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Act9-205 存在意義と初めての命令

 ああ、よかった。


 どうにか受け入れてもらえた。スズキカレン、いえ、主様にどうにか受け入れてもらえた。姉様の所業を許してもらえた。


 でもいくら主様が許しても姉様が自身の行いを顧みない限りは意味のないことではあるけれど、それでも主様が許してくださったのだから、よしとしよう。


 となれば、だ。あとは私次第とも言える。もっと言えば、主様に仕えるために私はいまこそすべてを捨てなければならない。


 もう私には守るべき尊厳もない。


 いまの私は人でもない。


 ルシフェニアの第二王女であるアイリスは死んだ。


 いまここにいるのは主様に仕えるひとりのアイリスでしかないのだから。


 主様が望まれるのであれば、誰に抱かれてもいい。


 それこそ数人、いや数十人の獣に犯されても構わない。


 いまの私は文字通り主様の所有物だ。


 主様が望まれることが私の望み。


 私はそういう存在になった。


 だから主様が私を凌辱されることがお望みであれば、私は喜んでこの身を差し出す。


 私をただ嬲られることがお望みであれば、みずからこの身を笑いながら傷つけよう。


 ほかに望まれることがあらせられるのであれば、私はその望みを全身全霊を以て達成しよう。


 主様の望みは私の喜びとなった。だから主様が望まれるのであれば、私は、いままでの私が屈辱と感じることであっても、いまの私は至上の喜びとしてこなすことを──。


「先に言っておくけれど、変に畏まらなくていいからな、アイリス。俺が望むことがおまえ自身の喜びなんて思うなよ。俺の望みは俺自身のものであって、おまえの喜びであるわけがない」


「ですが、主様。主様の望みが私の喜びであることには変りありません。ですから」


 主様のお言葉は優しかった。それまで非道なことをしてきた私にもその優しさを向けてくださるのだから、この人が本当にお優しい人だということがよくわかる。


 でもこればかりは譲れなかった。譲るわけにはいかなかった。


 私が主様の僕であることには変わらない。


 だから主様がどんなに言われても私は私のありようを変えることはできない。


 だから言い募ろうとした。そのときだった。


「……なら最初の願いだ。俺の願いを叶えようとすることをおまえの喜びにするな。それが俺がおまえに初めて言う命令だと思え」


 ふわりと布が私の頭を包み込んだ。それは真っ白な外套だった。


「……これは」


「こんな場所でいつまでも裸でいられても困るからな。アイテムボックスの中はいじられていなかったみたいだけど、着られるものがなにもなくてな。もっとも着られるものがあってもサイズが違うから、結果的にそれしかなかった。ああ、一応言っておくけど、それは予備で一度も身に着けていないから、臭いはないと思うから安心してくれ」


 主様はぶっきらぼうに言われた。


 でもそれが主様なりの優しさであることはわかっていた。


 その優しさを受けた以上はもうなにも言えない。


 私の忠誠を受けはするけれど、私自身を望みはしないと言われたのだから。


 これで無理にでもこの身を捧げたら、それこそ不敬となってしまう。


 であれば、私は主様の望まれるようにあるしかなかった。それがいまの私の存在意義なのだから


「……承知いたしました。ですが」


「あん?」


「……主様がお望みとあれば、わたしはどのようなことでも致します。たとえ主様が私の体を望まれるのであれば──」


「そんなことしないから安心しろ。というか、治療がまだだったよな? その続きをするから座れ」


 主様がご自分の足元を指差された。言われるがままに私は頷き、主様の足元に座った。主様は小さくため息を吐きつつも、私の治療を再開してくれた。

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