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Act9-56 娘への想いと母としての想い

 本日五話目です。

 なんとなく、頷かれるだろうなとは思っていた。


 神子様は聖上にとてもよく似ておられるから。見た目だけじゃない。その考え方や優しさ、そして一度決めたら頑なにそれを求め続ける姿勢が、とてもよく似ていた。


 そんな神子様だからこそプーレは神子様を愛されたんでしょう。神子様はすぎるくらいにまっすぐな方だから。その在り方はとてもきれいで、そして危うかった。


 でも危ういのはプーレもまた同じ。母親としては危うすぎるあの子のあり方をどうにか矯正してあげたかったのだけど、あの子は危ういままで育ってしまった。すぎるくらいにまっすぐに育ってしまった。


 だけどまっすぐすぎるところは、ふたりともよく似ている。似たもの夫婦という言葉があるけれど、それは神子様とプーレほど似合うこともない。


 そのお似合いのふたりがあと十日も一緒にいられない。


 プーレは神子様にあと一年の命だと嘘を吐いたみたい。


 なんで嘘を吐いたのかは、なんとなくわかる。あの子は神子様を必要以上に傷つけたくなかったんでしょう。


 一年後であれば、まだ神子様も希望を持つことができる。


 一年あればプーレを救う手立てを見つけられるかもしれないという、あるはずのない希望を持つことができる。


 しかし現実にはプーレの命はあと十日もない。


 十日ではどうあってもプーレを救う手立てなど見つけられるわけもない。


 そんなひどい事実を知れば、神子様はご自分を責められるでしょう。


 どうして気づけなかったと。どうして気づいてあげられなかった、と。ご自分を責め続けられるはず。


 だからこそあの子は事実を捻じ曲げた。


 神子様が必要以上に傷つく姿を見ないために。そして必要以上に束縛されないために。


 あの子が、わがままをあまり言わなかったあの子が珍しくしたわがままだった。


 でもそのわがままの結果は、あの子が死ねば神子様は結果的に傷つくことになる。


 だけどあの子は神子様が傷つくところを見ないですむ。


 つまりあの子は逃げた。事実を伝えるということから逃げて、偽りを交えた真実を伝えた。


 一番嘘だと気付かれない嘘をあの子は吐いてしまった。


 それが悪いとは言わない。あの子がどんな想いでそんな嘘を吐くことを決めたのかは考えるまでもない。


 あの子は神子様と過ごす最後の日々を、腫れ物のように扱われないためだけに神子様に嘘を吐いた。


 それを逃げたと言えば逃げたということになる。私自身あの子の判断は逃げだと思う。


 でも母親としてはあの子の判断を逃げだと言うことはできない。言えるわけがなかった。


 あの子の最後のわがままを聞かずにはいられなかったのだから。


 そしてそのわがままに神子様は付き合うおつもりなのでしょう。


 ……私が言ったのはすべてあの子のためでもあるけれど、同時に神子様が必要以上に傷つかないためのものでもある。


 けれど神子様はもう決めておいでだった。


 事実を知らずとも、プーレのために。プーレとの最後の思い出を作ると決めてしまっている。


 もう外野である私が言えることはなかった。私が言えることはもうひとつしかないのかもしれない。


「それでも俺はプーレとの結婚式を挙げます。たしかに辛いかもしれない。未練が残ってしまうかもしれない。でも最後に一番の思い出があるのとないのとでは、そっちの方が辛いと思うから。だから俺はプーレとの結婚式を挙げます」


 神子様は強い意思が籠った目を向けられた。その目はやはり聖上にとてもよく似ておられた。

 続きは二十時になります。

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