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Act9-127 家族への想い

 本日四話目です。

 怒り狂っていた。


 それまでの穏やかさは影を潜め、いまはただ怒りに燃えている。


 それほどまでに忌まわしき妹めは、カティを愛しているのか。


 血の繋がりもなければ、扶養する義務もないはずの一頭の狼を愛してくれているのか。


 ただ愛した女と同じ名前であったというだけだったこの子を愛娘として想っているのか。


『……よき父を持ったな、カティ』


 心の底から思う。忌まわしき妹は、いや、カレンはよき父なのだ、と。……女を父と呼ぶのはどうかとは思うが、あやつの怒りは親の、父としての怒りであろう。


 母の怒りとは少し違う。母の怒りはもっと静かなもの。愛する子に寄り添えなかった自分を責める怒り。内側へと向かっていく怒り。


 しかしカレンのそれは、自らにも向かっているが、自らにも向ける以上に外側へと、侵略者への怒りに燃えている。


 もとより父という存在は、外から護るもの、そして母とは内側を護るものである。ゆえにカレンのそれは父としての怒りだ。侵略者である我へと向けた怒りだ。


『……パパは過保護だから』


 カティはなにやら恥ずかしがっておるようだ。父など我にはおらぬからその気持ちはよくわからぬ。


『よいではないか。過保護ということは、それだけそなたを大切に想っているというなによりもの証拠であろう?』


『……それはそうかもしれないけど』


 どうにも歯切れが悪いのぅ。ははぁ、さては恥ずかしがっておるのか?


『ふふふ、そなたでも恥ずかしがることがあるのだな、カティや』


『む、それは失礼だよ、おばあちゃん!』


『くくく、いまさらであろうが? そなたとて、我にどれほどの無礼を働いたことか』


『わ、わふぅ。反論できない』


『むしろさせはせんよ。くくく』


 少しばかり、意地悪だったかのぅ?


 だが、決して間違いではない。いまさら失礼だの無礼だのと言われてもちゃんちゃらおかしいわ。その失礼と無礼をどれだけ我に働いたのかをわかっておらんのかのぅ?


 ……我も変わったものよ。昔の、少し前の我であればカティのような振る舞いをされていたら、誰彼構わずに噛み殺していたが、この子相手には不思議と笑ってしまう。笑って許すことができる。


 これが「家族」というものなのかもしれぬのぅ。


 ……その「家族」をいままでどれほどまでに壊してきたのかは、もうわからぬ。


 親を子の前で踏み殺したこともある。子を親の前で喰い殺したこともある。


 数えきれないほどの「家族」を文字通り破壊してきた。


 その我がいまさら「家族」について考えることがあるとは。皮肉なものだ。


『おばあちゃん?』


『……なんでもない。それよりもカティや』


『うん?』


『すべてが終わったら、思いっきりパパに甘えなさい。もちろんちゃんと謝ることも忘れずにな?』


『ぅ、甘えるのは』


『なんじゃ? 少し前までは甘えん坊だったのが、なにをいまさら恥ずかしがる必要がある?』


『そ、それはそうかもしれないけど』


 ふむ。お年頃という奴かの?


 我にはそんな時期がなかったからよくわからんのだが、まぁカレンを嫌っていないということはわかる。


 要は好意を示すのが恥ずかしいということであろう?


 多感な時期というのは、なかなか難しいというのは、カティの中からカレンと継嗣とのやり取りを見て知っておる。


 ……まぁ、継嗣の場合はカレンをへこませて楽しんでいる節があるから、厳密に言えばお年頃がどういうものなのかを我は知らんのだが。


『……変に肩肘張る必要はなかろう? 父と娘なのだ。ならあたりまえのように接すればよい』


『……わふぅ』


 納得しておらぬようじゃが、一応は頷いてくれたのぅ。ならばよし。我からこれ以上言うこともなかろう。


 ……まぁ、仲直りには少々時間が掛かるやもしれぬが、いままでの慰謝料として貰っておこうかの。


『……では、始めようか、カティや』


『わふぅ。あとでいっぱい「ごめんなさい」をしないといけないけど、いまは仕方がないもの』


『そうじゃな』


 本当に申し訳ないが、どうか耐えてほしいの。


(我であればいくらでも怨んでもいい。じゃが、この子だけは怨まんでくれ。我が妹よ)


 怒り狂うカレンに向けて我はただそれだけを祈りながら口を開いた。

 続きは十六時になります。

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