Act9-162 二代目英雄?
ちょっぴりNTR風味です←
英雄エレン・ベルセリオス──。
初代英雄ベルセリオスの次に、英雄へと至った勇者にして、ゴンさんの最初のご主人様兼育ての親だった。
そのエレンがいま俺の中にいる。正直信じられないという気持ちが強い。そう信じられない。
なんで千年前に死んだとされる人が俺の中にいるというのか。
まだ恋香の演技だという方が信じられる。
けど俺はなぜか俺にいま語りかけているのが、エレン本人だと思っていた。
会ったこともなければ、声を聞いたこともないのに、いまここにエレンがいると感じていた。
恋香のいたずらという可能性もあるはずなのに、その可能性を否定している自分がたしかに存在していた。
「あなたがエレン?」
『ふふふ、聞き返しているわりには、私を本人だと思っているみたいだね、カレンちゃんは』
くすくすとエレンが笑う。その笑顔ひとつとっても、俺とも恋香とも違っていた。やはりこの人はエレンなんだろう。あ、さんを付けた方がいいのかな?
『ん~? 好きにしていいよ? カレンちゃんの呼びやすい方で構わないさ』
「いや、でもあなたの方が歳上であって」
『いまさらじゃない? だって、あなたはレアさんをお嫁さんにしているし』
「レア、さん?」
エレンさんの口からレアの名前が出てきたことに驚いた。「エンヴィー」さんであればわかるけれど、まさかの「レア」さん呼びだった。なんというか、妙に気安いような気がするのは気のせいだろうか?
『あれ、聞いていなかった? 私とレアさんは友人だよ?』
「えっと、そういえばそんなことをレアが言っていたような」
うろ覚えだけど、たしかレアがそんなことを言っていたような気がする。言われたのはたしか秘密基地に行ったときであって、そのときは──。
『あぁ、そっか。カレンちゃん、童貞を切ったときだもんねぇ。そりゃ覚えていないよね? レアさんの豊満な体に溺れていたんだもん。無理ないよねぇ、あははは』
「な、ななななにを言って。というかそんなものは俺にはないですよ!?」
『でも、レアさんがハジメテの相手だよね?』
「そ、それはそうですけど」
『なら童貞で合っているよね?』
「だ、だから俺は」
『わかっている、わかっている。エレンさんには全部お見通しですよ。寝そべったカレンちゃんの上に乗ったレアさんを下からこうダイナミックに──』
「全然わかっていないですよね、あなた!?」
『てへぺろ』
なんだろう。俺がイメージしていた二代目英雄さんとはまるで違うんだが。そもそもゴンさんに聞いていた人物とはかけ離れている気がするよ。本当にこの人が二代目の英雄なのかな?
それこそ恋香が演技をしているという可能性が浮上してきたよ?
むしろ恋香であってほしい。恋香のいたずらであってほしいと切実に願います。
けれど現実はいつも俺にはとても厳しいようだった。
『ごめんね。私はエレン本人だよ。証拠をあげるとすれば、そうだなぁ。レアさんのお腹には傷痕が──』
「……なんでそれを?」
『見たことがあるからだよ?』
「見たことがあるから、って」
エレンさん(仮)の一言がとんでもなく気になるんだが。
レアの腹部の傷痕を見たことがあるって、どういう状況で?
どういう状況であれば腹部の傷痕を見ることになるわけ!?
その辺のところ、ちゃんと説明してほしいなと思う。
『ん~? 気になるの?』
「気になります!」
『あは、カレンちゃんってば、ヤキモチ妬いているんだ?』
「や、ヤキモチなんて妬いてねぇし?」
『ふふん。無理しなくてもいいんだよ? 大事なお嫁さんの元カレ登場的な感じだもんね?』
「え、エレンさん、女の人でしょう!?」
『あ、そっちを突っ込むんだ? 私がレアさんに突っこ、おっと失礼』
「待って? いまなんて言おうとしたの? なんて言いかけたわけ!?」
エレンさんは俺をからかっているのか、それとも口が滑っただけなのかはいまいち判断がつかない。そもそも突っ込むってなにを? レアのどこになにを突っ込んだというの、この人は!? うちの嫁になにをやらかしたっていうのさ!?
『いやいや、カレンちゃんが思っているようなNTRはしていないよ? そもそもNTRされたのは私の方だと言っても』
「やめて? そういうのやめてくださいませんか、ねぇ!?」
『えー、でもぉ~、エレン的にはぁ~? レアさんとの耽美的な日々を語りたいっていうかぁ~?』
「その妙なJKっぽい口調はやめてくれません!? ますます俺の中のイメージとの乖離が激しくなるんですけど!?」
乖離しすぎていて、もはや別人判定だよ。いや、別人判定するしかなかった。
とはいえ、恋香にレアのお腹の傷痕については話していない。シリウスが恋香に話すわけもない。ということは、だ。認めたくないけれど、この人は、エレンさんはレアのお腹の傷痕を見たことがあるということになる、って違う。それも気にはなるけれど、とにかくこの人が恋香ではないということだけはたしかなことだった。
『まぁ、とにかくよろしくね、カレンちゃん。あとレアさんがどういうプレイを好んでいたのかはそのうちに話して──』
「だから、そういうのはやめてください!」
事実か冗談かはわからないけれど、嫁が別の誰かとそういうことをしていたと考えるだけで、すごく嫌だ。考えたくないくらいに嫌だ。でもこの人は言ってもやめてくれそうにない。なんだかとっても面倒な人と知り合ってしまった気分だった。
『まぁまぁ、そう言わずに。あとレアさんはね。胸がわりと弱くて──』
「だから、やめてくださいってば!?」
こうしてなぜかは知らないけれど、また俺の周りに、俺の話を聞かない人が追加されることになったんだ。
あくまでもちょっぴりなので問題はない、はずですよね?←汗




