Act9-46 あるがままに
更新祭り五日目です。
まずは一話目となります。
余計なことを。
「旦那様」のされたことは、手前にとっては余計なことです。
そんな手助けなどされなくても、手前でもやることはわかっているというのに。本当に余計なことをされるものです。
『なぁにが「余計なことを」ですか?あなたひとりではカティちゃんに謝れなかったくせに』
……なにやら幻聴が聞こえてきますね? どうも疲れているみたいですね、手前は。
『ほぅ? 幻聴、幻聴ですかぁ~』
なにやら駄剣が気持ちの悪い笑みを浮かべておりますね。
この駄剣。なにを言おうとしているのやら?
『躾だなんだと言いながらも、カティちゃんに怒鳴り付けたことを後悔し、かと言って怒鳴り付けてすぐに謝るのもどうかと思ってしまい、結果なかなか謝るタイミングを計れず、うじうじと悩んでいる方がよくもまぁそんな偉そうなことを──』
『な、なにを言っていますか!?』
な、なぜそんな根も葉もないことを言っているのでしょうか、この駄剣は!?
て、手前は母親として当然のことをですね。
『母親、ねぇ? 私が思う母親というのは、怒鳴り付けることもあるでしょうが、その後にきちんと理を説く方のことなんですがねぇ? たとえば、普段のあなたのように、理由をちゃんと説明して、なぜ怒ったのかを、そしてどうしてしてはいけないのかを伝えられる方を母親というのだと思っておりましたが?』
『そ、それは』
この駄剣は本当に厄介です。
前々からわかっていたことではありますが、やはりこの駄剣は厄介です。その厄介さが以前よりも増しています。
……言われたくないことを、自覚しつつも言われたくなかったことを平然と言い放つのですから。
『言われたくないのであれば、さっさと謝るがいい。そなたは昔からどうしてそうも頑固なのだ? 自分が悪いと思っているのであれば、さっさと謝ればよかろう? 母と娘なのだから、変に取り繕うこともあるまい? それともカティの前では、カッコいい「まま」でいたいのか?』
『す、素の口調になるんじゃありません!』
本当にこの駄剣は!
いつもの作っている口調ではなく、素の口調を使うタイミングを心得ているのだから。本当に厄介です。なんで兄上の遺作がこんな駄剣なんでしょうね? 兄上の遺作でなければ、とっくに──。
『呆れたわ。そなたの兄君の言葉さえも忘れているとは』
『兄上の言葉?』
なにを言っているのでしょうか、この子は。
いやなにが言いたいのでしょう。いつもながらにこの子の考えていることは理解しづらい。でも──。
『あるがままに生きよ』
『っ』
『あるがままに生きよ。他人の顔色など伺わずに、あるがままに、己の心の赴くままに生きろ。他人の顔色ばかり伺う人生のなんとつまらんことか。だからおまえは他人の顔色ばかり伺うな。おまえが思うままに、あるがままに生きよ』
──でもこの子が素の口調を使うときはいつもこの子が本当に伝えるべきことがあるときだけ。それはいまも変わらなかった。
『それは』
『……あなたの兄君の辞世の供。いえ遺言ですよ? お忘れですか、主?』
『忘れるわけがないでしょう?』
そう、忘れるわけがなかった。
忘れていいわけがなかった。
けど手前は忘れていたのかもしれません。
兄上の遺言を。決して忘れませんと泣きながら言ったことを忘れていたのかもしれません。
『……であれば、わかりますね?』
『……あなたは私の保護者のつもりですか? 駄剣のくせに』
『ふふふ、まさか。素直になれない主にお節介をやくただの駄剣ですよ』
駄剣が笑う。
でもその声が少しだけ心を軽くしてくれた。
『さて、お節介はもういりませんよね?主ティアリカ』
『……あたりまえです』
『ありがとう、くらいは言ってもいいのでは?』
『……いらぬことでしたが、世話になりました』
『……本当に素直じゃないですねぇ~』
『うるさいですよ』
『まぁ、あなたらしいことです。あとはあるがままに』
『ええ、あるがままに』
魔法のような言葉だった。
その魔法のような言葉に突き動かされるようにして手前はカティに声をかけるのでした。
正直サブタイを「Let it be」にしたかったです←ヲイ
でもそのままだとちょっと問題ありそうなので、和訳の方にいたしました。
続きは四時になります。




