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Act9-200 強がらなくていいと言われて

 本日二話目です。

 自分が情けなかった。


 自分で自分が情けないと心の底から思える。それでも震えは止まってくれなかった。強がりな言葉を口にしながらただ震えている。そんな自分がひどく情けない。


 でも怖いものは怖かった。その恐怖に打ち勝つことがどうしてもできなかった。


(ああ、これが死というものなんだ)


 私はいままで他人に死を与えてきた。最初に殺したのは母様たち。その次は無数にいた他の姉妹たち。その後のことは正直よく憶えていない。


 お父様の命令に従って、数えきれないほどの人を殺しに殺してきた。


 最初は震えていた手や体は自然と震えなくなっていった。


 気付いたときには殺すことがあたり前になっていた。それこそ息をするように誰かを殺してきた。


 でも殺す側から殺される側に回ることが、自分の番が巡ってきたと思うと、体が震えてしまう。


(死ぬってこんなにも怖いことだったんだ)


 死というものはこんなにも恐ろしいことだったなんて知らなかった。死を前に喚く姿を見て、醜いと何度も思った。


 けれどこれじゃ喚くのも当然だった。


 だっていま私は本当に怖くて恐ろしかった。体が震えることを抑えるので精いっぱいだった。


 みっともないところを誰にも見せたくない。そんな一心で私は必死に自分を抑えこんでいた。


 抑え込むことができていた。このままスズキカレンに気付かれたくない。気付かれないようにしようとしていた。なのに──。


「──俺も少し寒いから、だから少しだけ背中を貸してくれ」


 ──スズキカレンには気づかれてしまった。


 いや、気づかれないなんてことはありえなかった。


 こんなにも近くにいるんだ。これがもし少し離れていたら気づかれなかったかもしれない。


 でも触れあえるほどに近くにいるのだから、気づかれないわけがなかった。


 でもスズキカレンは気づいても私を抱き締めながら、「寒いから」と言った。私の言いわけを流用したんだ。その言葉になにも言い返すことができなかった。


 私自身「寒いから」と言った手前、寒くないだろうと言い返すことはできなかった。


 そういう意味ではスズキカレンはとてもずるい。


 言い返すことができない状況をあっさりと作り上げてしまうのだから、とてもずるい人だった。


 でもずるい人でもあると同時に、とても優しい人でもあるんだろう。人の痛みを理解してくれる人でもあるんだろう。


 だからこそ私を抱き締めてくれたんだ。そのぬくもりで包み込んでくれたんだ。


(あぁ、温かい)


 こうして誰かのぬくもりを感じることなんてほとんどなかった。


 母様たちを殺してから誰かのぬくもりを感じることは、ほとんどなくなってしまった。


 母様たちを殺したことで姉様は少しずつ壊れてしまったから。他の姉妹たちを殺したことでそれは加速してしまった。


 だからこうして誰かに抱き締められることなんてほとんどなかった。誰かのぬくもりに安堵することなんてほとんどなかった。


 でもいま私はそのほとんどなかったことをされている。そのぬくもりに安堵していた。涙がこぼれそうになる。でもこぼれそうになる涙をどうにか抑えこんだ。


(泣いたらもう強がれない)


 そう、泣いたらもう私は強がることができなくなる。だから泣けない。泣くわけにはいかなかった。そう泣くわけにはいかないというのに──。


「……薄暗くて、寒いところでこうしてぬくもりを感じると泣きたくなるよな」


 ──スズキカレンは泣いてもおかしくないと言った。こんな状況では泣きたくなるものだと言ってくれた。


(あぁ、本当にこの人はずるい)


 心の底からずるいと思った。ひどいとさえ思う。でも同時にとても優しい人だと思った。強がらなくていいと言われてしまったのだから。だから私は──。


「そう、だな」


 ──スズキカレンの言葉に頷いた。頷くと涙は次々に溢れていった。溢れていく涙を止めることはできなった。止めらないまま私はただ泣き続けることしかできなかった。

 アイリスがどんどんとアルトリアを喰って行きますね←汗

 続きは十六時になります。

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