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Act9-80 墓前にて

 教会へは城から馬車で向かった。……帰るはずのサラさんもなぜか連れて。


 俺とプーレ、カルディア、シリウス、カティにコアルスさんだけで車内はいっぱいだったのだけど、カルディアがシリウスを、プーレがカティを膝の上に座らせることでスペースを作ることになった。


「わふぅ。がたがたってするの」


「カティちゃんは馬車に乗るのは初めてですもんね」


「わふぅん。かえったら、ティアリカままにいうの!」


「カティちゃんは本当にティアリカままが大好きですね」


「わふぅ? プーレままのこともすきなの」


「ありがとう、カティちゃん」


 プーレとカティのやり取りはとても穏やかなものだった。


 少し前まではああしてプーレの膝の上に座ろうとはしなかったのに、いまはプーレのことをちゃんと「まま」として認識してくれているし、好きだとも言ってくれている。


 ただカティにとっての一番はやっぱりティアリカなんだなというのがよくわかる。


 プーレも「好き」と言ってもらえて嬉しそうにしているけれど、若干悔しそうだ。


 けれどティアリカを疎ましく思っている様子はない。むしろ闘志を燃やしているように見える。


 あれは「いずれ、ティアリカさんよりも「好き」と言ってもらうのです」と決意したようかな?


 なかなかに過酷な道ではあるけれど、頑張ってほしいと思う。


 まぁ、ティアリカもただでは譲らないだろうから、かなり過酷なデッドヒートが繰り広げられそうだ。


 そんなプーレとカティに比べて、シリウスとカルディアはと言うと──。


「……わぅ」


「ふふふ、どうしたの、シリウス。シリウスの大好きなお胸を枕にできているのに」


 くすくすと楽し気に笑うカルディアとは違い、シリウスは頭の上の耳まで真っ赤にしながら俯いていた。


 カルディアの言う通り、シリウスの大好きなお胸を枕にできるという状況であるのに、背筋をピンと伸ばしたまま、カルディアの膝の上に座っているだけだった。


 ……カルディアも人が悪いよね。どう見ても恥ずかしがっているというのに、それをわかったうえでからかうようなことを言っているんだもの。実にカルディアらしい。


「……やっぱり、私ひとりで座る」


「なんで?」


「なんでも! もう私はママたちの膝の上に座らせてもらうほど子供じゃないもん!」


 シリウスは顏を上げて半ばヤケクソのように叫んでいた。


 まぁ、実年齢はともかく、見た目は実際十歳児くらいで、精神年齢もそれに合わせて引き上げられているから、いくら大好きなママ相手でもああして膝の上に据わるのはめちゃくちゃ恥ずかしいんだろうね。


 ……俺はしてもらったことがないからいまいちわからないことなのだけど。


 でもシリウスが恥ずかしがるのはなんとなくわかる気がする。


 俺がああしてカルディアの膝の上に座ったら恥ずかしいもの。


 ……まぁ、カルディアではなく、レアになら何度かやられているんだけど。


 レアの場合はどんなに抵抗したところで最終的にはああして座らされてしまうから、最近はもうやりたいようにさせているのだけど。


 でもシリウスの場合はそういうわけにはいかないんだろうね。


 スペースなどないにも関わらず、カルディアの膝の上から退こうとしたけれど、それよりも早くカルディアがシリウスを腕でがっちりとホールドしてしまったもの。


 ……あのホールドは細腕であるのにも関わらず、かなり力強いからなぁ。脱出は不可能だろうね。


 なぜ俺が知っているのかは、ご想像にお任せするとだけ言っておこうかな。


「だぁめ。シリウスは教会に着くまでカルディアママのお人形さんだよ」


「うぅ、カルディアママのばか!」


 シリウスはカルディアに悪態を吐きながらも手足をじたばたとさせるけれど、カルディアは聞く耳を持たない。そんなやりとりにふたり以外の全員が穏やかに笑っていた。


 それからほどなくして馬車は停まった。見れば少し古ぼけてはいるが、立派な教会の前だった。


「まずは中を見る前に、カレンちゃん様とプーレでお墓参りへ行かれてはどうでしょうか?」


 コアルスさんの提案に俺とプーレは考えるまでもなく頷いていた。プラムさんの許可は取った。


 けれど、まだ「お義父さん」の許可を得ていなかったからね。


「じぃじによろしくね」


「お義父さん」の墓に行く俺とプーレをシリウスは手を振って見送ってくれた。


 そうしてシリウスに見送られながら俺たちは教会の裏側にある墓地へと向かい、そして──。


「お久しぶりなのです、お父さん」


 プーレのお父さんであるゼーレお義父さんのお墓の前で手を合わせたんだ。

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