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Act9-264 狂気の違い

 今週は一話更新のみとなります。

「冥」のアリア──。


 名前からして、アルトリアやアイリスの姉妹というところか。


 アイリスのことを姉さんと呼んでいたので、ふたりの妹にあたる存在ということか。


 もっとも顔立ちはまだわからない。


 アリアは希望の姿のままだった。だからアリア本人の顔立ちはわからない。


 でもアイリスたちの妹であれば、アイリス自身がアルトリアによく似ていることを踏まえるとアリアもまたアルトリアに似ているんだろう。


 ただその性格はお世辞にもいいとは思えない。


(それにしても、アリア、ね)


 どこかで聞いたような気がする。いまいち思い出せないのだけど、いったいどこでだっただろうか?


「ふふふ、カレンちゃんったら怖い顔をしているねぇ~」


 アリアはなんとも馴れ馴れしく声を掛けてくれる。


「馴れ馴れしいんだよ、って言ったばかりだと思うんだけど?」


 初めて会った奴にここまで馴れ馴れしくされたくはない。まぁ、少し前までのアイリスのように敵意全開にされるよりかはましかもしれないけど、それでもアリアは馴れ馴れしいにもほどがある。


「いいじゃない。私はずっと前からカレンちゃんを狙っていたもの。ふふふ、あの雑魚を一蹴したときから、あんなに小さくてかわいらしいのにすごく強いなぁと思っていたんだもの」


「あの雑魚?」


 誰のことを言っているんだろうか。小さくてかわいらしいという戯れ言は聞き流すとして、アリアが誰のことを言っているのかはわからなかった。


 ただ妙に引っ掛かるものがある。それもアリアという名前を踏まえると余計にだ。


(誰のことを忘れているんだろう?)


 なにか忘れている気がする。


 でもそのことがいまひとつ思い出せなかった。


「……驚いたね。あの冒険者のことをまだ覚えているんだ?」


 不意にアイリスがアリアにと声を掛けた。アリアは希望の顔のままで「うん」と力強く頷いていた。


「あなたのことだからとっくに忘れていると思っていたよ」


「え~? なんで~? だって彼のおかげでカレンちゃんのことを気に入ったんだもん。いわば私にとってはキューピッドみたいな人だよ? 忘れるわけがないじゃない。でも名前は忘れたけどねぇ。あははは!」


「……本当にあなたらしいよ、アリア」


 アイリスとアリアの会話はわずかなものだけど、そのわずかな会話だけでアリアが相当な問題児であることがわかる。というよりも性格が終わっている。


 アルトリアもだいぶ拗らせていたけど、アリアはそれ以上だ。アリアからは最初から狂気しか感じられない。アルトリアも最初の頃はまともだった。でもいまのアルトリアには狂気しかなかった。


 その狂気にしても、同じ狂気でもアルトリアとアリアの狂気はまるで質が異なっている。


 アルトリアは愛情ゆえに、深すぎる愛情があるからこそ狂っているけど、アリアのそれは愛情ではない。子供っぽいんだ。子供特有の純粋さゆえの狂気というところか。


 例えば道端にいる蟻や繁みの中にいる虫を笑いながら殺してしまうという感じかな。


 大人からしてみれば、どう見ても狂気じみた行動なのだけど、当の子供にとっては遊びでしかない。


 遊びだと思っているからこそ、子供にとってはなんともない行動だった。むしろなにが問題なのかもわからない行動となるんだ。


 それがアリアの狂気だ。


 本人的にはなんの問題もない。問題はないけど、他人が見たら狂っているとしか思えない。


 狂気をはらんでいるという意味では、アルトリアと同じだ。ただ方向性が大きく違っていた。


 その方向性の違いがひどく恐ろしく感じられた。


「思い出したかな、カレンちゃん? あなたが一蹴したあの冒険者のことだよ? ちゃんと始末してくれないから少し手間がかかっちゃったんだからね?」


 ニコニコと笑いながらアリアが言う。俺が一蹴した冒険者。その言葉でわかった。


「あのときの、ギルドを始めたばかりの頃に俺に挑んできたひとりのこと、か?」


 当時はドルーサ商会からの嫌がらせを毎日のように受けていた。


 その一環として毎日のように冒険者たちに喧嘩を売られていたんだ。


 ほとんどはドルーサ商会からの回し者だったのだけど、ひとりだけギルドを潰そうとしているのではなく、俺自身に対する憎しみをぶつけてきた冒険者がいた。


 その冒険者は将来有望な青年であって、それなりの腕の持ち主だった。


 もっとも当時の俺でもあっさりと一蹴できる程度ではあったけれど、ドルーサ商会からの回し者どもよりかは腕が立っていたし、根性もあった。


 なにせほかの連中は一撃入れたらもう立ち上がらなかったけれど、その冒険者だけは一撃入れても立ち上がってきた。


 おかげで何度も殴り倒すことになってしまった。それでようやく気絶してくれたはずだ。


 でもそれ以降その冒険者を見かけたという話は聞かなかった。


 故郷にでも帰ったのかと思っていたのだけど、どうやらアリアの口ぶりからして殺されたのかもしれない。他ならぬアリア自身の手によって、だ。


「そうだよ。少しはやるかと思ったんだけど、やっぱり雑魚は雑魚だねぇ。全然使えないもん」


やれやれとため息を吐くアリアを見て思った。


(あぁ、たしかにこいつはアルトリアの妹だ)


心の底からアリアとアルトリアが姉妹であることを納得したんだ。

 続きは今晩の零時からの更新祭りとなります。

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