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Act9-209 遠ざかる足音

 土曜日ですが、今週も1話だけになります←汗

 今回はアルトリア視点となります。

 なにが起こっているのか、すぐには理解できなかった。


 私から「旦那様」を寝取った泥棒猫アイリスを処分しにきたはずだった。


 でもその泥棒猫をどうしてか「旦那様」は庇われた。なぜ庇うのかがわからなかった。


(私よりもこの泥棒猫の方がいいというの?)


 非常に遺憾ではあるけれど、泥棒猫の方は床に関する経験が豊富だった。


 その経験を活かして「旦那様」を篭絡したんだと思う。


 加えて「旦那様」は胸の大きな女を好まれる。


 遺憾なことではあるけれど、私よりも泥棒猫の方が胸は大きかった。それこそあの雌犬とそん色ないほどにだ。


 もっとも雌犬よりかはいくらか小振りだったけれど、少なくとも私よりも大きいことには変りない。


 だからなのかもしれない。「旦那様」は私よりも胸の大きな泥棒猫に篭絡されてしまったのは、それが原因なんだろう。


(やっぱりこの泥棒猫は処分しないとダメね)


 妹としてかわいがってあげたというのに、最後の最後でこんな仇で返されるなんて思ってもいなかった。


 でもいまならまだ処分すればいいだけ。下手に生かしておくと私にとって代わろうなんてバカなことを考えかねない。


(まぁ、とって代われるわけがないのだけどね)


 なにせ「旦那様」が愛されているのは私だ。私は「旦那様」の正妻なのだから、「旦那様」にもっとも愛されているのは私ということになる。


 だからこそ泥棒猫がなにをしても無駄なあがきでしかない。でもその無駄なあがきが妙な結果に繋がるとも限らなかった。


 妙な結果に繋がる前に泥棒猫はきっちりと処分しておくべきだ、と思っていた。そう、思っていた、そのときだった。


 不意に「旦那様」が泥棒猫に顔を近づけられた。泥棒猫は光のない瞳で「旦那様」に顔を向けていた。


 なにをなされるつもりだろうと思っていたら、「旦那様」はそのままより顔を近づけられて、そして──。


「ん、んんっ!」


 泥棒猫の驚いた声が聞こえた。次いで唾液を交換し合う音も聞こえてきた。


(……なに、これ?)


 目の前で起きた光景を私はすぐに理解できなかった。


 理解できないまま、「旦那様」と泥棒猫との口づけを呆然と見つめていた。


「……アイリス」


「あるじ、さま? なにを」


 呼吸をするためか、「旦那様」が泥棒猫から離れられた。


 泥棒猫は頬を赤く染め、肩を上気させて「旦那様」を見上げていた。


 その目もその表情もまるで勝ち誇っているかのようでひどく腹が立った。


 だけどその苛立ちを泥棒猫はさらに増長させてくれた。


「……脱がすぞ」


「え? あ、だ、ダメ──んんっ!」


 泥棒猫は慌てていたが、そんな泥棒猫を黙らせるかのように「旦那様」は唇で塞がれてしまう。


 泥棒猫は体をかすかに震わせるけれど、「旦那様」は気にすることなく、泥棒猫の服に手を掛けられた。


 泥棒猫は唇を奪われながらも必死に抵抗しようとするけれど、そのたびに「旦那様」は口づけを深くされていく。


 泥棒猫の体から少しずつ力が抜けていくのがわかった。その表情も徐々に蕩けたものへと変わっていく。その変化は私に喧嘩を売っているとしか思えない。


 いや、私に殺されたがっているとしか思えないものだった。


 でもまだ我慢はできた。「旦那様」は泥棒猫をかわいがっておられている。その泥棒猫を目の前で処分するのは憚れるものがある。だから我慢はできた。できるはずだった。


「どうした、アイリス? さっきみたいに旦那様と呼んでくれないのか?」


 でも「旦那様」のお言葉に私は自分を抑えることができなくなってしまった。そしてなによりも──。


「だんな、さま?」


 ──泥棒猫が発したひと言に私の怒りは頂点に達した。


「アイリスぅぅぅ! 死にたいのか、貴様ぁぁぁぁーっ!」


 叫びながら私は泥棒猫の元へ向かって行った。泥棒猫は緩慢な動きで振り向いた。その顏にめがけて呪殺剣を突き出した、そのときだった。


「……そうやってすぐに冷静さを失うのはおまえの悪い癖だな、アルトリア」


 アイリスの姿が掻き消えた。同時にすぐそばから「旦那様」の声が聞こえた。なにを言われているのだろうと思ったときには、意識が遠ざかっていた。


(え、なに、これ?)


 体がうまく動かない。それどころか徐々に地面へと向かって行く。


 地面に向かいながらも私は力を振り絞って「旦那様」の声が聞こえた方を向いた。


 そこには悲しそうな顔をした「旦那様」が、アイリスをしっかりと抱きかかえた「旦那様」が私を見下ろしていた。


「だんな、さま? なんで?」


 わけがわからない。なにが起こったのか。まるでわからない。わからないまま、私は地面にと倒れ込んだ。冷たい地面に倒れながら、遠ざかっていく「旦那様」の足音とともに私は意識を手放した。

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