Act9-181 衝撃
レアおねえちゃんが泣いていた。
泣きながら私を抱き留めてくれた。
「プーレ?」
「……泣き虫さんになったなんてはじめて聞いたのですよ」
くすくすと笑いかけるとレアおねえちゃんは「バカ」と言って泣いていた。泣きながら抱き締めてくれたのです。
レアおねえちゃんはとても暖かった。旦那様とは違うけど、同じくらいに落ち着くことができました。
「……レアおねえちゃんはあたたかいのです」
「あなたの体が少しだけ冷たいのよ」
「……私はそんなに体温低くないのです」
「そうかしら? 子供の頃からあまり体温は高くなかったと思うけど」
「……そう、でした?」
「ええ、そうよ。あなたのことは産まれた頃から知っているのだから」
レアおねえちゃんは体を少しだけ離して笑いました。
その笑顔は私の知っているレアおねえちゃんの、私が子供の頃に私に向けてくれていたものと同じものでした。
(懐かしいのです)
昔はレアおねえちゃんがどういう人なのかを知らなかった。
それこそ本当のおねえちゃんだと思っていたのです。
でも大きくなるにつれて、レアおねえちゃんを「レア様」と呼ぶようになりました。
だって、レア様は蛇王様なのですから。「蛇の王国」の王様であり、「魔大陸」の支配者である「七王」陛下のおひとりでした。
でも私は知っているのです。いえ、覚えているのです。
私が初めてレア様をレア様とお呼びしたとき、レア様は笑いながら泣いていたことを。見えない涙を流されていたことを私は知っているのです。
あの涙の意味はわからなかった。なんで泣かれてしまうのか。どうして泣かせてしまったのか。私にはわからなかった。
でもいまならわかるのです。
レア様は、私に「おねえちゃん」と呼ばれなくなるのが悲しかったのです。「レア様」と呼ばれてしまうのが嫌だったのです。
それだけレア様は、私を想ってくれていたのです。
「大蘇生」を使ってくださったのがその証拠なのです。
私を想ってくれているからこそ、恋敵ではなく、妹として私を想ってくれていたからこそ、「大蘇生」を使ってくださったのです。
まぁ、発動する前に目を覚ますことができたので助かりました。
だって目を覚ますことがなければ、私は大好きだったレアおねえちゃんを失っていたのです。
誰よりも強いのに、誰よりも泣き虫さんなレアおねえちゃんと別れてしまっていたのです。
だから目を覚ますことができてよかったのです。
大好きなおねえちゃんがいなくならなくてよかったのです。
「心配性なのです。レア様は」
「……性分なのだから仕方がないでしょう? それと」
「はい?」
「……もう「おねえちゃん」は終わりなの?」
ぷくっと頬を膨らますレア様。いえ、レアおねえちゃん。
本当に私の自慢の大好きなおねえちゃんは困った人なのです。旦那様と同じくらいに困った人なのですよ。
「旦那様にそっくりです。本当に困ったおねえちゃんなのですよ」
やれやれとため息を吐くのと、おねえちゃんが慌てるのは同時でした。
「そうだ、旦那様は? 旦那様はどこに!?」
おねえちゃんが辺りを見回す。けど、旦那様はまだお帰りではないのですが、どうしたのでしょうか?
「どうしたもこうしたもないの! 旦那様がアルトリアちゃんに拐われたの!」
「え!?」
おねえちゃんの言葉は思いもしないものでした。
「ど、どういうこと、レアママ!?」
シリウスちゃんが焦った顔をしている。いえシリウスちゃんだけではなく、この場にいる誰もが焦った顔をしているのです。どういうことなのでしょうか?
「実は」
おねえちゃんは拳を強く握りしめなから、なにが起こったのかを話してくれたのでした。




