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Act9-100 犯人の正体

 プーレと一緒に大広間を出た俺は、そのまま城の廊下をゆっくりと歩いていた。


 言葉を交わしてはいない。


 交わしてはいないが、それは表面上だけ。実際には念話を使って会話をしていた。


『傷痕がおかしい?』


 念話を使っていたのは、プーレからの指示だった。


 誰かに聞かれるかもしれないからということだった。


 その言い方だと犯人が城の中にいるということになってしまう。


 つまりは身内の犯行だとプーレは言ったようなものだった。


 考えられるのは、第一発見者であるアルトリアだった。


 実際アルトリアはティアリカとはあまりうまく付き合っていなかったし、初対面の際ににらみ合いをしていたから、犯人としては第一候補のようなものだ。


 それに推理ものであれば、犯人は現場に戻ってくるというのがお決まりであり、そして第一発見者というのは基本的に怪しまれてしまうのもまたお決まりだった。


 だけどプーレは首を振っていた。アルトリアが犯人ではないと断言しているわけではなく、アルトリアが犯人なのであれば頷けないことがあると言っていた。


 そしてそれこそが俺を大広間から連れ出した理由だったんだ。


『ティアリカさんは背中から鋭利な刃物のようなもので胸を貫かれていたのです。幸いなことに臓器は傷ついていなかったから無事でしたけども』


『不幸中の幸いか』


『そうですね。その不幸中の幸いがあったからこそ私はおかしいと思ったわけですけど』


『どういうこと?』


 プーレの言いたいことがよくわからない。


 胸を貫かれても運よく臓器は傷つかなかったからティアリカは無事だった。


 それのどこがおかしいのか。


『……やっぱり旦那様は普段通りではないのですね』


『え?』


『普段の旦那様ならおわかりだと思うのです』


『普段の俺なら?』


 プーレの言いたいことはやっぱりわからない。


 普段の俺ならわかるというのはどういうことなのか。


 いままでの会話でおかしなことがあって、その違和感に普段の俺ならば気づけるということなのかな?


 でもいまの会話でおかしなことなんて──。


『仮にですが、アルトリアさんが犯人だったとしたら、ティアリカさんはどうなっていたと思われますか?』


『アルトリアが犯人だったとしたら?』


『ええ。それでわかると思うのです』


 プーレは足を止め、まっすぐに俺を見つめていた。


 俺が答えを口にするまで待ってくれるみたいだが、いまのところプーレの言いたいことはわからない。


 わからないけど、わからないままでは話は進まなかった。


 言われた通りにアルトリアが犯人だとしたらティアリカがどうなっていたかを考えることにした。


『……アルトリアが犯人だったとしたら、性格上殺しに掛かるかな?』


 普段はそうでもないけど、ヒステリックなところがあるアルトリアであれば、たぶん臓器を避けずに心臓を貫きそうだ。


 でもティアリカは「剣仙」と謡われた剣士だ。そんなティアリカが簡単に背中から刺されるわけが──。


「あれ?」


 ──背中から胸を貫かれた。プーレはたしかにそう言っていたが、刺されたとは言っていない。


 そもそも鋭利な刃物のようなもので、とは言っていたけど、剣で刺されたとは言っていなかった。


 そもそもティアリカが背中を取られるなんてありえるのか?


 ティアリカの実力は七王陛下クラスだろう。グラトニーさんと互角にやりあっていたことを踏まえると、規格外の一角だ。


 その規格外の一角であるティアリカの背中を取れるなんて、アルトリアにできるのか?


『ティアリカは抵抗したの?』


『抵抗したのであれば、もっと傷痕があるはずなのです。でもティアリカさんにはこれと言った傷痕は見当たらなかったのです。あったのは致命傷をすれすれで避けた背中の傷痕だけなのです』


『つまり抵抗しなかった?』


 俺の言葉にプーレは頷いた。


 アルトリアが犯人だったとしたら、ティアリカを殺しているはず。


 普段のではなく、吸血鬼モードのアルトリアであれば、間違いなく殺している。


 でも吸血鬼モードになったとしても、レア相手に手も足も出ないことを踏まえると、ティアリカの背中をひと突きなどできるわけもない。


 そして凶器は刃物のような鋭利なものであり、剣ではないようだ。


 ということは爪かなにかということだろう。


 いくら吸血鬼モードになったとしても爪でティアリカの胸を貫くことなんてできるわけがない。


 考えれば考えるほど、アルトリアの犯人説が否定されていく。


 でもなら誰がティアリカを襲ったのか?


『……可能性があるとすればひとりだけいるのです。だからこそ旦那様を連れ出したわけですけども』


『……もしかして』


『ティアリカさんの背中が取れて、剣よりも接近できる相手なんてひとりだけなのです』


『でも、それは』


『あくまでも可能性なのです。ただその可能性は高いと思うのです。だってその相手はティアリカさんが自動的に背中を向けて守ろうとするのですから』


 プーレははっきりと言いきった。その言葉に俺は顔を俯かせながらも、否定できなかった。


 そう仮定すれば頷けるんだ。


 ティアリカを背中から襲えるし、ティアリカが抵抗もしなかったのもわかる。


 襲われるという想定をそもそもしない相手だから、娘だからこそだ。


『……ティアリカを襲ったのはカティだって言うのか?』


 捻り出すようにして呟いた言葉をプーレは悲しそうに頷いたんだ。

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