Act1-7 ギルドのはじまり~またの名を受難開始~
100話到達しました~。
案外早くたどり着きました。
もっとも、100話記念はありません。
百日目記念はありますが。
あと今回も閲覧注意お願いしますね。
その後、ラースさんとの謁見を終えて、城を出た。
ラースさん曰く、ゴンさんに道案内させるということだったのだが、その当のゴンさんが見当たらなかった。
城の外で待たせていると言っていたのに、あの緑色のドラゴンンボディーは見受けられなかった。
城の外には、緑色の髪をした、スタイルのいい女の人が立っていた。
見た目は秘書風の、いわゆるできるキャリアウーマンという感じの女性で、ぴっちりとしたスーツが似合いそうだった。
けれど、ドラゴンの姿はない。どこにいるんだろうと思っていたら、その女の人がいきなり近づいてきた。
「やぁやぁ、待っていましたよぉ~、カレンちゃんさん」
女の人は、とても聞き覚えのある声と口調をしていた。
まさかと思いつつ、ゴンさんですか、と尋ねると、そうですよぉ~と答えてくれた。
あまりのことに俺は言葉を失った。
アルーサさんたちとアルトリアも驚いていた。
例外だったのは、シリウスで、こともあろうか、ゴンさんに向かって飛びついていた。
ゴンさんは飛びついてきたシリウスを、その豊かな胸部装甲で抱きしめていた。
「これは人化の術と言いましてねぇ~。ある程度の高位のドラゴンであれば、みんな身に付けているものなんですよぉ~」
ゴンさんは、相変わらず間延びした喋り方をしていた。
できる女秘書という見た目とは、まるでそぐわないが、ゴンさんらしいと言えばらしいので、あえて気にしないことにしていた。
あえて気にするとすれば、ゴンさんに抱きしめられたシリウスくらいか。
とても心地よさそうに目を細めていた。やっぱり胸か、あの野郎。
アルーサさんもなにかしら思うところがあったようで、シリウスを恨めしそうに見つめていたのは、あえて言わないでおこう。
とにかく、ラースさんが問題ないと言っていた理由もわかり、俺たちはゴンさんに連れられて、ギルド候補地へと向かった。
ギルド候補地は、とても大きな屋敷だった。
立地は本当に城を出てすぐのところにあった。
「ラース」内の大通りに面した場所だった。
しっかりとした門と草花が茂る立派な庭があり、その庭の先に件の屋敷があった。
屋敷の屋根には冒険者ギルドを示す黒地の女神の旗がはためていた。
屋敷は、白亜の壁で、一切の汚れさえも見えない。
外から見ただけでも、かなりの広さの屋敷であることがわかる。
屋敷の形は、門に向かってコの字になっていた。
高さは三階建てだが、部屋の数はかなり多そうだ。
これなら一階か二階のどちらかを冒険者の宿泊施設として貸し出しても問題はなさそうだ。
三階に俺の執務室兼私室やアルトリアやアルーサさんたちの私室を置いても、まだ余りそうだ。
その場合は、職員の私室として、貸し出すのもありだろう。
両サイドには離れもあり、倉庫とかに使える。牢にも利用できるかもしれない。
「これは、すごいところですね」
アルーサさんが、呆けたように言う。
モルンさんやミーリンさんも唖然としつつ、候補地である屋敷を見つめていた。
アルトリアは困惑していた。というか、躊躇っているようだった。
「あ、あの、私もここにいていいんでしょうか? こんな立派なところに」
「まぁ、友達だから、いいんじゃないか?」
投げやりに俺はそう答えていた。
いや、だってそう答えるしかなかった。
それ以外にどう答えろというのかって話だよ。
一応拾った以上は最後まで責任を持って、面倒を見るべきだと思うし、そもそもアルトリアのことを、俺はほとんど知らなかった。
人魔族で、とてもきれいな女の子ってことくらいだ。それくらいの情報だけじゃ、判断なんてできるわけもない。
「友達。そうですね、まだ友達ですからね」
アルトリアは「まだ」と強調するように言ってくれた。
それ以上になることはないと言ってあげたかったけれど、言ったところでアルトリアは諦めてくれそうになかった。
そういうのは異性の子にしてくださいと言いたかったけれど、まぁ、気に入られてしまった以上は仕方がなかった。
飽きられるまで、相手をするしかないだろう。
下手なことをすると、よくない展開になりかねなかった。ここは我慢するしかなかった。
「とりあえず、暫定の役職として、ミーリンさんは仕入れ、モルンさんは経理、アルーサさんは受付のそれぞれのトップをお願いします。アルトリアは、一応俺の秘書ってことで」
アルーサさんたちは、ククルさんのところで、俺が言った部署でそれぞれ働いていた。
わずか一週間くらいではあったけれど、全体の流れはつかめているはずだったので、ほぼ丸投げしても問題はない。
問題なのは、実力が未知数のアルトリアだった。
職員として雇うにしても、下手な部署に送り込んで、脚を引っ張ってしまったら元も子もない。
なので迷惑がかかるのは俺だけという形になる秘書として抜擢した。
本当は、アルーサさんかミーリンさんのどちからを秘書にする予定だったが、アルトリアが来たからには予定を変更せざるをえなかった。
「私が秘書ですか?」
「自信ないかな?」
「正直に言えば、です」
「そう。でもやってね。なにをしていいのか、わからなかったとしても、自信がなかったとしても、やってほしい。誰も最初はあるんだ。最初のうちは失敗をしてもいい。徐々に失敗しなくなっていけば、それでいいよ」
「ですが」
「俺と友達以上になりたいのであれば、それくらいはこなしてもらわないとなぁ。俺働き者が好きだからさ」
アルトリアは秘書に抜擢されて、戸惑っていた。
まともに秘書としての仕事ができるか不安だったんだと思う。
誰でも最初はあるんだから、不安がるの無理はないのだろうけれど、問答を繰り返しても意味はない。
かといって、問答無用と言うのは、それはそれで不誠実だし、ちょっとかわいそうだった。
となれば、やる気を出させればいいだけのことだった。
要は飴と鞭だ。
アルトリアが俺と友達以上の関係になりたいと願う、その気持ちを利用させてもらう。
言葉尻だけを捉えると、人でなしだけど、これ以上ない奮起させる方法であることには変わりなかった。
そう、あくまでもアルトリアのために俺はそう言った。
だというのに、アルーサさんたちは、軽く引いていた。
ゴンさんなんか、外道ですねぇとしみじみと言っていたし、シリウスに至っては、どうしようもないものを見るかのように、とても冷たい目で俺を見つめていた。
が、アルトリアだけは違っていた。
俺の言葉に奮起したのか、明らかにやる気に満ち溢れた表情を浮かべてくれた。
「やります。やらせてください、旦那さま!」
そう、やる気に満ちてくれたのはいい。
だが、「旦那さま」ってなによ?
俺は女だっつーの。その女相手に「旦那さま」はないと思う。
「ダメ、でしょうか?」
うつむきがちにアルトリアは言った。
目じりにはなぜか涙が溜まっていて、ここで断るのは良心の呵責がやばいことになりそうだった。
アルーサさんたちの視線が突き刺さっていく。
「やっぱり外道だから」
「だね。外道だから、あんなことを言って」
「釣れたら、掌返しするんだから、やっぱり外道ですね」
「まぁ、カレンちゃんさんが、外道なのは、なんとなくわかっていましたからねぇ~」
それぞれが言いたいことを言ってくれた。
いや人でなしなことを言ったのは、たしかだけど、みんなして外道と言わなくてもいいじゃないか。
だが、自分でも外道と思ったことは間違いないので、否定ができなかった。
「……とりあえず、旦那さまはなしで」
「ダメ、ですか?」
「いまは友達なんだから、旦那さまはなしだよ」
「いまはってことは、いつかは呼んでもいいんですよね?」
「え? いや、そういう」
「頑張ります! 旦那さまに、カレンさんにお嫁さんとして認めてもらえるように! 秘書の仕事を完璧にこなしてみせます!」
アルトリアは大声でそう宣言してくれた。
その声は、ちょうど大通りを歩いていた人たちの耳にも届いてしまった。
わざとか。わざとやっているのか、この子は。
そう思ったが、アルトリアはやる気には満ち溢れているが、姑息な手段を取ろうとしているようには見えなかった。つまり素で言ってくれたということだった。
「よろしくお願いします、カレンさん!」
やる気に満ちたアルトリアに、俺はよろしくねとひと言を返すだけで精一杯になってしまった。
そうして俺の受難の日々が始まった。




