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Act9-61 代表として

 本日二話目となります。

「私が代表、ですか」


 サラさんとティアリカさんが言われたことでした。


 私が皆さんの代表だと。そう言われたのです。でも私にはとてもじゃないけれど、そう思えなかったのです。だって私なんかよりもその任に相応しい人はいるはずなのです。


 だから私なんかが代表なんてあってはいけないのです。そもそもあっていいわけがないのです。だって私にはなにも──。


「だから、そういうところですってば」


 やれやれとティアリカさんが苦笑いされていました。


 サラさんはなにか言いたげに頬を膨らましています。


 でもティアリカさんにぽんぽんと肩を叩かれると、「わかっていますよぉ~」とまたため息を吐かれました。なんだか今日はサラさんがよくため息を吐かれるのです。


「いいですか、プーレ殿。謙虚さはあなたの長所です。ですが、その謙虚さも度を越してしまうと、かえって欠点となるのですよ。そしてこの場合あなたがご自身を卑下されると、選んでいただけなかった私たちはかえって辛いのですよ? 間接的に私たちはプーレ殿以下の女だと言われたようなものなのですよ。それもほかならぬ「旦那様」にです」


 ティアリカさんが目を細められながら言われた言葉に、私は強い衝撃を受けました。


「プーレちゃんが自信を持てないことを私たちはわかっています。もちろん、「旦那様」もです。それでも「旦那様」はプーレちゃんを選んだんですよ? だからあなたは私たちの代表なんです」


 サラさんもまた目を細めていました。おふたりともとても真剣な表情を浮かべていました。


「でも、私は」


「……そういうところは本当に変わらないのね、プーレちゃんは」


 やれやれとため息を吐かれる声が聞こえてきました。振り返ると医務室からの入り口となるドアが開いていました。そしてそこにはレア様が、穏やかに笑われたレア様が立っておられたのです。


「レア、様」


「あら? レアお姉ちゃんじゃないのね」


 ふふふとおかしそうに笑うレア様は、ドアから離れると私の方へと歩んで来られました。とても穏やかな笑みを浮かべられながらです。そして──。


「……本当にあなたは世話が焼けるね、プーレ」


 ──私をそっと抱きしめてくださいました。子供の頃のように、まだレア様を「おねえちゃん」と呼んでいた頃のように私を抱き締めてくれたのです。


 ああ、そうです。私は子供の頃からレア様が大好きでした。優しくてきれいで、そしてとても温かいレア様が、私は大好きでした。


 レア様がお店に来てくださるたびに、いつも甘えていたのです。お父さんとお母さんはそのたびに慌てていましたけど、レア様はいつも笑って私を抱っこしてくれたり、おやつを買ってくれたり、いろいろとしてくれたのです。


 でもレア様がお帰りになろうとすると私はいつも泣いていました。そんな私をレア様はいつもこうして抱きしめてくれたのです。その際に言っていたのは──。


『プーレは本当に甘えん坊だね』


「いつまで経っても甘えん坊なままなんだから」


 ──ああ、そうです。そうなのです。レア様は、いいえ、レアお姉ちゃんはいつもこうして笑いかけてくれたのです。


「……ごめんなさい、レアお姉ちゃん。私は」


「いいの。あなたがなかなか自信を持てないことを私たちは誰もが知っている。「旦那様」だって知っている。サラやティアリカが言った通り、あなたは私たちの代表なのだから。胸を張りなさい。あの人に選ばれたことを誇りなさい。じゃないと惨めじゃないの。私たちを惨めにさせないで。誇らせてちょうだい。ああ、私たちはこの子に負けたんだ、ってね」


「……それって」


「まぁ、あくまでも今回は、だけどね? 「旦那様」を諦めたわけじゃないもの。あくまでも今回は先を譲るってだけよ? あなたに「旦那様」を任せると言ったわけじゃないからね」


「そうですよ? いまだけはプーレ殿が代表です」


「そうそう、いまだけですよぉ~? いずれは私が正妻に」


「生娘がよく言うわねぇ」


「だ、誰が生娘ですかぁぁぁ!」


 サラさんが叫ばれました。よく見ると涙目になっているのです。そんなサラさんに私たちはみんな笑いました。笑っていました。サラさんもすぐに笑ってくれました。


 ああ、そうです。そうなのです。私はみなさんの代表なのです。


 たとえほんのわずかな間だけだったとしても、代表であることには変わらないのです。だからこそ私は──。


「ありがとうなのです、レアお姉ちゃん。先に旦那様の本当のお嫁さんになりますね」


「ええ。すぐに追いつくから、首を洗っていなさい、プーレ」


 ふふふとレアお姉ちゃんは笑っていた。サラさんもティアリカさんも同じなのです。もう自分を卑下することはできません。


 だって私はみなさんの代表として、旦那様の本当のお嫁さんになるのです。だから卑下なんてしていいわけがないのです。


「幸せになります」


 私はみなさんに向かって、精いっぱいの笑顔でそう言ったのでした。

 続きは明日の十六時予定です。

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