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Act9-21 研鑽は誰がために~心の支え~

 先代の鍛錬は変わっていた。


 一のや、二のと三のとの鍛錬とは違い、体にはなんの負担もなかった。負担があったのは先代が言ったとおり、心だけだった。


『わぅ、これがたんれんなの?』


『うむ』


『ぜんぜんつらくないよ?』


『であろうな』


 最初私はあぐらを組まされていた。


 あぐらを組みながら前を見つめていろとだけ言われていた。


 ただ決してそこから動かないようにとも言われていた。


 動かないだけなら慣れている。


 パパの娘になるまでは野生のウルフだった。


 狩りをしなければ食事はできなかった。


 だから獲物の隙ができるまでじっと待つ。


 私は父上と母上にそう教わった。でも本来の狼の狩りは群れで行われるものだった。


 だけど父上と母上が教えてくれたやり方は、ひとりっきりで獲物を狩る方法だった。


 なんでそんな方法を私に教えてくれたのか、いまでもよくわからない。


 わからないけれど、教えてもらったやり方があったからこそ、動かないということはそこまで難しいことじゃなかった。そう、ただ動かないだけであれば、だ。


『ただ座っているだけであれば、さほど難しいことではない。まぁ、そなたくらいの年齢の娘だと動き回りたくなるだろうが、これもまた「我が君」たちをお救いするために必要なことなのだ』


『ぱぱ上のこと?』


『うむ。母神様のご息女であらせられるからの』


『そう、なんだ』


 そのとき、私はパパが母神様の娘であることを知った。


 同時に「心の回廊」で会ったパパのママであるばぁばが母神様だということもまた。


 まだ幼かった私でもあの出会いがどれほどのものであるのかはおそろしいくらいに理解してしまった。


 ……ばぁばと呼んだことをちょっとだけ後悔したのは内緒にしようと思っていた。


『……えー、ばぁば呼びを後悔されるのは勘弁してほしいなぁ』


 そう思っていたら、いきなり母神様が現れた。思わぬことに頭の中が真っ白になってしまった。


 でも一のや二のと三の、そして先代は慌てることはなかった。むしろ母神様に呆れていた。


『……孫娘がかわいいからと言って、いきなり現れるのはどうかと思われますが』


『あら、そういうあなたたちだって、私の孫娘をずいぶんとかわいがってくれたじゃないの。正直ちょっと殺気立ったよ。……そうしなければならないとわかってはいたけれども』


 母神様は笑っていた。笑っているはずなのにすごく怖かった。


 いま思えばママたちが怖い笑顔なのは、母神様の影響なのかもしれない。


 正確には、母神様と同じように怖い笑顔を浮かべられる人をお嫁さんとしてパパが選んでいるんだろう。


 つまりパパはマザコンということになる。……そういうところも私はパパにそっくりのようだ。


『ぼ、ぼしんさま、このまえはごめんなさ──むきゅ』


 当時の私は母神様に馴れ馴れしくしてしまったことを謝ろうとした。


 けど、その当の母神様にそれ以上喋ることができないように唇を人差し指で押さえ込まれてしまった。


『……ばぁばって呼んでくれるかしら? 私はあなたにそう呼ばれたいの。あの子の娘であるあなたに。私の孫娘であるシリウスちゃんにね』


 母神様は笑っていた。笑っていたけど、悲しそうだった。


 それでわかったんだ。


 母神様は讃えられるのが嫌なんだってことを。


 特別扱いをされたくなんかないんだってことを。


 ただあたりまえのやり取りがしたいんだってことを。


 私と母神様には血の繋がりはない。私は先代の継嗣ではあるけど、繋がりは魂だけ。私と母神様には直接的な繋がりはない。それでも母神様は私にとって──。


『……わかったの、ばぁば』


『……ありがとう。あなたがあの子の娘であって本当に嬉しいよ、シリウスちゃん』


 母神様はそう言って私を強く抱き締めてくれた。


 少しだけ痛かった。


 でもそれ以上に母神様に、ばぁばに抱き締められて私は嬉しかった。


『……やれやれこれでは鍛練になりませぬな』


 先代が呆れていた。


 先代曰く、その後は私がつい動きそうになることをしようと思っていたらしい。


 例えば二のと三のにパパを攻撃させようとするとか。


「刻の世界」の外側にいるパパは固まっていた。


 触れれば温かいのに、パパはなにも言わない。私を撫でてくれない。


 それはパパだけじゃない。ノゾミママとあの人もやはり動かない。


 だから二のと三のが攻撃をしてもパパは避けることはできない。


 私が守るしかない。


 でも私は動いてはいけなかった。


 ただ見ていること。なにが起きても心の中が荒れ狂おうともただ見ていること。それが先代の鍛練だった。


 でも母神様が現れたことでその鍛練は先伸ばしすることになった。


『心を鍛えるのは、進化してからでいいじゃない。夜までは残酷で過酷な鍛練を受けるのだから、せめて夜だけは、進化するまで、夜だけは穏やかな時間を与えてちょうだい』


 母神様の嘆願に先代たちは頷いた。


 私がシルバーウルフになるまで五年掛かった。


 その五年間、私はずっと母神様と一緒にいた。


夜の間だけ会えるばぁばは、その五年間における、いや、あの百年の鍛練における私の救いとなったんだ。

 今夜十二時より更新祭りその二こと「ありがとう2018年、こんには2019年」を始めます。

 二十九日から一月三日までの六日間の更新祭りとなります。

 よろしけばれお付き合いください。

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