Act9-30 喧嘩するほど……?
本日三話目です。
「──なるほどのぅ。たしかにカレン殿とはまるで違っておる」
ジョン爺さんに恋香のことを簡単に教えることになった。
まぁ、声は俺そのものだけど、中身は別人だからきちんと教えておかないと問題があるもの。
ただ俺が半神半人になったことは言っていない。だから恋香はいきんなり俺の中で芽生えた意思ということにしておいた。
最初は半信半疑だったジョン爺さんだったけれど、恋香と実際に話をしてもらったことで俺とは別人だということを理解してもらえたよ。
『はじめまして、恋香です。時にジョン殿には娘さんが孫娘さんはいらっしゃいませんか? 香恋ばっかり嫁がいて不公平だと思うのです。なので私だけの嫁を』
大真面目にアホなことを抜かし始めた恋香を全力で俺が止めたのは言うまでもない。その結果、ジョン爺さんに俺と恋香が別人だと納得してもらえたんだ。
「カレン殿は好色な方ではあるが、ここまであけすけではないからのぅ」
ジョン爺さんは苦笑いしながら言ってくれたよ。……ジョン爺さんから見たら俺って好色に見えていたのか。ちょっとだけショックでした。
でもまぁ、納得してもらえたことは素直に嬉しかった。
なにせ端から見たら、俺が念話で話しかけているように思えるんだろうけど、実際は俺と恋香は完全に別人だった。
そもそもこの変態と同一人物扱いされるのは勘弁願いたい。
『む。いま私を変態扱いしましたね、香恋!』
「……キノセイダヨ」
『いいえ、いま絶対に私を変態扱いしました! 私にはわかるんですぅ~!』
恋香のくせに勘が鋭いぜ。
というか、なにが「わかるんですぅ~」だよ!
ぶりっ子か!
おまえがやっても気色悪いだけだよ!
『なんですと!? あなたがそれを言いますか、香恋!』
「なんだぁ~、てめぇ! その言い方をするってことは俺が気色悪いってか!?」
『実際、シリウスやカティにはキモいと言われているじゃないですか!』
「ち、違うし! あれはシリウスとカティなりのツンデレだし! シリウスとカティはパパが大好きなかわいい娘なんだから!」
『はっ! どの口で言いますか!? 寝ている娘のほっぺをぷにぷにと突っつくのが大好きなパパなんて誰が見てもキモいですよ!』
「だ、大好きちゃうわ! 俺のライフワークだもん!」
『あなたがもんとか言ってもキモいだけですよ!』
「なんだと、この脳内ピンク!」
『なんですか、脳内むっつり!』
いつものように恋香との言い争いに発展してしまった。
でもね。悪いのは恋香ですから!
いや、恋香がなにもかも悪いんだ。俺はこの変態を矯正してあげているだけだもん!
『誰が変態ですか、誰が!?』
「おまえしかいねえよ!」
ああ言えばこう言う奴だな、本当にさ!
本当になんなんだ、こいつはもう!
「……うむ。ふたりが別々の人であることはよくわかったの。カレン殿とレンゲ殿は双子のようなものだな」
ジョン爺さんが苦笑いしていた。
しかし双子か。
まぁ実際俺は恋香をそういう風に見ている。恋香も俺をそういう風に見てくれているはずだ。
『まぁ、間違ってはいませんね。まったく香恋のような手のかかる妹を持つと苦労します』
「誰がおまえの妹だよ! 妹なのはおまえの方だろうが!」
『はぁぁぁぁーっ!? なんで私があなたの妹になるんですか! 発言の撤回を求めます!』
「誰が撤回するか、ボケ!」
『色ボケに言われたくないですよーだ!』
「自分の胸に手を当てて言いやがれ!」
言い合いながらお互いに中指を突き立て合った。
……まぁ、恋香が本当に中指を突き立てていたのかはわからないけれど、たぶん突き立てていたであろうことは間違いない。
この残念脳内ピンクがしないわけがないもの。
「……仲のいい姉妹じゃのぅ」
しみじみとジョン爺さんがとんでもないことを言っているけれど、いまはこの残念ピンクを懲らしめるのが先決だった。
「覚悟しろよ、この残念脳内ピンク野郎!」
『こっちのセリフですよ、むっつり野郎!』
「……本当に仲がいいのぅ」
ジョン爺さんが笑う声を聞きながら、俺と恋香による舌戦の火ぶたはきって落とされた。
続きは十二時になります。




