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Act1-24 開業

本日九話目となります。

更新祭りの一日目はこれで終了です。

 開業当日。俺は晴れ晴れとした気持ちで、窓の外を見つめていた。


 ベッドには、一糸まとわぬアルトリアとアルトリアに抱かれたシリウスが眠っていた。


 あくまでも俺は一緒に寝ただけであり、変なことはしていない。


 寝るときはいつもシリウスとだけだったはずなのに、朝起きれば、なぜか毎日アルトリアが一糸まとわぬ姿で寝ていたが、俺はなにもしていない。


 本当になにもしていない。


 ノンケである俺が、アルトリアに手を出すとかありえない。


 とはいえ、起きたら、目の前に全裸の美少女が寝ていたら、ノンケだって多少はどきっとすると思うんだ。


 俺とは一生縁がないかもしれない胸部装甲が、身じろぎのたびにふるりと弾んでいたら、つい目を向けてしまうと思うんだ。


 そう、仕方がない。


 気づいたときには、なぜかアルトリアの胸部装甲に手を伸ばしていて、それは仕方がないはず。


 そう思うのだけど、手を伸ばしたと同時に、シリウスがいつも目を覚まし、いわゆるジト目で俺を見つめてくれる。


「寝込みを襲うとか、最低だな」


 シリウスの目はそう言っていた。


 お、襲っていないし。そもそも俺女だから、自分のを触ればいいだけだし。すとーんとしているけれど、と言うまでが朝の日課となっていた。


 むろん、その後自傷のダメージで膝をついてしまうけれど、それもまた朝の風物詩と化しつつあった。


 自傷のダメージを回復してから、アルトリアを起こす。


 アルトリアは肩をゆすれば、すぐに起きてくれる。


 視界の端に、いらんものが飛び込んでくるけれど、あえて気にしないようにして、アルトリアを起こす。


「おはようございます、カレンさん」


 シーツに包まった態勢でアルトリアは、いつも嬉しそうに笑う。


 その笑顔がとてもまぶしくて、妙なことをしでかそうとした自分が、とても恥ずかしい存在に思えてならなかった。まぁ、それも朝の恒例のワンシーンだ。


 その後、制服とつなぎをそれぞれに着てから、部屋を出ると、たいていアルーサさんたちの誰かと会う。


 その日はアルーサさんで、俺とアルトリアが部屋から一緒に出てきたところを見て、なぜか羨ましそうな顔をした。


「きのうは、おたのしみでしたね」


 続いて、テンプレのセリフをなぜか言ってくれた。


 お楽しみもなにも、寝たときにはシリウスしかいなかった。というか、そんなことをした覚えはない。


 だというのに、アルトリアは「カレンさんが、寝かせてくれなかったんです」と言ってくれたよ。


 ちょっと待って。そういう誤解を招くことを言うのはやめてほしい。


 そもそも寝かせるもなにも、アルトリアに手を出してさえいないというのに。


 なぜアルトリアは、そうやって誤解を招くようなことばかり言うのだろうか。


 外堀でも埋めるつもりなのだろうか。


「どうして私には春が来ないのでしょうか。妹たちは、「エンヴィー」で待っている恋人がいるのに、どうして私だけが。カレンさんはモーレ姉さんという正妻もいるのに、今度はアルトリアさんとだなんて」


 アルーサさんは光のない瞳で、ぶつぶつと呟き始めた。


 怖いからやめてくれと言いたかったけれど、それを言うとなぜか睨まれてしまいそうな気がして、なにも言えなかった。


 というか、正妻もなにもないというのに。


 俺とモーレは友達だっただけで、そういう関係ではなかった。


 が、ショックを受けているアルーサさんに余計なことを言うと、面倒なことになりそうだったが、なにも言わないというのも、憚れた。


「……明けない夜はないから、頑張って」


 それだけ言って、俺は一階のロビーにへと降りて行った。


 当然アルトリアとアルトリアに抱かれたシリウスを連れてだ。


 無責任と言われるかもしれないが、それ以上アルーサさんになにを言えというのだろうか。


 それ以上に言えることなんてないよ。


 そもそも嫁さんは自分で探してほしいものだ。


 まぁ、仕事が忙しくて出会いなんてないだろうけれども。


 とにかくうなだれるアルーサさんを置いて、早朝のロビーにへと俺たちは向かった。


 ロビーにはすでに、ほとんどの職員がそろっていた。


 一週間で、やや頬がこけた人が多いが、みんなやる気に満ちた顔をしている。


 まだ何人か揃っていなかった。


 その中のひとりがアルーサさんだが、俺たちがロビーに降りて、間もなくアルーサさんが降りてきた。


 そのあとに続くようにして、数人の職員が慌てて降りてきた。


 揃った職員を見回し、全員がそろったことを確認し、俺は全員の前に立ち、大きく深呼吸をした。


「みなさん、おはようございます」


 最初に朝の挨拶をすると、全員が口々に返事をしてくれる。


 まだ全員の意思疎通ができていない。


 が、某大学の「集団行動」でもないんだ。全員の意思疎通を目指す必要はない。


 だが、挨拶の返事くらいは、揃ってしてもらったほうがいいかもしれない。そんなことを頭の隅で考えつつ、もう一度深呼吸をした。


「今日から「すけひと」が開業します。ここにいる全員が初期メンバーとなります。この先新しい人員が増えた場合、みなさんがその新人を教え導く立場となります。むろん、私を含めた執行部五人も新人教育をしますが、基本的には先輩が後輩を教えていくという形を取っていく予定です。とはいえ、その人員はいまだ影も形もありません。増えるといっても、どれくらい増えるのかもわかりません。もしかしたら、このまま増えることもなく、人員だけが減っていき、「すけひと」が潰えることにもなるかもしれません。そうならないように、執行部でもいろいろと思案していくつもりです。が、五対の瞳だけでは、見られるものにも限度があります。なにかあれば遠慮なく言ってきてほしい。報告すべき事案を見つけたらすぐに報告してほしい。相談したいことがあるのであれば、いつでも声をかけてほしい。私たちは生まれも育ちも違う。この場で初めて会ったものがほとんどです。その初めて会ったものたちで、この一週間を乗り越えてきました。そしてそれはこの一週間だけではなく、これから先も続いていく。私はそう思っているし、そう願っている。ゆえにいま宣言しよう。いまこの場、この時を以て、冒険者ギルド「すけひと」を開業しよう!」


 少し長めのスピーチを口にした。


 職員たちは俺の長めのスピーチを真剣な表情で聞いてくれている。


 まだひとりひとりの名前を憶えていない。


 というか、顔と名前がまだ一致していなかった。


 それでも顔と名前は憶えている。それがまだ全員分一致していないだけだ。


 まだ少人数だからできることだ。


 しかしこれから先規模が大きくなれば、全員の顔と名前を完全に一致させることはできなくなる。


 だが、いまであれば、まだできる。


 もっともそれも当分先の話になるだろうけれど、全員分の顔と名前をいずれ一致させようと決めていた。


 だってここにいるのは──。


「俺たちは仲間だ。いまここにいるメンバーを中心に、魔大陸のほとんどを「すけひと」が覆いつくすことを宣言しよう! 俺の後に続け! 声を上げろ! 我らここに誓いを立てる!」


 拳を突き上げる。


 アルトリアが、アルーサさんが、ミーリンさんが、モルンさんが、ほかの職員たち全員がそれぞれの拳を天高く突き上げていく。


 もちろんアルトリアに抱かれているシリウスもまた前脚を高々と突き上げていた。


「どんな困難にも立ち向かい、乗り越える。そして魔大陸を我らが手中に!」


 ちょっと大げさかなと思いつつも、その場のノリに任せて宣言すると、一拍遅れて、全員が、「我らが手中に」と叫んでいた。


 静かな熱気がロビーの中を包み込んでいく。


 その熱気に中心に立ちながら、俺はまっすぐに入口の門を見つめた。


「さぁ、門を開けよ! 冒険者ギルド「すけひと」の開業だ!」


 俺の言葉に守衛として立っていたふたりの職員が、門を内側から開くと、待っていたかのように、何組かのクランが中に入ってきた。


 冒険者たちが入ってくると、職員たちはそれぞれの持ち場へと向かっていく。


 順風満帆とは言わない。だが、悪くないスタートをその日、「すけひと」は切ることになった。

続きは明日の十六時です。

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