呟いた。


「お互いにお互いを大切に思っているくせに、言わなくてもいいことを言ったり、しなくてもいいことをしてしまったりしてしまうんですよ。特にあいつは、ヴァンはその傾向が強いんですよ。大切だからこそ、やりすぎてしまうんですよ。あいつのああいうところは死んでも治らなかったみたいですね」


 くすり、とレアが笑っていた。見たことがない笑顔を浮かべていた。


 それがなんとなく気に食わない。


 というかなんとなく悔しい。


 そもそもレアが「あいつ」とか言うのを俺は初めて聞いた気がする。


 ……本性を露わにしたときは、「てめぇ」とか普通に言うけれど、お淑やかモードのときには「てめえ」どこか「あいつ」なんて言葉さえ聞いたこともなかった。


 そんな俺だって見たことがない笑顔や言葉を、あっさりと浮かべさせ、言わせてしまうあの人に少しだけ嫉妬してしまった。


「……そう」


 でもそんな自分の感情を知られたくなくて、つい素っ気ない返事をしてしまった。


 失敗したなと思うけど、言い直すことはできない。言い直したら嫉妬していたことがばれてしまううえにからかわれるだけだった。


 だからできるだけ表情には出さず、平静としていた──はずだったのだけど、うちの嫁ズを俺は甘く見すぎていたようだった。


「旦那様って、意外と独占欲強いよね?」


 俺の手を握っていたカルディアがにやにやと楽しそうに笑いながら言った。その内容は俺の現在の心情を完全に理解しているものだった。少しだけ俺の時間が止まる。


「あからさまにヤキモチ妬いているような声だったのです」


「あからさますぎて、かえってわざとかと思いましたけどぉ、旦那様ならないですねぇ~」


「私のことをツンデレと言うけども、パパも十分にツンデレだと思うよ?」


 時間が止まっている間に、プーレ、サラさん、シリウスからの追撃をもらった。そして──。


「ふふふ、ヤキモチ妬かれるのって、すごく嬉しいものですね」


 ──当のレアからは満面の笑みで言われてしまった。


 立つ瀬がない。まさしくそんな状況に一瞬で追い込まれてしまった。


「主様は本当にわかりやすいですね?」


 しまいにはアイリスからそんなトドメの一撃を貰ってしまったよ。


 ゴンさんに背負われていなかったから、恥ずかしさで崩れ落ちてしまいそうなほどの衝撃だった。


「まぁ、カレンちゃんさんらしいですかねぇ?」


 ゴンさんは笑いながら締めてくれた。それがかえってダメージを大きくしてくれたけど、嫉妬したことは変わらなかったので、なにも言えなかったよ。


「よかったね、旦那様? みんなから愛されていて。でも──」


 カルディアがなぜか顔を近づけてくる。なんだろうと思ったときには唇が重なっていた。


 レアたちが「あーっ!」と叫ぶもカルディアはお構いなしだった。


「──旦那様がヤキモチ妬いたように、ワタシもヤキモチ妬いたからこれでお互い様だよね?」


 唇を離したカルディアはそんな謎理論をぶちかましてくれた。けど俺はなにも言えずにただ頷くことしかできなかった。


 その後、レアたちにあーだこーだと言われてしまったけど、まぁ、それほどに愛されているということでいいのかな?

 続きは二十時になります。

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