Act9-166 ごめんね、お姉ちゃん
本日四話目です。
本当にずるいと思う。
彼女は本当にずるい。どうしてそうも自分勝手なのでしょう。どうしてこうも私の話を聞いてくれないのか。私はただあなたに生きていてほしいだけなのに。
でも本音を口にしても彼女は、香恋は決して頷かないでしょう。それが私の姉です。本当にバカで、変態で、優しくて、時々ドキッとするようなカッコよさを見せてくれる、本当に困った自慢の姉なのですから。だからこそ、そんな姉を、お姉ちゃんを私は助けたいの。
たとえ私自身が犠牲になってもいい。お姉ちゃんが助けられるのであればそれでいいんだ。なのになんでわかってくれないの? どうして私まで助けようとするの? 私はあなただけでも助かってくれればいいのに。あなただけでも幸せになってくれればそれでいいのに。
なのになんでわかってくれないの? どうして私と一緒にいたいなんてわがままを言うの? 私だって本当はいたいよ。あなたと、お姉ちゃんといつまでも一緒にいたい。
けれどダメなんだよ。私とお姉ちゃんは一緒にはいちゃいけない。私とお姉ちゃんは殺し合う運命なんだから。そう、本当は私はあなたの妹ではない。私はあなたのすべてを奪うために生み出された。そのためだけに生み出された存在でしかない。
そう、本当は私には母親なんていない。私という存在はスカイディア様にとっては、ただの駒でしかない。たとえスカイディア様が「娘」と言ってくださったとしても、本当は「道具」としか思われていないなんてことはわかっていることだった。わかりきっていることだった。
それでも、それでも道具としてでもいい。あの人に愛してもらえるのであれば、私はどんなことでもしようと思っていた。
だけど、ダメだった。あの人の愛よりも、私はお姉ちゃんと一緒にいることを選んでしまった。それがどういう結果を及ぼすのかも考えもしなかった。私どころか、お姉ちゃんの命さえも脅かすことになるなんて考えてもいなかった。
いや、もともとスカイディア様はこのつもりで私をお姉ちゃんの中に入れたのかもしれない。お姉ちゃんの中にいる「化け物」を私という贄によって封じ、思うままに動かそうとしていたのかもしれない。
でもそんな当初の予定を覆すことを私はしている。きっとスカイディア様はいまごろ舌打ちをしているだろう。使えない道具だと思っていることだろう。
それでもいい。私は名もない道具じゃない。私は恋香。鈴木香恋の妹である鈴木恋香。生身の体もない、ただの意識だけの存在ではあるけれど、それでも私はお姉ちゃんの、香恋の妹だ。妹にしてもらえたんだ。
だからこそその恩に報いたい。その恩を仇で返したくない。恩を恩で返したいんだ。そのために私は命を懸けようとしていたのに。
なのになんで?
なんであなたは「一緒にいたい」なんて言うの? どうして私が本当に願っていることを、見ないようにしている本心を言ってしまうの?
ずるいよ。ひどいよ。嬉しいよ。
だけどダメなんだ。もう私たちはこれ以上一緒にはいられない。一緒にいていいわけがないの。偽物の妹との姉妹ごっこはおしまいにしないといけない。私の命を以て、あなたを解放しないといけない。それが私にできる、最初で最後の姉孝行であり、一番の贈り物なのだから。
『……話になりません。今後私はもう表には出ません。あなたはあなたで勝手にやってください。私も勝手にやります』
「待ってよ、恋香。俺はまだ」
『うるさい、黙れ!』
あぁ、胸が痛い。心がずきずきと痛む。それでも、それでも私は言わなければならない。突き離さないといけない。
だってそうでもしないとあなたは私を救おうとするだろうから。私があなたを救おうとするように、あなたも私を救おうとする。
だからこそダメなんだ。だからこそ突き離さないといけないんだ。だからこそ罵倒するんだ。たくさんの「ごめんね」を秘めながら、存在しない目から涙を流しながら私はあなたを突き離すんだ。
『今後、馴れ馴れしくするな。虫唾が走る。せいぜい私がいない時間を楽しめばいい』
香恋が目を見開いていた。その目にはなにも映っていない。映っていないはずなのに、なにかを見ているようだった。なにを見ているのかはわからない。でもそれでいい。それでいいんだ。もう私とお姉ちゃんの道は離れてしまうのだから。だからもうこれでいいんだ。
『さようなら、愚かな姉よ』
(ごめんね、お姉ちゃん。私はダメな妹だけど、ダメなりにあなたを助けてみせるからね)
ないはずのまぶたを閉じながら、私はお姉ちゃんとの会話を切り上げた。熱くなりそうな息を吐きながら、大好きなお姉ちゃんと別れたんだ。
恋香の独白でした。
続きは明日二日目の日付かわってすぐとなります。




