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Act9-254 姉弟

 途中で過激な部分がありますのでご注意ください。

 勇ちゃんとアスラさんは見たこともないくらいに怖い顔をしていた。


「勇ちゃんとアスラさん? なんでここに」


 思ってもいなかったふたりの登場に俺は唖然としてしまっていた。けれど勇ちゃんとアスラさんはなにも言わずに、クラウディウスさんへと近づいていく。その姿は剣呑そのものだった。


「おや、これはこれは。アルクさんとアスラさんではありませんか。お久しぶりですなぁ」


 穏やかな声でふたりに声を掛けるクラウディウスさん。


 それだけを見れば、普段通りのやり取りなのだろうけれど、勇ちゃんとアスラさんの雰囲気があまりにも違いすぎる。いや、ふたりとクラウディウスさんとの間の空気の温度差がひどかった。


「よぉ、おやっさん。ずいぶんと見ためが変わったが、元気そうでなによりだ」


「まったくだな。少しでも弱っていたら、手が緩むところだったよ。……まぁ、手を緩ませる気なんてそもそもないけどね」


「そうだな」


 アスラさんと勇ちゃんは笑っていた。笑っているけれど、その雰囲気は憶えがあった。


 というよりも、少し前まで俺が纏っていたからわかる。


 ふたりは俺が少し前までアイリスへと抱いていた感情を抱いている。怒りと憎しみだ。そのふたつから生じた復讐心をふたりは抱いているようだった。


 だけど、どうしてふたりがそんなものを抱いているのかはわからない。わからないけど、なんとなく予想はできた。


 この場に勇ちゃんとアスラさん()()()()()ことがそれを証明していた。


 でもありえない。


 いくらなんでも仲間を喰ったというのはさすがに──。


「……なにやらお怒りのようですが、私がなにかしましたかな?」


「なにかした、だと?」


 アスラさんが拳を強く握りしめていく。握りしめられた拳からは血が滴っていた。


 それは勇ちゃんも同じで、いや、アスラさんよりも強い怒りを抱いているようだった。


「寝ぼけたことを言ってくれるなぁ、おやっさん。あんたがしたことだぜ?」


 腰の剣を抜きながら、勇ちゃんは憎悪に満ちた目でクラウディウスさんを見やる。その姿は普段のおちゃらけた勇ちゃんとは別人のようであり、同時に既視感を覚えるものだった。


「さて?」


「ふざけんな! 「なにを言っているのか、わからない」みたいな顔をするな!」


「やめろ、アルク。言っても無駄だ。こんな人喰いの化け物になにを言っても無駄だ。俺たちが動物を食べるようなものなんだよ。動物を殺してその肉を喰らうように、こいつも同じことをしたというだけのことなのさ。生きるうえでは仕方がなかったということなんだろうよ」


 アスラさんは表面上冷静には見えるけど、拳はさっきよりも握りしめられていて、アスラさんの怒りの深さがわかった。


「で、どうなんだい? おやっさんよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の肉は旨かったかい?」


 アスラさんの発した言葉に、ふたりを除いた全員が言葉を失った。


 父親になるはずだった。その言葉が意味するのはひとつ。いやひとりだけだった。


「アルゴさんを、喰ったのか?」


 薄々と察してはいた。けど、まさか本当に仲間を喰うなんて。それもクリスティナさんとの間に子供ができて、結婚間近だったあの人を喰ったというのか?


 その問いかけにクラウディウスさんは答えない。


 片方の頭は淡々と咀嚼していた。咀嚼する生々しい音だけが響いていた。


「……相変わらずの悪食だね、じいや」


 アイリスがクラウディウスさんの所業に顔をしかめた。クラウディウスさんの所業はアイリスでも顔をしかめずにはいられないもののようだ。


「なにを言われますか、姫様」


 だが、クラウディウスさんは実に遺憾そうに言う。なにを言おうとしているのかは、いままでの言動を省みればなんとなく理解できた。


 でもそれを本当に言うとしたら、それは同時に──。


「私は美食家ですぞ? 本来なら隣にいた雌を狙っていたのです。なにせ子持ちですからなぁ。子持ちの雌の肉は、それはそれは美味でして。そこに子供の肉も含まれますと、より一層味わい深く──」


「黙れよ、化け物」


 ──勇ちゃんの感情を爆発させることになる。


 勇ちゃんはすでに抜いていた剣を、「鍛冶王」ヴァンが鍛えたとされる「選定の剣」である「天王剣クロノス」でクラウディウスさんにと斬りかかった。


 その速度は凄まじく、気づいたときには勇ちゃんは、クラウディウスさんの体を斜めに両断していた。


「ほっほっほ、やはりいままでは加減されていましたな、アルクさん」


 だけど体を両断されたというのに、クラウディウスさんは笑っていた。二度も首を飛ばしても生きているのだから、体を両断されても生きていられるというのは、道理ではあるけど理不尽な気がする。


「くそっ! いい加減にしろ、「クロノス」! そろそろ俺を主として認めやがれ!」


 そんな理不尽を前に、勇ちゃんは「クロノス」への不満を露にした。


 けど「クロノス」からの返答はないようだ。舌打ちをしながら再び斬りかかっていく。その姿は悲哀を感じさせた。


「ふふふ、見事。お見事な剣ですなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いやぁ、母神の血筋とは思った以上に恐ろしい」


「っ」


 クラウディウスさんの一言に勇ちゃんが息を呑んだ。


 でもそれは俺も同じだった。


「……勇ちゃん、まさか」


「耳を貸すな! そんなデタラメに!」


 勇ちゃんが叫んだ。


 でもクラウディウスさんは笑いながら続けた。


「いやいや、デタラメではありませんよ、カレン殿。この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殿なのですから」


 クラウディウスさんは体を斬られながら勇ちゃんと俺の関係を口にした。

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