Act9-116 たとえ命を喪っても
こっちも遅くなり申し訳ないです。
どうにも疲れが抜けてなくて←汗
「──カルディアはきっと「他の女にうつつを抜かしてごめん。もうカルディアだけを見るから」と言ってほしいんだろうけれど、俺にはそれは言えない。カルディアだけを見ることは俺にはできない」
それは言われるだろうと思っていた言葉。想定していた言葉。そして言ってくれると信じていた言葉。
(ああ、やっぱりこの人を好きになれてよかった)
誰よりも大好きな人。誰よりもその幸せを願える人。そして誰よりも守ってあげなきゃいけない人。それがこの人。私の大切な旦那様。
もし本当に「カルディアだけを見るから」なんて言われていたら、きっと私はこの人への想いを冷めてしまっていたかもしれない。
……まぁ、その程度で冷めるような想いではないのだけど、少しだけ執着は薄れてしまったかもしれない。
だって私が好きな旦那様は、私が心を奪われた人は諦めない人だもの。
どんな状況にあっても決してあきらめない。諦めることなくあがき続ける人だもの。
そんな旦那様を、カレンを私は好きになり、そして愛した。
だからそんな旦那様が私だけを見つめるなんて言うのはダメだと思う。らしくなさすぎるもの。
「……それがどういうことを言っているのか、わかっている?」
旦那様を見つめる。旦那様は心苦しそうな顔をしていた。……そんな顔を浮かべさせたくない。
でも、いまだけは言わないといけない。だってこれから旦那様は──。
「……わかっているつもりだよ。だって俺が言っていることは、カルディアを傷付けることだから」
「……ふぅん? わかっているのに言うんだね?」
「……うん、わかっていて言っている」
「……それは死にたいってことでいいよね? 私を怒らせるってことは死にたいってことだもの」
──旦那様はすべてを失うことになるのだから。だからこそ、私にできることをすべてしてあげたい。
旦那様にはどんなことがあっても生きていてほしい。どんなことがあっても諦めないでいてほしい。だからこそ旦那様に刃を向ける。
なにがあっても負けないでいてほしいから。
なにがあっても生き抜いてほしいから。
そう、なにがあっても。なにをしてでも諦めることなく、まっすぐに進んでほしい。
たとえその道が血塗られたものであったとしても。
無数の屍の上を歩く道であったとしても。それでもまっすぐに進んでいてほしかった。
(その屍のひとつが私だったとしても、ね)
私はきっと旦那様とはずっと一緒にはいられない。
こうしているいまでもわかる。ずっと一緒は無理だってことを。私は理解している。だって私に残された時間は限られているのだから。
それがいつになるのかはわからない。けれど必ず終わりはある。その終わりを一度は受け入れたことがあるからわかる。私はいつかはまた死ぬんだって。
その時を迎える日まで一緒にいたいと思う。
一緒にいてあげたいと思う。
それでもいつかは必ず別れはある。
その時、旦那様は強くあれるかはわからない。
もしかしたら心がボロボロになっているかもしれない。
ガルーダ様のように愛する人を喪い、その思い出に浸り続ける日々を送っているのかもしれない。
もしくは常に笑顔でい続けられるような幸せな日々を送っているのかもしれない。
そのどちらなのかはわからない。もしくはまた別の日々を送っているのかもしれない。
どちらにしろ、私がその日々を見ていることはできない。
いつまでも一緒にいてあげたいと思うけれど、その「いつまでも」は私には存在しない。
ううん、私だけじゃない。私たちの誰もがいつかはいなくなるのだから。
そのとき旦那様はひとりっきりになってしまうのか。それとも「次の誰か」を見つけているのか。
そのときに私はいないだろうけれど、できれば旦那様には笑顔でいてほしいなって思う。
そうなるためにこれは必要なこと。そう必要だからこそ、旦那様には知っていてほしい。
自分のために頑張るということ。誰のためでもない。
自分自身のために頑張っていいんだってことを知ってほしい。
そのためであれば、私はこの命を懸けてもいい。
命を懸けてもいいと思える人。この人のためなら命を捨ててもいいと思える人。それが私にとっての旦那様。スズキカレンだった。
「……答えなよ、カレン。この場で死ぬ? それとも私だけを愛してくれる? どっちか選んで」
あえて本気で脅した。本気で脅しながら私は旦那様をじっと見つめていた。
重いけれど、まっすぐなカルディアの想いでした。




