Act9-150 モテない勇者
「どうして俺はモテないんだ」
勇ちゃんの部屋に入ると、項垂れて地面に突っ伏す勇ちゃんがいた。
「なんで、俺には嫁はおろか恋人もいないんだ。カレンちゃんにはあんなにたくさん嫁さんがいるうえ、娘ちゃんだっているのに。なんで! 俺は! モテないんだ!」
項垂れながら、全力で床を殴りつける勇ちゃん。なんとも言えない姿であり、なんとも言えない哀愁を感じる姿だった。
(なんでモテないって、そんなの下心が丸見えすぎるからだよ)
勇ちゃんがモテない理由は、とても単純だ。マーナが言っていたように下心が丸見えすぎ。特に勇ちゃん好みのスタイルのいい女性には、より一層下心を丸見えにさせすぎていた。もっと言えば胸をガン見しちゃっているのが問題と言えば問題だった。相手がいくら勇者様とはいえ、胸ばっかり見るような男に好意を持つ女性がどこにいると言うんだか。
加えて勇ちゃんの好みの女性はわりと清楚系な人が多いようだ。となれば余計にそういう視線には敏感になるし、そういうオープンすぎる人はちょっとと言われやすくなる。……まぁ、なかにはいわゆる駄メンズが好きという女性もいると言えばいるけれど、駄メンズ好きな女性が勇ちゃんの好みのタイプというのはどれだけ確率が低いのかということになる。
そのことを勇ちゃんは理解していないようだ。もうちょっと視界を拡げられれば、嫁はどうか知らないけれど、現地での恋人はできるんじゃないかなと思うんだけどね。もっとも勇ちゃんの場合は手広くしすぎてしまって、大失敗をやらかすということになりかねないけれど。
俺が言えた義理ではないが、複数の女性と関係を持つというのはどうかと思う。完全なブーメランではあるが、複数の女性と関係を持つのであれば、その全員を幸せにする覚悟がないといけない。決して遊びでしていいことじゃない。
そのことを勇ちゃんはたぶん理解していなさそうだ。……うん、やっぱりこの人は当分モテないなと思うよ。むしろこの人がモテるイメージがまるでわかないもの。まぁ、諦めろとだけ言おうかな。
「俺だって、カレンちゃんみたいに美人さんや美少女をはべらせたいよ! あんなことやこんなことを、イチャイチャフフフしたいよぉ!」
泣きながら叫ぶ勇ちゃん。けれど言っている内容は残念というレベルを通り越していた。むしろどこから突っ込めばいいのかわからないことを言い出していた。
そもそも俺ははべらしているわけじゃない。それぞれの嫁を愛でているだけであり、はべらしてはいない。イチャイチャフフフはたしかにしていると言えばしているが、いつもそればっかりしているわけじゃない。だけど勇ちゃんの目にはそういう風に映っているようだ。まことに遺憾である。
「俺もカレンちゃんみたいにギシギシしたいの! 勇者になればいくらでもギシギシし放題だって思っていたのに! こんなの、こんなの俺が求めていた勇者ライフじゃないよ!」
「……なに言っているんだ、この勇者」
遺憾を示している間に、勇ちゃんはさらなるぶっちゃけトークをしてくれた。どうやら勇ちゃんはわりと遊んでいる系のチャラ男っぽい見た目なのに、童貞さんのようだ。実際に童貞さんなのかはわからないけれど、話を聞くかぎりはまず間違いなさそうだ。
「え? あ、カレンちゃん」
「オス、童貞勇者さん、こんにちは」
「ど、童貞ちゃうわ! ちゃんと経験しているし? りょ、両手で足りないくらいに女性経験あるし?」
あからさまに狼狽えながら否定する勇ちゃん。その反応がかえって答えを言っているのだということには気づいていないようだ。もしくはわかっていないのかもしれないね。どちらにしろ憐れだった。
「……まぁ、勇ちゃんが童貞だってことはわかったから」
「だ、だから童貞じゃないってば」
「はいはい。それでちょっと話があるんだけど」
「話?」
泣きながらも怪訝そうにする勇ちゃん。そんな勇ちゃんの身の上話について尋ねたんだ。




