Act9-83 親心
急に遅れて申し訳ありません。
今回はプーレ視点となります。
夢か幻だったのかはわからない。
でもたしかにお父さんでした。
お父さんがいたのです。
相変わらず憎まれ口ばかり叩いていました。
素直に「頼んだ」とか、「任せた」とか言えばいいのに、旦那様を試すようなことばかり言っていた。
そもそも私を旦那様に任せたのはお父さんなくせに。なのになんで旦那様を試すようなことばかりしたのやら──半年前の私ならそう言ったと思います。
けど、いまならなんとなくわかるのです。
私も一応は「ママ」だから。……まぁ、お情けで「ママ」をさせてもらっているようなものでしょうけど。
そんな私でも「子」という存在がどういうものなのかはわかるのです。
どんなに成長しても。たとえ誰かを愛することができるようになったとしても、気をかけてしまう。
小さい頃の姿を思い浮かべてしまう。手のかかる、愛おしい存在だと思ってしまうのです。
……まぁ、シリウスちゃんやカティちゃんにはまだまだ恋だの愛だのは早すぎるのですけども。
いや、そう考えてしまうことこそが、私が親だという証拠なのかもしれませんね。
お父さんはだからこそ、旦那様を試されたんだと思うのです。
この人は本当に託すに足る人物なのか。本当にこの人に任せられるのか。それを知るために。
その結果、旦那様はお父さんの期待に応えられたのでしょう。
旦那様の介抱をしろとか言っていましたけど、本当はお父さんこそ介抱が必要だったのです。
お父さんは本当にお酒に弱くて、酒精がほぼないようなものであっても一杯で酔っ払ってしまうのです。
なのに強いお酒を少しずつとはいえ飲むなんて。
旦那様に「お義父さん」なんて言われたから意地を張ったに違いありません。意地っ張りにもほどがあるのです。
「強い酒は匂いだけで酔う」とか自分で言っていたくせに。
……厳つい顔をさらにしかめて隠していたのです。本当に困ったお父さんなのです。
もっとほかに言うこともあるのに。お母さんは元気かとか、お母さんはどうしているとか、そういうことを本当は聞きたいはずなのに。
最後の最後まで私のことばかり。
カッコつけるにもほどがあるのです。本当に困るのです。どうして最後にカッコつけるのです。
本当に困ったお父さんなのです。でもそんなお父さんが私は嫌いじゃないです。
ううん。本当は大好きです。
大好きなお父さんと大好きな旦那様とののこれからを祝福されました。……たとえあと十日ほどの命でしかなくても、その十日を私は精一杯生きたいのです。幸せだったと言いたいのです。
だから私はいま──。
「へぇ、結構広いね」
「わぅ。中もきれいだね」
「天井はさすがに私が本来の姿になると手狭ですねぇ~」
「いや、サラさんが竜の姿になったら、屋内はどこも狭くなるよ?」
「わふぅ。すごく静かなの。カツンカツンって音が響くの」
「でもここならいい式を挙げられそうだね、プーレママ」
──私はいま旦那様との式を挙げる教会にいました。
皆さんは思い思いのことを言って、教会の中を見回していました。
私もまた教会を見回していた。ここでお父さんとお母さんは式を挙げた。そう思うととても感慨深かったし、ここで私も旦那様と結ばれると思うと胸の奥が暖かくなっていく。
「最終確認だけど、ここで──」
旦那様が尋ねられた。私は確認の言葉の代わりに旦那様にと近づき、そして──。
「っ、プ、プーレ?」
──旦那様の唇に重ねることで返事としました。
「むぅ」
「むむぅ~」
そのことでカルディアさんとサラさんが頬を膨らませてしまわれましたが、私は旦那様だけを見つめて言いました。
「不束者ですが、よろしくお願いいたします」
「え、あ、うん。よろしくお願いします」
旦那様はお顔を真っ赤にされながら頷かれました。
明日は残り少ない人生の最後の思い出となる日。その日の訪れが待ち遠しく思いながら、私はただ笑っていたのでした。
続きは明日の十六時になります。明日こそは←




