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Act9-103 想いと願い

 成長したカティの語りとなります。無垢な頃と比べると大幅に違いますでのご注意ください。

 私の記憶はとても曖昧だった。


 私はいまから何千年も前に産まれた、らしい。


 らしいというのは私自身にその自覚がないから。


 だってついこの間まであの黒いぶよぶよに、カオスグールに喰われて取り込まれていたおかげで時間経過がまったくわからなかった。


 そんな状態で何千年も過ごしたのだから、記憶の混濁があるのも当然のことだった。


 でもそんな私をパパは助けてくれた。


 あの真っ黒な牢獄から私を救い出してくれた。


 もっとも目が見えないのはいまも同じだ。


 目が見えないという意味であれば、私はまだあの牢獄から抜け出してはいないのかもしれない。


 だけど、目は見えなくてももう怖くなかった。


 だって目は見えないけれど、それ以上の温かさを私は知っている。


 パパのぬくもりを知っている。シリウスお姉ちゃんのぬくもりも知っている。レアママの、サラママの、プーレママの、カルディアママの、そしてティアリカママのぬくもりを知っている。


 だから怖くないんだ。目の前が見えなくても私はもう怖くはない。


 だって私には私を愛してくれる人たちがいて、その人たちを私は愛している。それは私の体を奪ったフェンリルおばあちゃんも同じだ。


 フェンリルおばあちゃんは、悪ぶっているようだけど、実際はとても優しい人だった。


 心が幼かった頃の私に合せて話をしてくれたし、なんだかんだと言いながらも私にひどいことをしなかった。


 おばあちゃんがその気になれば、私の意識なんて一瞬で呑み込めるはずなのに。


 それをいまのいままでしなかったし、ティアリカママを殺さないでくれた。


 だからフェンリルおばあちゃんが優しいことを私は知っている。


 シリウスお姉ちゃんに言ってもきっと信じてくれないだろうけれど。


 でも信じられなかったとしても、私の中でのフェンリルおばあちゃんが優しい人だってことには変わらない。


 ほかの人がなんと言おうとも、おばあちゃんと直接心の中で繋がっている私は、私だけはわかっているんだ。


 フェンリルおばあちゃんは決して「最悪の化け物」なんて言われるような存在ではないということを。


 おばあちゃんはただ「愛」を欲していただけだったということを。


 誰かを愛し、誰かから愛されたかっただけだったということを。私は知っている。


 ……おばあちゃんが否定するだろうなってこともね。おばあちゃんってば、素直じゃないから。


 でもそんな素直じゃないおばあちゃんが私は大好きだ。ティアリカママと同じくらいに大好きだ。


 そんなおばあちゃんを苦しめた「破壊神」であり、真の「母神」であるスカイディアを私は許せない。


 あの女はへらへらと笑いながら、おばあちゃんを殺した。


 自分の想定よりも強く産まれた。


 たったそれだけのことであの女はフェンリルおばあちゃんを否定した。


 ……フェンリルおばあちゃんがなにを求めていたのかも知らずに、ゴミを捨てるかのようにしておばあちゃんを殺した。


 すべてはあの女が「母神」だったからだ。


 スカイスト様が「母神」であればまだ結果は変わっていたのかもしれない。


 そのスカイスト様にしても、あの女が生み出した同一の存在なわけなのだけど、あの女と本当に同一の存在なのかと言いたくなるほどにスカイスト様は素晴らしいお方だった。


 さすがはパパのママだなと思うもの。


 シリウスお姉ちゃんは何度も会っているみたいだけど、私も一度でいいからお会いしたいなって思う。


 思うけれど、そうしたらフェンリルおばあちゃんがヤキモチを妬きそうだなぁ。


 本当におばあちゃんってば、かわいいよね。


 ……なんだろう。いまちょっとだけ「パパっぽいなぁ」って思っちゃったよ。


 パパと同じで私もタラシさんなのかなぁ? 


 私としてはシリウスお姉ちゃんにしてほしいのだけど。


 シリウスお姉ちゃん好みの女の子になるのが目標だからね。


 そして最終的にはシリウスお姉ちゃんのお嫁さんになるのが私の夢。


 ……まぁ、お嫁さんになる前にシリウスお姉ちゃんに妹としてではなく、女の子として見てもらわなければいけないのだけど、いつになることやら。


 まぁ、それはいいや。


 いまは私の夢のことよりも、スカイディアへの対策を進めるべき。


 ティアリカママの怪我の具合も気にはなるけれど、フェンリルおばあちゃんが言うには「重傷だが、致命傷にはならないだろうし、後遺症はない」と言っていたから大丈夫だと思う。


 違っていたら「大っ嫌い」っていっぱい言ってあげよう。


 おばあちゃんが泣いちゃいそうだけど、勝手に私の体を奪い取っちゃうんだもん。


 少しくらい「オシオキ」をしてあげてもいいと思うんだよね。


『……カティ。いまなにか恐ろしいことを考えていなかったか? 妙な寒気を感じたのだが?』


 あ、気付かれた。でもこの程度のことで慌てる私ではないのだよ。ふふふ、甘いよ、甘すぎるよおばあちゃん。


『んーん? なんにも?』


『そうか? なにやらひどい寒気だったのだが、気のせいかの?』


 フェンリルおばあちゃんは納得していなさそうだったけれど、最終的には「気のせい」だと思ってくれたようだ。


 よかった、よかった。おばあちゃんが単純さんで。おかげでごまかすのも楽ちんだった。


『なんだ? また寒気が?』


 むぅ。おばあちゃんってば、勘が鋭いね。でもそういうところも好き。とはいえ、下手に知られるのは問題かなぁ。うん、ごまかそうかな。


『おばあちゃん、そんなことよりもスカイディア対策でしょう?』


『む。そうだな。たしかにそうだったな』


 スカイディアのことになるとおばあちゃんは人が変わる。


 いままでの恨みつらみはそれほどに大きい。


 でもそれは私だって同じだもの。私が牢獄に囚われたのは、あの女のせい。


 私が両親を奪われたのもあの女のせい。


 だからその罪は償ってもらわないといけない。その命を以て、ね。


『シリウスお姉ちゃんみたく、ほかの神獣様のお力を借りられればいいんだけど』


『さすがに無理だろうな。我とそなたが同化していることを知る者はいないのだ。ゆえに手助けは期待できぬ。我らだけでことを為す。そう思っておけ、カティ』


『うん、わかっている』


 こればかりはシリウスお姉ちゃんはもちろん、パパにも協力してもらえない。


 私とおばあちゃんだけでなさなければならないことなのだから。


『まぁ、改めてよろしく頼むぞ、カティ』


『うん。よろしくね、フェンリルおばあちゃん』


 私はフェンリルおばあちゃんと改めての挨拶を交わして、スカイディアへの対策を練って行った。

 成長したカティはわりと小悪魔じみた性格になります。……どうしてこうなったのやら←苦笑

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