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Act1-10 女の子を泣かすような輩は許しません

 本日二回目の更新となります。

このタイミングは、どう考えても嫌がらせだろう。これで何回目になるだろうか。


「えっと、なにか用ですか?」


 面倒くさいなぁと思いながらも、とりあえずお兄さん方に話しかけると、なぜかにやりと笑い掛けてきた。


 お兄さん方は、筋肉だるまという言葉がよく似合う、マッシブな体格をしていた。


 笑顔がまるで似合わない。


 とはいえ、マッシブな方々には、笑顔が似合わないと言う気はないよ。


 マッシブな体型でも、笑顔の似合うナイスガイはいるはずだ。


 ただ目の前にいるお兄さん方は、笑顔が似合わないというだけのこと。


 あまりにも似合わなさすぎる笑顔のせいか、アルトリアが怯えて、俺の背中に隠れてしまった。


 が、身長差があるから、完全に隠れ切ることはできていないようだけど、アルトリアは気にしていない。


 いや、気にする余裕もないってことなのかもしれない。


 マッシブなお兄さんたちは、アルトリアにセクハラかましたスキンヘッドと雰囲気が似ているから、思い出してしまうのかもしれない。


 もしあの場に俺がいなかったら、アルトリアがどうなっていたのかなんて、考えるまでもない。


 いまでこそ門番さんたちも、普通にアルトリアと話をしてくれるようになったけれど、あのときは、ほかの魔族同様に、人魔族であるアルトリアを扱っていただろうからね。


 つまり人前でアルトリアが犯されようとも、たぶん助けようとはしなかったはずだ。もしくは見て見ぬふりをしていたというのもありえる。


 いわば、俺が「ラース」にたどり着いたのは、ベストタイミングだったってことだ。


 仮に俺以外がアルトリアを助けたとしても、まず間違いなく下心があるだろうね。


 アルトリアは、まだ幼い顔だちだけど、スタイルのいい子だし、性別問わずに見惚れさせてしまうほどの美人さんでもある。


 普通の美人さんであればまだしも、人魔族である彼女を助けるのに、なんの下心もないというのは、ちょっと考えられない。男なんてたいていは下半身で物事を考えているものね。


 そうすると、アルトリアを助けたのが、俺だったのは、アルトリアとしては、これ以上とない幸運だったのかもしれない。


 ただ助ける際にちょっとやりすぎてしまったせいか、惚れられてしまうというアクシデントが起こってしまったが、それさえもアルトリアにとっては幸運のひとつだろう。


 俺としては、勘弁願いたいことではあるんだけど。


「──ってわけだよ」


 マッシブなお兄さんは、そう言ってなぜかアルトリアの右腕を取ろうとした。


 いやいや、意味わからん。なにが、ってわけなんだか。


 話を聞いていなかったから、ぜんぜんわからん。というか、いつの間に話し始めたんだろう。


 まぁ、そこんところを聞く前に、アルトリアに手を出すのはやめてもらおうかな。


 アルトリアの腕を掴もうとしているお兄さんの腕を俺が掴んだ。


 それもわりと強めに力を込めてだ。


 握りつぶす気はない。腕に手の痕くらいは残す程度はするつもりだけど。


 なんかみしみしって音がするけれど、気にしないでおこうかな。


「な、なにをしやがる!?」


 お兄さんが慌て始める。


 無理もないよね。俺みたいな低身長の女の子が腕を掴まれただけではなく、その腕からみしみしと音を立てていたら、慌てるのは当然だ。


 とはいえ、それでやめてあげる義理はない。むしろやめるはずがない。


 どういう理由があるにせよ、アルトリアを怖がらせたんだ。


 その報いはきっちりと受けてもらわないとね。


 こういうところが、アルトリアの目が俺から離れない原因なのかな。


 うん、深く考えるのはやめておこう。キリがない。


「いやいや、なにをするってのは、こっちのセリフですよ? なんでうちの自慢の秘書に手を出そうとしているんです?」


「な、なに言っていやがる。いま言っただろうが!」


「あー、すいません。話しかけた後、ちょっと考えことしていて、話を聞いていなかったんですよ。なのでもう一度お願いできませんか?」


 頼んでおいてなんだけど、話なんて聞くまでもないことだった。


 どうせ「人魔族なんざ、奴隷になって当然なんだ」とか、「おまえの人魔族を言い値で買ってやる。だけど、その前に味見をさせろ」とか、そういうバカなことを言うつもりなんだろうな。


 振り返ってみると、アルトリアがシリウスを強く抱きしめて震えていた。


 こういうときは、出会ったときのままだ。いやアルトリアを、昔に戻してしまうようなことを、こいつらが言ったってことなのかもしれない。


 女の子を意味もなく、怖がらせるなんざ、男の風上にも置けない奴らだ。ここは俺が男とはどうあるべきかを教えてやるべきだろう。俺は女だけど。


「──というわけだ。さぁ、いいだろう、手を離せ!」


 あ、しまった。また聞きそびれた。


 ついついアルトリアのことを考えていたら、すっかりとお兄さんの話を聞いていなかったよ。


 失敗、失敗。また話してもらうっていうのも面倒だ。それにアルトリアをいつまでも怖がらせておきたくなかった。


「おい? 聞いているのか?」


「聞いてねえよ。どうせ大した理由もないんだろう? そんなの聞くまでもねえ」


「なに!?」


「なにじゃねえよ。無駄に大声出すな。うちの連れが怖がるだろうが」


「下等な人魔族なんざ、いくら怖がらせようが、俺らの勝手だろうが! 御託を言う暇があれば、さっさとその女をこっちに」


 あー、テンプレ、テンプレ。予想通りすぎて、怒りも萎えるわ。


 まぁ、実際に萎えはしないけどさ。予想通りすぎて、逆に腹が立ってきたよ。


 だいたい人魔族だからってなんだって話だよ。人と魔族のハーフだからって、それのなにが悪いって言うんだよ。


 人も魔族も人魔族も同じひとつの命だろうに。その命を生まれがどうだこうだで軽く扱おうとする、その考え自体が気に入らない。


 というか、震えて怖がっている子に、これ以上ひどい目に遭わせようとする、その思考が俺には理解できない。


 震える女の子を見て、気の毒に思うのではなく、それ以上にひどい目に遭わせようとするなんて、人としてどうかしている。下等はどっちだっつーの。


「下等ねぇ。じゃあ、あんたらは、その下等な人魔族以下だよ。少なくとも、俺はアルトリアがどういう子なのかは知っている。この子が素直でいい子だってことは知っている。俺みたいな、なにも持っていない奴のために、必死になって頑張ってくれていることを、俺は知っている。そんなこの子を、下等だって言うあんたらは、よっぽど上等な存在なんだろうね。でも俺の目にはそういう風には見えねえ。この子がいま怖がって震えているのに、それを一切無視して連れて行こうとする。そんなあんたらのどこが上等な存在なんだ? 俺にはあんたらの方がよっぽど下等な存在としか思えないね」



「ふ、ふざけんな! 俺らがその女よりも下等だと!?」


 腕を掴んでいるお兄さんが叫ぶ。その後ろにいたお兄さん方も殺気立っていた。


 おーおー、怖いね。だけど、それがどうした。


 アルトリアはこんな有象無象でも怖がってしまうくらいに、いままでいろんなことを経験してきたんだ。


 俺は概要どころか、アルトリアの過去をほとんど知らない。


 アルトリアは自分の昔についてを話したがらない。


 時折陰のある笑顔を見せてくれるから、俺なんかじゃ想像できない過去をこの子は背負ってきているんだろう。


 この子がいろんなものを背負ってきたという証がその笑顔だった。


 そんなアルトリアの前で、生まれがどうだのこうだのと喚き散らすなんて、よっぽど痛い目を見たいようだ。なら望み通りにしてやろうじゃないか。


 どうせこいつらは、どこかの商店、いや、商会に雇われたごろつきなんだろうけれど、そろそろきっちりと教えてやるべきだろうな。


 俺の身内に手を出すっていうのが、どういうことなのかをさ。


 だが、その前にだ。ちょっとやっておくことがあるけれど。


「なにか文句があるなら、態度で示してみろ。女でガキの俺にいいように言われて、悔しくねえのか? 悔しかったら、ちゃんとついているのなら、行動で示してみろよ、お兄さん?」


 にやりと口元を歪めて笑い掛けながら、手を離した。


 そのお兄さんの腕には、俺の手の痕がしっかりと残っていた。とりあえず、腕を握っただけだから、まだ殴ったわけじゃない。


 うん、かなりグレーな判定だろうけれど、殴ったわけじゃないから、セーフのはず。うん、セーフだといいな。


 とりあえず、目の前のお兄さんに向かって、手をこまねいて見せる。


 お兄さんの顏が赤黒く染まった。そう思ったときには、お兄さんに右の頬を殴られていた。


「カレンさん!」


 アルトリアの慌てた声。いや、悲鳴に近いかな。まぁ、いきなり目の前で上司が殴られれば、悲鳴を上げるわな。


 しかし俺の心配をするよりも、自分の心配をした方がいいと思うんだよな。


 だって俺がこれで倒れたら、次はアルトリアが危なくなるんだ。


 なのにアルトリアは自分の心配ではなく、俺の心配をしてくれている。


 本当にアルトリアらしいことだった。


 けれど、その心配は無用だった。


 なにせ目の前のマッシブなお兄さんに殴られたっていうのに、俺にはまるで効いていないのだから。


 まぁ「蛇の王国」にいた頃からわかっていたことだったけど、俺の身体能力は超人レベルになっていた。


 それは攻撃関係だけではなく、防御、つまりは打たれ強さもまた超人レベルになっていた。


 だからと言って、殴られて痛くないってわけじゃない。


 ダメージというダメージはないが、それでも痛いものは痛い。


 単純に痛みと思えるレベルが、常人よりもかなり高くなってしまっているというだけのこと。


 あ、でも、口の中をちょっと切ってしまったみたいだから、それはダメージだな。


 とはいえ、筋肉だるまなお兄さんに殴られたのに、傷がそれだけって時点でダメージという意味では、お察しってところだけど。


 まぁ、いいや。これで準備完了。


 俺とアルトリアを囲むようにして、筋肉だるまどもが四、五人。それに対して、こっちはか弱い女の子がふたりに抱きかかえられた犬が一匹という、誰がどう見ても弱者だ。


 そんな弱者にいきなり殴りかかってきた。しかも囲むようにしてだ。


 これで全力で反撃しても、文句は出まい。これを正当防衛とは言わず、なんと呼ぶ。というわけで──。


「門番さん、アルトリアを頼みます」


 お兄さんの拳を頬に受けた体勢のまま、後方にいる門番さんにアルトリアをお願いした。


 門番さんは、驚いた風だったけれど、最終的には頷いてくれた。


「アルトリアもいいね? おまえもだシリウス。なにかあったら、アルトリアを守っておいてくれ」


 アルトリアとシリウス、それぞれに指示を出しておいた。


 アルトリアは呆然としていたが、シリウスは「任せろ」と言うかのように、元気よく吼えてくれた。


 よし、これで後顧の憂いは断った。となれば、ここからは報復の時間だろう。


 まずは目の前にいるお兄さんかな。なぜか固まっているし。


 もしかして、このくらいのパンチで俺が吹っ飛ぶとか思ったんだろうか。


 人を吹っ飛ばすパンチっていうのは、こんなものじゃないよ。


 右の拳を握りしめ、腰を落として、思いっきり腕を振り抜いた。


 腹部に拳がめり込んでいく。お兄さんが胃液をまき散らしながら、後方に飛んで行った。


「おー、飛んだ、飛んだ」


 右手をひらひらと振りながら、背中から地面に着地したお兄さんを見やる。


 腹を抱えて蹲りながら、胃の中身を吐き出していた。


 思いっきり振り抜きはしたけれど、力はあまり入れていなかった。


 あくまでもスピード重視で放ったから、ダメージはそこまで大きくはないはずだ。


 少なくともブラックウルフでも、耐えられる程度の威力しかないはずなのだけど、その割にはなかなか起き上がろうとしていない。


 ちょっとやりすぎだったかな。手加減したんだけどな。


「まぁ、いいや。さて、じゃあ、さっさと終わらしちゃいますか」


 拳を鳴らしながら、残りの筋肉だるまたちを見やる。


 恐怖で引きつった顔をしているが、そんなのはどうでもいい。いま大事なのは──。


「アルトリアを怖がらせたんだ。その償いをうけてもらうよ?」


 アルトリアを怖がらせた。その贖罪なのだから。


 にっこりと笑い掛けながら、残りの筋肉どもに向かって、地面を蹴った。

 明日の更新は十六時に戻ります。

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