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Act9-235 感覚を失っても

 本日六話目です。

(本当に困った旦那様なのです)


 いきなり帰られたと思ったら、部屋に来て泣かれてしまうんですから。


 私の旦那様は本当に困った人なのですよ。そう、本当に困るくらいに優しい人なのです。


(どうして会いたいと思ったときに帰ってこられるんでしょうね)


 私がこうなったのは、昨日からでした。


 昨日レア様を治療して間もなく、いままで以上の激痛に襲われました。


 それこそ立っていられなくなるくらいには、いいえ、意識を保てないほどの激痛に苛まされ、私は意識を手放しました。


 でも意識を手放しても、その激痛は消えることはなかったのです。次に私が目覚めたのは消えることのない激痛によってでした。


 目覚めた私は、ベッドに寝かされていた。レア様のお城の心地いいベッドに寝かされていたのに、私が真っ先に感じたのは痛みでした。その次にベッドの心地よさを感じました。


 だけど、ベッドに心地よさを感じていられたのは、ほんの一瞬だけ。


 すぐに私は痛みしか感じられなくなってしまった。


 視界の端でシリウスちゃんが泣いていたのが見えました。


 サラさんとティアリカさんが慌てているのもまた。


 そしてレア様が必死に私を呼び掛けてくださっていることもまた。


 でも私は皆さんになにも言えなかったのです。


 なにも言えないまま喘ぐことしかできませんでした。


 私の激痛が治まったのは、目覚めてから数時間後が経った頃でした。……正確に言えば、痛みが治まったわけじゃないのです。


 ただ私がなにも感じられなくなってしまったというだけのことでした。


「痛覚が壊れた、みたいね」


 痛みから解放された私を精査されたレア様が言われたのは、激痛が続きすぎて痛覚が麻痺したか、そのものが損傷してしまったのではないかということでした。


「どちらにしろ、あなたの体がこれ以上は痛みに耐えられないと感じたからこそのことでしょうね。その代償は大きいけど」


 レア様はそう言うと、コアルス様に鏡を持ってくるようにと頼まれました。


「……本当は教えない方がいいんでしょうけど、隠し通すことはできないから」


 なにを教えようとしているのかはわからかった。


 でも鏡に写った私自身を見て、その意味を理解できたのです。


(あぁ、そういうことですか)


 鏡に写った私自身を見ても特に思うことはありませんでした。あえて言うとすれば、「旦那様にはもうお会いできない」ということでした。


 旦那様が帰ってこられるまで私の命が保つかわからなかったし、仮に保ったところで、この姿では会えないと思ったのです。


 真っ白に脱け落ちた髪に、削げた頬、ひどい隈の目元。旦那様が愛してくれた私の面影はあっても、もう旦那様から愛されることはないと思ったのです。


 でも苦難はそれだけではなかったのです。


「あれ、目が黒く──」


 不意に白目の部分が黒く染まり始めたのです。その次の瞬間にはすべてが黒く染まったのです。いままであたりまえのように見えていたものが、なにも見えなくなりました。


「プー、? 聞こ、ーレ?」


 レア様がなにかを言われている。でもその声を聞くことは叶わなかった。


 その後レア様はさらに私を精査し、私が視力を完全に失い、聴力もほとんどなくなっていることを念話で伝えてくれたのです。どうしてそうなったのかの推察もまた。


 レア様が言うには、いまの私は反動を受けてしまったとのことでした。


 あと数日の命しかないのに、「大回帰(リザレクション)」なんて使ってしまったからこうなったのかと思いました。


 けど、レア様はそれだけじゃないと仰ったのです。


『たぶん、私の傷を治したことが原因だと思うの。私はアルトリアちゃんの持っていた黒い剣で何度も刺されてしまったから。あの剣には強い呪いが掛かっていた。その剣で何度も刺された私を治療したから、呪いの対象が私からあなたにと移ったのでしょうね』


 レア様は淡々と伝えてくれました。とてもあっさりとした口調でした。


 でも口調はあっさりですが、感情はありませんでした。感情を押し殺しながら伝えてくれているのがわかりました。


 光を失った目でもレア様のいまの表情はわかりました。


 ほとんど聞こえなくなった耳でもレア様が唇を噛み締め、拳を強く握りしめていることもわかりました。


 なによりももとから見えないし、聞こえることもないレア様の気持ちがはっきりと理解できたのです。


「ありがとうございます、レア様」


『バカ。なんでお礼なんて』


「私を大切に思ってくれていることが改めてわかったからです」


『……バカ』


「ごめんなさい、レア様」


『謝らないで。あなたは私を恨んでいいのよ、プーレ』


 レア様は震えていた。震えながら謝ってくれたのです。


 そんなレア様を私はどうにか抱き締めたのです。


 感覚もない体だけど、レア様のぬくもりと涙だけはわかりました。


 それが嬉しくて悲しかった。相反する感情を秘めながら私はレア様を抱き締めたのでした。

 これにて五月の更新祭りは終了です。

 次回は明日ですが、恒例の土曜日更新ですので二話更新となります。

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