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Act9-57 エゴだとしても

 本日六話目です。

 プラムさんの言う通りかもしれない。


 プーレを徒に追い詰めてしまうだけなのかもしれない。


 幸せが辛さになるだけなのかもしれない。そんな辛い思い出を経験なんてさせるべきじゃないのかもしれない。


 でも俺は、それでも俺はプーレとの結婚式を挙げると決めた。


 一番の思い出をプーレにあげたかった。


 それはたしかに辛いものなのかもしれない。


 でも辛い思い出だからと言って、幸せじゃないとは限らない。


 一番の思い出であれば、辛くても幸せになれるはずだ。だって──。


「幸せと辛いという字はとても似ています」


「なにを仰っておられているのです?」


「……あくまでも俺の世界での、俺の生まれ育った国の字では「辛い」と「幸せ」はほとんど同じ字です。ただ一部分だけ違います。「一」という字があるかないか。それが違いです」


「……「一番」の思い出を作って、「辛い」を「幸せ」にしたい、と。そう仰るおつもりで?」


「……言葉遊びみたいだと思われるだけでしょうけどね」


 実際これは言葉遊びみたいなものだ。


 でも言葉遊びであっても、俺の気持ちは変わらない。


 俺はプーレを幸せにしたい。プーレに笑顔を浮かべさせたい。


 たとえそれがエゴだとしても、俺は俺の気持ちを押し通したい。


 プーレとの結婚式を挙げて、あの子にいままで一番の思い出を作ってあげたいんだ。


 ……俺との結婚式がいままで一番の思い出になるのかはわからない。


 でも、俺ができることはそれくらいしかない。


 俺が男であれば子供を作るということもありえたのかもしれない。


 子供を産む。それはたしかに思い出になるのかもしれない。


 けれど俺には子供を作ることはできない。プーレに子供を宿らせることはできない。


 だからそんな俺でもできることがあるとすれば、それは結婚式を挙げることしかなかった。それくらいしか俺にはプーレのためにしてあげられることはなかった。


「俺にはプーレのためにしてあげられることはほとんどありません。男であればまた違った方法もあったかもしれない。夫婦ごっこみたいないまではなく、本当の夫婦になれたかもしれない。あの子にあの子が産んだ子供を抱かせてあげることもできたかもしれない。でも俺は男じゃないから。女として産まれた。そしてそんな俺をあの子は愛してくれた。その愛に報いるために、俺はたとえエゴであっても結婚式を挙げたい。いや、挙げてあげたいんです。それがプーレの愛に報いる俺の愛だと思うから」


 プラムさんをまっすぐに見つめる。


 プラムさんはなにも言わない。ただ俺をじっと見つめていた。その目はとても穏やかで、そして優しかった。


「……プーレも大変な人を愛したものです。言っていることはエゴの塊でしかない。でもそのエゴが私にはとても心地よく感じられました。……この人にプーレを、娘を託して本当によかったって思えております」


「それじゃ」


「……最期の最期まであの子に笑顔を浮かべさせてあげてください。「幸せだった」と言わせてください。それが条件です」


「力ある限り」


「……よろしくお願いします、神子様。いえ、カレンさん。プーレを、娘を幸せにしてあげてください」


 プラムさんが深々と頭を下げた。そんなプラムさんに俺は「約束します」と頷いたんだ。

 続きは二十三時になります。

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