Act9-153 英傑王
遅くなりました。
本当にギリギリ更新だなぁ←汗
「「アヴァンシア」は「聖大陸」の四大国家で唯一「魔大陸」の七か国に近い国なんだ」
勇ちゃんは「アヴァンシア」についての話を始めた。「エルヴァニア」に関しては、いい感情を抱いてはいないようだったけれど、「アヴァンシア」に対してはどこか誇らしげに話してくれていた。
「「アヴァンシア」は寒冷地にあってね。カリオスという万年雪に覆われた霊山に守られた国だからか、ほかの四大国家とのかかわりが薄いんだ。あってもせいぜい船と言う共通点がある「リヴァイアクス」くらいじゃないかな?」
「寒冷地にある国だから、か」
寒冷地にある国という真っ先に浮かんだのはロシアだった。あとはアイスランドもかな。俺のイメージする「聖大陸」というのは、「ひゃっはー」と叫ぶ巨体のモヒカン軍団がいそうな場所だったのだけど、勇ちゃんのいまの話だけでもそういうモヒカン軍団はいなさそうな雰囲気だ。
そもそもそういうモヒカン軍団がいたら、孤児院の弟妹さんたちが心配でならないだろうし。でもいま聞いた話からでも「アヴァンシア」に対して、心配している素振りはない。つまり「アヴァンシア」は安全な国ということなんだろうね。
でもいくら安全な国とは言っても、上層部がダメだったら安全とは言えないと思うけどね。そのあたりはどうなんだろうか?
「「アヴァンシア」は安全な国なの?」
「うん。英傑王様が納めておられるからね」
「英傑王?」
「カレンちゃん、様をつけてね?」
にっこりと勇ちゃんが笑った。いつものように笑っているようだけど、なぜかすごく怖かった。というか威圧感があるね。これはあれか? 「ベルセリオス」信者であるのと同じように英傑王さんのことも心酔しているってことなのかな? そもそもあの勇ちゃんが様付けするくらいだ。とても立派な人なのかもしれない。
「えっと、その英傑王様ってどんなことをされているの?」
「うん。当代の英傑王様はまだ幼い方なんだけどね。それはもう立派な人だよ。首都の警邏もみずからされて、国民ひとりひとりの名前と顔をしっかりと憶えておられるんだ」
「え? 国民ひとりひとり?」
「まぁ、さすがに首都に住む人たちで精いっぱいだろうけれど、それでもすごいと思わないかい?」
「そうだね」
国中に住む全員の顏と名前を一致させられる。それはどう考えてもすごいというか、ありえないことだった。まぁ、さすがに言いすぎだったと思ったのか、すぐに勇ちゃんは訂正したけれど、その内容でも十分にすごいことだった。
為政者というのは「民のために」とは言うけれど、その民ひとりひとりの顏や名前までわかっていることなんていうのはありえないし、できないことだ。
単純にキャパを超えているということもあるけれど、ひとりひとりの名前や顏を知っていたら、いざという時に強権を振るうことはできない。もちろん強権を振るわなければいいだけではある。けれど時にはやらなければならないこともある。そうしないと立ち行かない状況は往々にしてあるものだ。十を活かすために一を切り捨てるなんてことはよく聞く話だった。
でもその切り捨てるべき一を知っていたら? 切り捨てるべき一の顏も名前もそしてどういう人であるのかもわかっていたら、どうだろうか? 加えてその人との思い出なんて浮かんでしまったら、もうどうしようもなくなる。振るうべき強権を振るうことはできなくなる。立ち行かなくなってしまう。為政者としての決断ができなくなってしまう。
為政者は為政者という生き物ではないんだ。為政者だって人であることには変わりない。人であるかぎり、心を鬼にすることにも限界はある。
だからこそ為政者というのは、民のために行動しても、民の顏と名前を知ってはならない。知るべきではないんだ。実際レアは一部の人しか名前を知らない。レアであれば、その気になれば首都どころか国中の国民の顏と名前を一致させることは可能だろう。でもレアはそうしない。「七王」の一角である「蛇王エンヴィー」であるレアでさえもしないことを、英傑王さんはしている。幼い故なのか、それとも民の命を背負うという気概があってこそなのか。いまいち判断がつかなかった。
「「国なくして王は存在しない。国民なくして国は存在しない」」
「え?」
「初代様──「アヴァンシア」を建国された初代英傑王様が仰った言葉だよ。「アヴァンシア」はもともと「アヴァンテ」という神代にあった大国が、「双竜群島」が群島になる前、もともとは大陸と言えるくらいに大きな島にあった国だったのだけど、その島が天変地異で「双竜群島」になった際に「アヴァンテ」は滅びたんだ。その後に「アヴァンシア」は興ったんだよ。そして初代様はその国で」
「王子様だったとか?」
祖国が滅び、その国の王子が別の土地で新しい国を興す。ある意味王道と言ってもいい状況だった。たぶん祖国が滅びたことで初代の英傑王さんは、父王の行動を見直し、自分の国ではいままでとは異なった国を作ろうとしたんだろう。なかなかに立派な人だったんだろうなと思った。けれど俺の予想は少し外れていた。
「ううん。王家の血筋でもなんでもなかった、ただの一般人だったそうだよ」
「え? 一般人が王様に?」
「うん。すごい成り上がりだよね。でも初代様は成り上がるためではなかったそうだよ」
「成り上がるためではない?」
「うん。伝えられた昔話ではね」
勇ちゃんはとても楽しそうだった。楽しそうに「アヴァンシア」の建国の伝説を話し始めた。
次回はお話風な語りになります。




