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Act9-75 勃発する悲しき戦い

 サブタイはシリアスですが、内容はお察しです←

「お、お仕事中失礼します、旦那様」


 執務室に入ってくるとプーレは申し訳なさそうな顔をしていた。


 どうやら俺がしていたことを仕事だと思っていたみたいだ。


 でも実際は仕事じゃない。まぁ、旦那の仕事と言えば仕事と言えることなのかもしれないけれど。


「気にしなくてもいいですよ、プーレ殿。主様と私がしていることはギルドの仕事というわけではありませんので」


「そうなんですか?」


「ええ。私がしているのは結婚式に掛かる費用の計算ですので。そして主様は式場を決めている最中なのです」


「式場を、ですか? でも式場はレア様が」


「うん。レアが担当してくれているんだけどね。確保できた式場がいくつかあるみたいでね。どの式場にするかって聞かれたんだ」


 いくら式場確保を担当しているからとはいえ、最終的な決定は俺かプーレの意見を聞かないといけないとレアは言っていた。


 たしかに確保を担当しているからとはいえ、最終的な決定権があるわけじゃない。決定権があるのは主役である俺とプーレになる。


 だからこそレアが確保してくれた式場を眺めていたわけなのだけど、どうにもピンと来るものがない。


 やはり「ラース」ではなく、「エンヴィー」にするべきだろうか? 


「ラース」で生活を始めてまだ半年ほどのプーレのことを考えれば、やはり生まれ故郷である「エンヴィー」で式を挙げるべきなのかもしれない。


 でも俺の一存だけは決めきれないところもあった。だからプーレが来てくれたことは喜ばしかった。


「というわけで、プーレ。はい」


 プーレに各式場の簡単な説明と軽いスケッチを含めた資料を見せる。けれどプーレは首を傾げていた。なぜに?


「えっと、なにが「はい」なのでしょう?」


「「はい」は「はい」でしょう?」


「いや、だからですね? いきなり式場についての説明書を渡されただけじゃ困るのです。もっと事情を話してほしいのですよ」


 プーレは少し呆れているようだった。


 ジト目で俺を見つめていた。でもジト目なプーレもかわいいなと思う。


 こう腕の中に閉じ込めておきたいというか。


「……主様。私の前でほかの女性とイチャイチャはやめてくださいません?」


「イチャイチャはしていないよ?」


「……腕の中を見られてから言われることをお勧めします」


「腕の中?」


 なぜかモーレが不機嫌そうにしていた。


 俺としては別にイチャイチャなんてしていない。


 けれどモーレは腕の中を見ろと言ってくれた。なにが言いたいのかよくわからない。


 とりあえず言われた通りに、腕の中を見やると──。


「あ、あの、旦那様」


 ──顔を真っ赤にしたプーレとこんにちはだった。……うん、ちょっと意味がわからない。


 このかわいい生き物はなんだろう? いや、そうじゃない。そうじゃないよ、俺。


 プーレがかわいいのはあたり前だよ。普段はかわいいのにベッドの上だとわりと淫らになるところも俺にとっては堪らないと言うか──。


「だから、そういうことをやめろって言っているでしょうが!」


 モーレがぷっつんとしたようで、抗議するかのようにバンバンと机を叩いていた。というか口調がエレーンからモーレになっていないかな?


「そういうことはどうでもいいでしょう!? やめろって言っているのに、なんでプーレちゃんとイチャコラしているのさ!?」


「ちょ、ちょっとエレーン! 素が、素が出ているよ!」


「そういうことはどうでもいいの! どうしてカレンちゃんはそうしてすぐに女の子を口説くのかなぁ!? プーレちゃんも嫁だというのはわかっているけれど、私も嫁だよね!? それとも違うわけ!? ねぇ!?」


 モーレが掴みかかる勢いで迫ってくる。仮面をつけているけれど、目が血走っているであろうことは間違いない。というかこのままだとプーレが怯えてしまいそうで──。


「エレーンさん。落ち着いてほしいのです。いくらエレーンさんが嫁とはいえ、微妙な立場だからと言ってそんながっついたところで旦那様のお気持ちを得ることはできないのですよ!

「なに言っちゃっているの、プーレ!?」


 どうしてモーレに喧嘩を売るようなことを言っているのかな、この子!? そういうキャラじゃないよね、プーレは!?


「へぇ? 言うじゃない、プーレちゃん。私にそんなことを言ってタダですむと思って?」


「思うから言っているのですよ」


「……上等、表出なよ」


「勝手に出ろよなのです」


 ニコニコと笑いながら殺気を放ち合う嫁ふたり。そんな嫁ふたりに挟まれる俺。胃がとても痛いです、はい。


「あ、あのふたりとも? 喧嘩をしても意味ないよ? ほら、相互理解こそが──」


「カレンちゃん、ちょっとうるさい」


「旦那様は引っ込んでいてください」


「……はい、ごめんなさい」


 嫁ふたりから同時に満面の笑みを向けられ、すぐに俺は引き下がった。


 ……情けない? そんなことは言われずともわかっているよ。


 でもね? 嫁ふたりの殺気立った笑顔を向けられたらなにも言えないの! だって怖いもん、ふたりとも。


 だからなにも言えないもんよ。


「とりあえずどっちが序列上位なのかを決めようか?」


「わかりきったことを決めたがるなんてエレーンさんって変わっていますね、ふふふなのですよ」


「……やっぱり表出やがれ、微妙胸!」


「む、胸のことだけはエレーンさんに言われたくないのですよ!」


 でも俺がなにかを言わないとふたりの争いは止まりそうになかった。


 でも俺はなにも言えない。なにも言えないまま、ふたりのやり取りを見守ることしかできなかった。

 プーレとモーレ。いままであまり交わらなかったふたりの戦いが始まります。たぶん←

 

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