Act9-232 その無事を祈って
本日三話目です。
今回も落差ですね。
胸が痛くなる夕食も無事に終わった。……俺の心に絶大なダメージを残すという形でだけども。
それでもどうにか夕食も終わり、部屋に戻ることになった。
夕食を取るまではいまいち場所がわからなかったけど、俺たちがいるのはレアの城だった。どうりで見覚えがあるわけだった。
(シリウスたちがいる時点で思い至りそうなものだけどね)
考えてみれば「蛇の王国」、しかも「エンヴィー」近くにまで連れてきてもらったうえに、レアによって連行されたんだから、当然その近くということになる。
となれば、「エンヴィー」の周辺でレアが連行しやすく、かつシリウスたちがいる場所となれば、レアの居城である「エンヴィー」の王城しかない。
(いろいろとあったというのもあるんだろうけど)
いつもならすぐ気づきそう、いや、いつもでも気づかないかな?
ただ候補くらいは思いつきそうな気はする。いま言っても後出しのようなものだろうけど。
「……なぁ、シリウス?」
「わぅ?」
隣を歩いていたシリウスに声を掛ける。
いま俺の周りには、シリウスとカルディア、そしてアイリスがいた。
サラさんとティアリカは食べ終わると「用事があるので」と言ってどこかに行ってしまった。
食べ終わるとそそくさといなくなってしまったので、声を掛けることさえもできなかった。
俺の感覚だと数十日くらいは会えなかったから、その分を少しでも埋めたかったのだけど、用事があると言うのであれば無理に引き留めることもなかった。
少しだけ寂しいというか、疎外感はあったけど、これも仕方のないことだった。
それにだ。わずかな間とはいえ、たしかに触れ合えたのだから、よしとするべきだ。
でもまだ彼女とは触れ合えていない。
だからこそシリウスに、彼女のことを尋ねることにした。
「プーレはどうしている?」
レア同様に所用があるということで、夕食の席には来なかったプーレ。つい先日挙式をしたばかりの彼女のことが気にかかった。
というよりもなぜか無性にプーレに会いたくなってしまった。いや、会わなきゃいけないと思ったんだ。どうしてそう思うのかはよくわからない。
まだ呪いを解く方法に関してはさっぱりとわからないけど、まだ時間はあるはずなのに。長くはないけどまだ時間はあるはずなのに。なぜか、いま会わないと後悔すると思った。ひどい胸騒ぎを覚えていた。
「……プーレママなら、風邪を引いているの」
「風邪?」
「うん。気候が合わなかったみたいなの。昨日から風邪を引いてしまっているの」
プーレが風邪を引いた。しかも気候が合わなかったからという理由でだ。
「……シリウス」
「わぅ?」
「パパはシリウスにそんな嘘を吐くような子に育てた覚えはないよ?」
「嘘じゃないよ?」
「いや、嘘だ。プーレはこの首都で産まれ育ったんだ。そのプーレにこの国の気候が合わないというのはありえない」
産まれが「蛇の王国」で、育ったのは別の国というのであればわかる。
例えば「獅子の王国」で育ったというのであれば、「蛇の王国」とはまるで違う気候の国で育ったというのであれば、シリウスの言うこともあるんだろうけど、この国で産まれ育ったプーレにこの国の気候が合わないというのは無理がある。
ほかの国で何年も過ごしたからであれば納得できるけど、プーレの場合は半年ほどだ。
それも一ヶ所にいたわけではなく、転々としながらの半年間だった。
体をほかの国の気候に合わせたわけじゃない。
慣れ親しんだ故郷の気候に合わなくなったわけじゃない。
なのに気候に合わず、風邪を引いたというのはおかしい気がする。
もちろん慣れ親しんだ気候であっても、油断をすれば風邪は引く。
けどプーレは呪いのこともあって、油断とは無縁のはずだし、みんなも気にかけているはずだ。
なのに風邪を引いた。
やはりおかしい気がする。
「プーレはどこの部屋かな?」
「だ、ダメなの。パパにも風邪が──」
「シリウス。プーレママの部屋は?」
「だ、だから風邪が──」
「シリウス」
シリウスの肩を掴みながらじっと目を見つめた。
シリウスは「わぅ」と鳴きながら、困った顔をしていた。
それでも俺はまっすぐにシリウスを見つめていた。
「……案内するよ」
そう言ったのはそれまで黙っていたカルディアだった。
シリウスが「カティアママ」と慌てたけど、カルディアは首を振った。
「着いてきて」
それだけ言って歩き出したカルディア。その後を追いかけながら、プーレの無事を祈り続けた。
今度は二話目との落差がすごいです←
でもここからは落差がなくなります。どういう意味かは、まぁ、うん。
続きは十二時になります。




