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Act1-17 夜会

本日二話目です。


「……あれ?」


 まぶたを開くと、そこは見慣れない天井だった。


 体を起こそうとすると、不意にきれいな白髪が見えた。


「あ、お目覚めになられましたか? カレンさん」


 アルトリアが笑っていた。


 安心したかのように、年齢の割には豊かな胸元に手を添えていた。


 心配を掛けさせるようなことをした憶えはなかった。


 が、アルトリアに心配を掛けるようなことをしたということだけはわかった。


「……心配かけた、ね?」


「なんで疑問形なんですか?」


 だが、心配を掛けたのはわかっても、それがどういうことなのかまではわからなかった。


 そもそも心配を掛けさせた憶えさえないのだから、なにに対して謝ればいいのか、さっぱりだった。


「いや、なんか心配させてしまったみたいだった、から?」


「そこも疑問形にされるのは困るんですが」


 アルトリアは苦笑いしていた。


 苦笑いしながらも、俺の頬を撫でてくれていた。


 頬を撫でる手つきは、モーレと似ている。


 妙な衝動に駆られそうになったけれど、どうにか抑え込めた。


 アルトリアは俺の葛藤には気づかず、ただ優しく頬を撫でてくれていた。


「いまは?」


「もう日が落ちましたね」


 アルトリアがカーテンを開いた。外はとっくに暗くなっていた。


 窓の外には、数えきれないほどの星が見える。

 

 日本ではおおよそ見ることの叶わない星空が見えていた。


「……あの、カレンさん」


「うん?」


 心地よさに目を細めていると、アルトリアが恐る恐ると口を開いた。


 なにか聞きたいことがあるようだった。だいたいの内容はわかる。が、あえてわからないふりをした。


「カレンさんのお父さまとお母さまは、どういうお方なのですか?」


 やっぱり、それを聞かれたかと思った。


 ただアルトリアの言い方がちょっと引っかかった。


 だって両親をお父さまとお母さまって言ったんだ。


 それもとても言い慣れた口調でだ。


 つまりアルトリアは両親をお父さまとお母さまと呼んでいるってことだった。


 アルトリアってお嬢様なのだろうか。


 よく見てみると、アルトリアは、所作のひとつひとつが上品だった。


 俺の頬を撫でる手つきひとつをとっても、優雅だった。


 雰囲気からも品性を感じられる。


 まるでどこかのお姫さまが、城を抜け出して、街中に繰り出しているような、そんな雰囲気をアルトリアからは感じられていた。


「……アルトリアのご両親のことも聞いていい?」


「私のですか?」


「うん。俺だけ話すのは、不公平だし」


「……そう、ですね。わかりました。でも、最初はカレンさんのご両親からですよ?」


 アルトリアの表情が一瞬歪んだ。


 よほど言いたくないことだったのか。


 それとも言えない事情でもあるのかと思ったけれど、俺が話せば教えてくれると言ったのだから、言えない事情っていうものはないのだろう。


 単純に思い出したくないことなのかもしれない。


 それでも一度言ったことをなかったことにはしたくない。


 だって「やっぱりなし」なんて言ってしまったら、それこそどんなことでも言えてしまう。


 失言をなかったことにはできない。


 むしろしようとしてしまったら、それこそ信用を失うことだ。


 それだけはしてはならない。


 そんな卑怯なことだけは、やっちゃいけない。


 そう思うからこそ、一度言った言葉を取り消しにする気はなかった。


「さて、俺の両親のことだけど、正直言うと、母さんのこと、なにも知らないんだ」


「え?」


「うちは、片親でね。親父しかいなかった。まぁ、兄貴たちやその嫁さん、それにじいちゃんがいるから、寂しくはなかったし、親父は経営者で忙しいはずなのに、俺ら兄妹の面倒を見てくれていた。すごい人だよ。だから辛くはなかった。母さんとおばあちゃんがいなかったことは、寂しかったけれど」


「お母さまとおばあさまはお亡くなりに?」


「うん、おばあちゃんは、俺が五歳のころに亡くなった。母さんはよくわからない」


「わからない?」


「俺が生まれてすぐに、蒸発しちゃってね。いまもどこにいるのかは知らない」


「そう、だったんですか」


「うん。ただ手がかりがないわけじゃない。むしろ、アルトリアのおかげで手がかりができた」


「私のおかげ?」


「うん。母さんは、アルトリアと同じで人魔族なんだと思う」


 そう、俺の母さんである鈴木空美すずきあみとアルトリアは、符号する特徴がある。


 真っ白な髪と肌に、きれいな紅い瞳。そして誰の目をも奪う美貌。それが人魔族の共通の特徴だとアルーサさんには教えてもらった。


 写真で見た母さんは、真っ白な肌と髪に紅い瞳のきれいな人だった。


 地球でいえば、アルビノと言える特徴の持ち主だったけれど、アルトリアに出会って、それが人魔族の特徴であることを知った。


 つまり母さんは人魔族だったんだと思う。


 確証はない。ないけれど、母さんが作っていた絵本は、どこかこの世界に伝わる「英雄ベルセリオス」の物語に通じるものがあった。


 まるっきり同じというわけではないけれど、非常に近しい部分がある。


 人魔族を思わせる外見に、「英雄ベルセリオス」の物語と似通った絵本。


 その二つだけで、断定することはできないけれど、なにも関係がないとまではさすがに言い切れない。


 偶然の一致かもしれないけれど、その可能性は低いと思う。


 だからと言って、母さんが人魔族で、この世界出身者になるわけじゃない。


 でも偶然の一致というのであれば、俺がこの世界に飛ばされたとき、俺はたしかに光の中でほほ笑む母さんを見た。


 あれが俺の見た白昼夢じゃないのであれば、俺がこの世界に来たのは、きっとなにかしらの理由がある。そしてその理由に母さんは絡んでいるはずだ。


 さすがにどういう理由でとか、どうやってとかはわからないけれど、なにかしらの理由はあるはずだった。可能性があるとすれば、それは母神スカイストだと思う。


 母神は時を操れるとモーレが言っていた。


 時、つまり時空間を操れる能力を持っている。


 となれば、俺のいた地球からこの異世界に俺を転移させることはできるんじゃないだろうか。


 仮にも母神と言われているくらいなのだから、それくらいのことはできるんじゃないかな。


 そして母神スカイストに、俺をこの世界に転移させてもらえるように、母さんが頼んだとすれば、母さんは母神スカイストと非常に近しい間柄ってことになる。


 そもそも、人魔族が虐げられているのって、もしかしたら母神スカイストに近しい間柄になれるのが、人魔族だけで、そのことに嫉妬したほかの種族が人魔族を迫害したってことじゃないだろうか。


 そう考えると、人族も魔族も、人魔族を迫害するのもわかる気がする。


 あくまでも理由がわかるってだけで、その気持ちに共感する気はないけど。


 ただあくまでも、これは可能性の話だから、調べる必要があった。


 だから人魔族についてのことをアルトリアに言う気はなかった。


 ただ母さんが人魔族かもしれないとだけ伝えた。それくらいは伝えてもいいはず。


「カレンさんのお母さまも人魔族だったんですか?」


「親父や兄貴たちの話からすると、ね。アルトリアみたいに真っ白な髪と肌に、紅い瞳のきれいな人だったって話だったから。ちょうど俺の目の前にいる美人さんと同じで、ね」


 からかうようにして笑いかける。


 どうしてそうしたのかはわからないけれど、なんとなく、そうしたかった。そうして笑いかけた結果、アルトリアが顔を真っ赤に染めて、俯いてしまう。


 あれ? おかしいな。


 地元の友達にすると、「はいはい、ありがとう」とか言って、流してくれるのだけど、なぜかアルトリアは受け流すどころか、受け止めてくれた。


 ちょっと予想とはだいぶ違う反応に、俺は反応に困ってしまった。


「えっと? アルトリア」


「……つ、次は私の両親の話ですよね? 私もカレンさんと同じで、片親なんです。それもやっぱりカレンさんと同じで、お父さましかいません。お母さまは私が幼いころに、病気で亡くなられました」


 アルトリアは、顔を俯かせたまま、ご両親について話し始めてくれた。

続きは六時です。

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