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Act9-64 家族水入らず、?

「……なるほどねぇ。そういうことがあったのかい」


「ごめんなさい。いままで黙っていて。母様には伝えたのだけど、婆様は「獅子の王国」を出ちゃっていたから」


「いや、気にしないでいいよ。あんたが死んでしまったと思って、隠居を決め込んだ私が悪いからね」

婆様は笑っていた。


 私が死んだとずっと思っていただろうから、怒られるかもしれないと思っていたのだけど、思っていたよりも婆様は冷静だった。


「まぁ、ディアナにはいろいろと言わなきゃならないことが増えたけど、まぁ構わないだろうさ」


……でも母様にはちょっと言いたいことがあるみたい。母様ってば、すっかりと婆様には秘密にしちゃっているみたいだね。


あとで怒られそうだよね。


「いや、いま叱るからね。というわけで出ておいで、ディアナ」


 ニコニコと笑う婆様。いきなりなにを言いだすんだろうと思っていたのだけど、医務室の天井の一角がいきなり開いた。「え?」と思わず声をあげると、そこから母様が降りてきた。


 ……私自身なにを言っているのかまるでわからないのだけど、それが事実なのだからこう言うしかなかった。


「えっと、なにかご用でしょうか、母様」


 母様は顏を引きつらせながら笑っている。でも婆様はそんな母様を見てもニコニコと笑うだけ。母様がびくりと体を震わせていた。


「え、えっと、母様? 私がなにか──」


「なにかしましたか、と抜かすんじゃないよ、このバカ娘」


 母様の言葉を遮るようにして婆様は母様の顏を掴まれた。それから思いっきり母様のお顔を握り絞めていく。


 治療師でしかないはずなのに、婆様の力はとても強いみたいで母様が「痛い痛い痛い!?」と言って婆様の手を何度も叩いていた。けれど婆様はやめることなく、そのまま母様のお体を持ち上げていった。


「か、顔が潰れる! 顏が潰れますよ、母様ぁぁぁ!?」


 母様が悲鳴を上げるけれど、婆様は笑っていた。言わなきゃいけないことって物理的にって意味だったんだね。初めて知ったよ。というか、婆様がこんなにもすごい人というのも初めて知ったよ。


「あんたは昔からそうだったねぇ。どうしてそういう大事なことをもっと早く伝えないんだい? ええ?」


「い、いや、これはその」


「言い訳無用」


「ぎぃやぁぁぁぁーっ!?」


 母様の悲鳴が再び医務室の中に響き渡る。医務室の中だけ「刻の世界」を発動させているから問題ないけれど、発動させていなかったらとても面倒なことになっていたように思えてならない。


 そもそもなんで母様がここにいるのかが私にはわからない。そしてなんでそのことを婆様は知っていたんだろう?


「うん? ああ、このバカ娘のことかい? 最初からだよ」


「え?」


「私がここのギルドに来たときから、この子が私のそばで控えていたことは知っていたよ。というか、この子自身が挨拶に来たのさ」


「そうだろう?」と婆様は母様に声を掛けているけれど、母様はぴくぴくと体を痙攣させるだけでなにも言わない。……気絶しているように思えるのは私だけじゃないはず。


「こら、なにを眠っているんだい。まだ朝じゃないだろう?」


 婆様が笑いながら力を籠めると、「めきょ」という鳴ってはいけないような音がした。


 でもその音が鳴ると母様は目を醒ましたみたいだ。婆様のスパルタっぷりがわかる光景だった。


「……なんか呆れている父様と話をしちゃったよ」


 目覚めた母様は最初にそう言った。それって死ぬ寸前だったって言わない? 婆様がどれほどの力を込めていたのかがわかるよ。


「こら、そういう寝ぼけたことはいいだろう? さっさと話をおし」


「は、はぁい」


 母様は婆様には頭が上がらないみたいだった。


 いまのいままで母様と婆様の関係がどういうものなのかはわからなかったけれど、母様は婆様にはどうあっても敵わないみたい。


 というか、いまの光景を見たら私だって婆様には勝てそうにないと思ってしまったもの。治療師ってなんだろうって思うよ。


「さて、どこから話をするべきかな。まぁ、最初からにしておこうか。えっとね。大前提から言うとさ」

「うん」


「獅子王陛下は婿殿を信用してはいた。でも、このギルドに関してだけは信用されていなかったんだよ」


 母様ははっきりとそう言いきったんだ。

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