Act9-50 相談
本日五話目です。
「……お騒がせいたしました」
カティが泣き止むとティアリカは静かに頭を下げていた。
ティアリカの性格上、土下座をしそうな雰囲気ではあったけれど、状況が状況だった。というか、俺はまだティアリカを下から見上げているんだよね。
もうとっくに意識を取り戻していたから、いつでも立ち上がれたのだけど、なんとなく状況が状況と言いますか。立ち上がるタイミングがなかったと言いますか。
とにかくティアリカの膝の上に寝転がったまま、ティアリカとカティのやり取りを至近距離で見ているというなんとも言えない状況だったんだ。
でもティアリカとカティのやり取りはひと段落ついたようだ。
さっきまで泣きじゃくっていたカティは、いまや静かな寝息を立てていた。
実にかわいらしい寝顔を見せてくれている。
ついに頬に手が伸びそうになるけれど、サラさんが「邪魔をしちゃダメですよぉ~?」と俺の手を押さえているからなにもできません。加えて──。
「そういうことがあったんだ。まぁ、今回ばかりはティアリカさんが悪かったと思うの」
カティの怒号を聞いたシリウスがやってきているので、余計にできません。そのシリウスは事情をあらかた聞いたからか、納得した様子で何度も頷いている。
頷きながらカティの頬へと手を伸ばしそうになる俺を目でけん制してくれていた。
……どうやらシリウスには警戒されてしまっているようだ。
いや、まぁ、無理もないんですけどね? なにぶんふたりが寝ている隙にふたりの頬を突っついたことを知られてしまっているからね。そりゃ警戒されますよね。
でもわかってほしいな。これはパパなりの娘たちへのコミュニケーションであり、パパの生きがいのようなものであって──。
「くそキモい」
「……パパ、死にたいの」
──すみません。調子に乗りました。
だからそのどうしようもないものを見る目でパパを見ないで、シリウスちゃん!?
これもいつものパパ遊びなのかい!?
本当に勘弁して、こんなの遊びじゃないよ。ただのいじめですよ!?
パパをいじめてなにが楽しいと言うんだい!?
「パパが死にそうなほどに落ち込むところを見るのは、とても楽しいの。ざまぁ見ろって感じですごく楽しいの」
「やめて? ねぇ、そんな素敵な笑顔でそんな怖いことを言うのはやめてよ、ねぇ!?」
いままで見たことがないほどのきれいな笑顔を浮かべて、なんでそんな恐ろしいことを言ってくれるのかな!? シリウスちゃんはパパが大好きなのに、大好きなパパをそんなへこませてなにが──。
「そういうところがくそキモいの。ううん、もうキモいを通り越してキショくて、ウザいの」
「……パパ、やっぱり死にたいの」
──シリウスの目がまるで養豚場の豚を見ているかのように、とても冷ややかです。パパはいつから養豚場の豚と変わらなくなってしまったのやら。
「まぁまぁ、大好きなパパで遊ぶのはそこまでにしてくださいねぇ~、シリウスちゃん」
「パパなんて嫌いだもん」
「ふふふ、そうですかぁ~。まぁ、シリウスちゃんはツンデレさんですからぁ、逆の意味ってことですねぇ~」
「そ、そんなことないもん!」
シリウスが慌てている。つまりサラさんの言う通りということか。ほ、本当にもう! シリウスはツンデレさんなんだから!
「まぁ、ツンデレさんなのは明らかですがぁ~。「旦那様」も暴走はやめてくださいねぇ~? それよりもしてほしいことの話をしましょうか~」
「わぅ? してほしいことってなに?」
シリウスは不思議そうに首を傾げている。そういう仕草もまた愛らしいぜ。でもいまはそういうことを言っている場合じゃないね。
モーレからは同じ嫁に聞けというアドバイスを受けたけれど、娘からの意見を聞くのも悪くはないよね。
「うん。実はね」
俺はシリウスにも事情を話し、意見を聞くことにしたんだ。
シリウスの辛辣さは留まることを知りません。まぁ、香恋がだいたい悪いというか←苦笑
続きは二十時になります。




