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Act9-129 たとえ妹だとしても

 本日六話目です。

 森の中を駆け抜けていく。


 追いかけてくる人は誰もいない。このくらいで大丈夫かな?


「……もう大丈夫かな?」


『恐らくはな』


 おばあちゃんも頷いていた。どうやらパパたちが追いかけてくることはなさそうだった。……個人的にはちょっぴり寂しいけども、こればかりは仕方がないかな。


「ちょっと休もうかな」


『そうするといい。まだ「竜の王国」には遠いからな』


「そうだね」


 ふぅとため息を吐きながら、近くにあった木の根本に寄りかかる。


 時間が時間だから、誰も通りかかりそうになさそう。かえって好都合だった。いまの私は人間さんで言えば、五歳児くらいの見た目だから、下手に人通りがあると面倒ごとになりそうだ。


 でも朝早いということが面倒ごとに発展するのを防いでくれていた。


「……ねぇ、おばあちゃん」


『なんだ、カティ?』


「私、パパに嫌われちゃうかな?」


『……なぜだ?』


「だって私悪いことしちゃったもの」


 パパは私を愛してくれた。義理の娘、しかも種族さえも違う私なんかを、パパは愛娘だと言ってくれた。心の底から愛してくれた。……こんな私なんかを娘だと言ってくれた。愛していると何度も言ってくれた。


 そんなパパの愛情に私は報いることなく、パパたちと別れてしまった。それもパパを傷つける形でだ。……親不孝にもほどがあるよ。


 そんな親不孝な私なんか、パパはもう──。


『アホウ』


「え?」


 ──おばあちゃんに呆れられてしまった。


 というかいきなり「アホウ」はひどくない?


『アホウでなければ、大馬鹿者だ』


「え、ちょっとひどくない?」


『ひどいのはそなたの方だよ、カティ。そなたが知る父は、あの程度でそなたを嫌ったか?』


「……でも私は」


『ならそなたはあの程度のことで、父を嫌えるか? 父がそなたを傷つけた。それも本心からのものではなく、本来は言いたくなかったであろう言葉を投げ掛けられた程度で、そなたは大好きなパパを嫌えるのか?』


「そんなことっ!」


『──ならばそれが答えであろうさ。そなたの父もまたその程度でそなたを嫌うわけがない。むしろ意地でもそなたを救いだそうとするだろうな。それがそなたのパパではなかったか?』


 ぐうの音も出ないくらいの正論だった。


 なにも言い返すことができない。


 だってその通りだ。私の大好きなパパはこの程度であきらめるわけがないもの。パパはなにがあっても諦めない。そんなパパが私は大好きだし、憧れなんだもの。だから目が見えなくても私は平気だった。


 パパのあり方をずっと見ていたから。だから私も目が見えなくても負けないでいられたんだ。


 だってそうでもなければ、私はパパの娘だなんて言えないから。


 胸を張って「パパの娘だ」って言えるようになるために、私は目が見えないというハンデにも負けないでいようと決めていたんだ。大好きなパパの娘として恥じない自分でいるために。


「……そう、だね。パパはこのくらいじゃ嫌いには──」


「そうだね。パパなら嫌わないと思うよ。パパは優しいから。どんなことをされても家族を嫌うことはないもの」


 背筋が凍えるような殺気が飛んでくる。声の聞こえてきた方を見やるも、そこには誰もいなかった。


「聞き間違い、かな?」


 息が切れていた。ほんの一瞬だけで呼吸が乱れてしまっていた。幻聴にしては心臓に悪すぎる。ほっと一息を吐こうとした。そのとき。


『上だ、カティ!』


 おばあちゃんの声が聞こえてきた。同時に影が私を覆いこむ。顔を上げるとそこには短刀を逆手に握ったシリウスお姉ちゃんがいた。


「そう、パパは優しい。けれどね。私は優しくないよ。特にパパを傷付ける奴は許さない。たとえそれを為したのが妹だったとしても、ね」


 シリウスお姉ちゃんはとても冷たい目で私に向かって短刀を振り下した。

 カティを強襲するシリウスでした。

 これにて二月の更新祭りは終了です。

 続きは明日の十六時予定です。

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