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Act9-123 犯人の正体

 ベッドから起き上がったティアリカ。起き上がったと言っても上半身を起こしただけだった。


 でもみんながいたときでは、それさえもできないほどに衰弱しているようにも見えた。しかしいまティアリカはあっさりと起き上がっていた。


「……演技にしてはやりすぎだな。というか趣味が悪いよ?」


「ふふふ、そういう「旦那様」こそ、あっさりと乗ってくだったではありませんか。そういう意味では「旦那様」もご趣味はよろしくないかと」


「……自覚しているよ」


「左様ですか」


 ふふふとティアリカは含むように笑っていた。それだけを見るといつも通りのティアリカなんだろうけれど、よく見るとうっすらと額に汗の珠が浮かんでいる。プーレが傷を塞いだのだろうし、こうして生きていることを踏まえると、重要な臓器を傷付けられたわけではないんだろうね。ただ血を流しすぎたことには変わらない。それも昨日の今日だ。


 いや、時間的には今日になったばかりの頃かもしれない。まだ血を失った影響は大きいはず。それでもこうしていつも通りに振る舞おうとしているのだから、やっぱりティアリカも規格外なんだなと思わされてしまう。


「……あまり無茶はしないようにね」


「……「旦那様」には敵いませんね」


 無茶をするなと言ったら、ティアリカは少し目を見開き、すぐに破顔した。どうやら無茶していることを隠せると思ったのかもしれない。甘く見られたものだよ。


「とりあえず、ティアリカは横になっていなよ。まだ体力は戻っていないでしょう。まだ半日も経っていないんだし」


「……そうですね。さすがにこれでは隠し通せませんか」


 ティアリカはため息を吐きながら、起こした体を倒そうとした。けれど不意にがくりとバランスを崩した。とっさに腕を差し込んで支えると、ティアリカは顏を真っ赤にしていた。


「どうしたの?」


「え、えっとお顔が近くてですね」


「……キス以上のことはしたでしょう?」


「そ、それはそうなのですが」


 顔を真っ赤にして狼狽えるティアリカ。一線は越えたのだけど、どうにもティアリカはすぎるほどに初心なところがあるなぁ。そういうところもかわいらしいとは思うけれど。


『いやいや、神子様。これは単に「適齢期を通りすぎて、もう結婚は無理だろうなぁと諦めていたのに、不意に求婚され、そのままベッドインまで済ませたけれど、すでにこじらせてしまっているために、なかなか変えられない女」のお手本のようなものであり、かわいらしいというわけではございませんよ?』


「あなたは黙っていなさい、ミドガルズ! というか、なんですか、その長ったらしい嫌味は!?」


『はて? 嫌味? そのままあなたのことを言ったまでなのですが、主ティアリカ』


「な!?」


『すべて事実ではございませんか? あなたがこじらせていたのも、結婚を諦めていたのも、求婚のうえでそのままベッドインまで済ませたのもすべて事実でしょう?』


 ミドガルズさんがとても楽しげな口調でティアリカをからかい出す。そんなミドガルズさんにティアリカは「この駄剣!」と忌々しそうに叫んでいた。……本当にいいコンビだよね、ティアリカとミドガルズさんは。……まぁ、ミドガルズさんがそれだけティアリカを心配していたという証拠だろうけれど。


「……ミドガルズさん。ティアリカを心配していたのはわかるけれど、あまりからかいすぎるものじゃないよ? というか、もっと素直に喜べいいんじゃないかな?」


『な、なにを仰るのですか、神子様!?』


「この駄剣がそんな殊勝なことを言うわけがありませんよ、「旦那様」」


『そ、そうですよ。ええ、もちろん』


 慌てるミドガルズさんとは対照的にティアリカは平然と返してくれた。その返答にちょっぴり傷ついたようにしながら頷くミドガルズさん。


 ……これはあれだな。お互いに長年一緒だったから、お互いの性格を知り尽くしすぎていて、心配なんてされるわけがないと思っているティアリカとらしくもなく心配したけれど、そのことを気づいてもらえないミドガルズさんとの意識のずれがあるようだな。このふたりらしいと言えばそうだけど。


「……まぁ、そのことはいいとして。俺だけを残したのはどういうこと?」


 支えていた体をそっとベッドに横たわらせると、ティアリカは悲しそうに表情を歪ませて言った。


「……私を襲った犯人をお伝えしたいのです。信じられないとは思われますが」


「……そういうということは」


「……ええ。私を襲ったのは、カティ、です」


 ティアリカは悲しそうにまぶたを閉じながらも、はっきりとその名を口にしたんだ。

 今夜十二時より二月の更新祭りとなります。

 今回も六話更新となってしまいますが、ご了承ください。

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