Act9-133 求める心と呼ぶ声
えー、まぁ、その、シリウスがですね。「クッ、殺」状態になります。
相手? 相手はまぁ、うん←苦笑
というわけでちょっとお気を付けて。
剣と拳が交錯する。アダマンタイトでより強化されたはずの剣が握り固められた拳に受け流されてしまった。角度をわずかに逸らすことで刃に触れないようにしているのだろう。
本来であればありえないこと。けれど相手は普通の相手じゃない。だからこそありえてしまう。だからと言って負けるわけにはいかない。負けていいわけがない。
「ふふふ、余裕見せすぎじゃない、お姉ちゃん?」
「黙れ」
にやにやと笑うカティに腹が立った。右手に握っていた短刀を手放し、時計回りに回転してその顔面に裏拳を放つ。がカティはそれを避けた。「ひゅー」と下手な口笛を吹く様に苛立ちが募るけれど、避けてもらってよかったよ。
「本命はこっち」
手放した短刀を左手でつかみ、回転の勢いのままカティに向けて斬りつけた。
カティが目を見開いて驚いた。当たる。そう確信したのだけど、カティアはその体勢からさらに上体を大きく逸らすことで避けた。
見ればカティの両手は地面に着いている。相当に大きく上体を反らしたようだ。
ずいぶんと体が柔らかいなと思いながら、喉元すれすれを通過していく切っ先を苛立ち混じりに見つめていた。
「ちっ」
舌打ちが出た。でもこれでカティの体勢は崩れた。ここから先はない。
今度こそと思ったとき、つま先が見えた。
今度は私がとっさに上体を反らした。鼻先すれすれを通過していくカティのつま先と陽光に煌めく銀髪を眺めることしかできなかった。
「ありゃりゃ。いまのは当たったと思ったのに」
「ちぇ」と詰まらなさそうに唇を尖らせながら着地をするカティ。
「ロード・クロノス」となった私と「クロノスウルフ」であるカティ。
ランク的には私の方がひとつ上だ。そのひとつ上であるはずの私とひとつ下であるはずのカティが互角の戦いを繰り広げていた。
……いや、下手に虚勢を張るのはやめようか。ひとつ下であるはずのカティ相手に私は、押されている。
私は若干だけど息が切れている。でもカティは余裕そうににやにやと笑っている。
(腹が立つなぁ、本当に)
ありえないことだけど、現実に起こっていることだ。そのありえない現実に私の苛立ちは募っていく。
「さっさと死ね!」
「うわぁ、酷いなぁ。かわいい妹相手に「死ね」とか。そんなことを言っていたら、パパに嫌われちゃうよ、シリウスお姉ちゃん?」
にやりとカティが口元を歪ませる。そのひと言に集中がかき乱されてしまう。「黙れ」と叫んでから唇をかみしめる。
(なんで気付かれている?)
私は普段パパを苛めている。オモチャにしているようなことばかりしている。「パパ遊び」なんてバカなことをしているのは、私の内側にある想いを吐露しないためのもの。
……へこんでいるパパがかわいいからしてしまっているという気持ちも若干だけあるけれど、大半はこの気持ちを隠すためのものだ。
(なんで私がパパをそういう風に見ていることを知っているの?)
私はパパが好きだ。娘としてはもちろん、そして女としても。
私はパパが好きだ。パパを愛している。でもパパは私をそういう風には見てくれない。
パパの中では私は娘でしかない。娘としてでしか愛してもらえない。
わかっている。わかっているんだ。そんなことは。
それでも、それでもこの気持ちはなくなってくれない。消えてくれないんだ。
「残念だよねぇ。シリウスお姉ちゃんはとっても美人さんなのに、パパにとってはどんなに美人さんであっても、シリウスお姉ちゃんは娘でしかない。家族になれてもお嫁さんにはなれないもんね」
くすくすとカティが笑う。その笑顔と言葉に苛立ちが募っていく。
「うるさい、黙れ!」
なんの工夫も策もない、ただ短刀を振り回す。こんな攻撃じゃ通じないというのはわかっていた。それでも私はそんな攻撃をするしかなかった。そうするように仕向けられてしまっていた。
「あははは、そんな攻撃じゃ当たらないよぉ?」
けらけらと笑うカティ。実際私の攻撃はかすりもしない。時折惜しいと思うことはあれど、それ以上にはならない。
逆にカティの攻撃も当たってはいないけれど、かすることは多い。誰がどう見ても劣勢だった。それでも私は負けるわけにはいかない。パパを傷付けたこいつにだけは負けてはいけないんだ。
「死ね、おまえなんて死んでしまえ!」
短刀を両手で握り、全力で振り下す。けれどカティは笑って避けた。それどころか──。
「はい、捕まえた」
私の懐に入り込み、そのまま私を地面に押し倒してきた。押し返そうとするけれど、絶妙な力加減と体重を込められることで押し返すことができなかった。
「離れろ、このっ!」
「離さないよー? だって離す気なんてないもの。それどころか」
カティの蒼い瞳が妖しく光る。なにをする気だと思ったときには、なぜかカティの顏が近づいた。
「このときを待っていたんだもん」
「え?」
「いただきまーす」
妖しい輝きを放つ目を向けながら、カティは楽し気に笑った。そして一気に顏を近づけると──。
「ん、んんっ!?」
──私の唇を奪ってきた。それも唇を割り開いて、だった。
初めての感触。初めての行為。パパがママたちとするようなこと。
キスをされても頬や額ばかりだった。唇にされたことはいままで一度もなかった。そのなかったことをいま私はされてしまっていた。
『あは、奪っちゃったぁ~』
楽し気に笑うカティ。そんなカティに抑えこまれながら、私は必死に抵抗しようとしたけれど、的確かつ絶妙な力加減で抑えこまれてしまった。
それどころかカティは徐々に私の両手を頭上へと追いやっていく。なにをされるのかはわからないけれど、どうにか跳ね除けようとしたのだけど──。
『抵抗なんてしちゃダメだよ?』
くすりと笑われながらカティが腕を掴んだ。そして──。
『えい』
──妙に軽いひと言とともに私の体は痺れた。
(な、に、これ)
体の感覚がマヒしていくのがわかった。頭は動いているのに体が動いてくれない。
「「天」の力の応用だね。雷ってわかるよね? あれを掌で起こしてバチバチバチぃってしたの。ふふふ、シリウスお姉ちゃんはこれでもう動けないね」
くすくすと楽しげに笑うカティ。悔しいけれど、実際もう体の自由が利かなかった。抵抗したくてもできなかった。
「さぁて、ここから「オタノシミ」だねぇ」
私の両手を頭上で交差させ、左手一本で抑えこむとカティは頬を染めて口元を歪ませた。
「くっ、この、げすが」
「あは。いいよ、シリウスお姉ちゃん。その表情とってもかわいいの。かわいすぎて、シリウスお姉ちゃんの「ハジメテ」全部貰っちゃうね?」
「ハジメテ」──。それがなにを意味するのかはわかっていた。
「やめ、ろ」
「だぁめ。どうせパパには貰ってもらえないんだよ? なら私がシリウスお姉ちゃんの貰ってあげる。ううん、シリウスお姉ちゃんを──」
「私の女にしてあげるよ」そうカティが呟いた。そしてカティの顏が再び近づいてくる。
(ぱぱ、たすけて)
なにもできない私はただ迫り来る瞬間を見ないようにまぶたを閉じた。まぶたを閉じながら必死にパパを、最愛の人の名前を心の中に口にしていた。そして──。
「そこまでだ、カティ!」
──あと少しというところで声が聞こえた。自由の利かなくなった体で恐る恐ると顔を向けるとそこには汗だくになったパパが立っていたんだ。
……なんででしょうね。書きながら同人時代のことを思い出していました←笑
カティのドエス化が止まらない←しみじみ




