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ましょうの女

活動報告にupしたIFのIFです

 起きたら二人は居なくなっていて、私は寝かされていました。

 着替えさせにきたマリアに聞くと、父様に見付かったらしく、二人ともこっぴどく叱られたそうです。

 そりゃあ私熱出してるのに舌戦を繰り広げて本人放置されてましだからね。というか、何という少女漫画的展開……!

 一人の女の子を巡って二人が争うとか、物語の中でしかないと思っていたのに。


 ……ええと、セシル君も、ジルも、私の事……好き、なんですよね?


 そう考えるとまた熱が出てきてしまって、ベッドで唸るしかありません。

 二人が、私の事好き。女の子として、欲しい。

 ……うう。


 悩んで悩んで考えに考え抜いても、どちらかを選ぶなんて出来ませんでした。二人が出入り禁止一週間の刑に処されている間にずっと考えていたのですが、どうしても答えが出ません。

 だって、二人共好きなんですもん。


「リズ、元気だったか」

「は、はい」


 ちょっとくたびれたセシル君とジルが同時に訪れたのは、きっと示し合わせたからでしょう。

 因みにくたびれているのは、父様に叱られてから魔導院で後処理に巻き込まれたからだそうな。単純に人手が足りないからと、近付かせない為でしょう。


「……リズ様、この一週間で考えて頂けましたか?」

「……俺は、リズを嫁に貰いたい。俺ならお前を守れる」


 此処でセシル君に正面から求婚されて、堪らずシーツで顔を隠します。きっと、私の頬は真っ赤に充血している事でしょう。


「私もセシル様も、リズ様を求めています。どちらかに応えるつもりはありませんか?」

「……そ、そんな事言われても……どっちも、好きですよ」


 ……そう、考えても結論は出ませんでした。寧ろ、迷いは深まるばかり。

 だって、二人共、好きなのに。


「ど、どっちも好きなのに、選べって言われても困ります!」


 きっと残酷な事を言っているのでしょう、私は。答えを出す方が、傷付かないのに。

 でも、私には決められません。二人の事はとても大切だし、きっと……異性的に好きだって、言えます。悩んで悩んで、それだけは結論付けました。


 やっぱりこの答えには困るのか、セシル君の眉が寄って少し呆れたように溜め息をつかれます。


「お前意味分かってるのか、恋愛的な好きだぞ、どっちかにしかないだろ」

「……二人にどきどきするし、ぎゅってされると幸せだもん」

「それに差とか違いはないんですか」

「わ、分かんないです」


 二人に抱き締められると安心感とふわふわして心地好さがあるし、どきどきします。頭を撫でられると凄く幸せで、ずーっとこのままで居たいって思うのです。

 その感覚と感情は、殆ど一緒なんです。それに、二人になら、……女の子として求められても、嬉しいから。

 その何処に区別と優劣を付けて良いのか分かりませんし、私にはきっと付けられません。


 これでは二人はそれで納得しないと思います。でも、でも。……私は、二人が好きなんです。


「……うー、じゃあどっちも! 選べないです、だったらどっちも選びます!」

「……お前なあ」

「だってどっちも好きなんですもん。差とか言われても困ります」


 セシル君の呆れも、ジルの困り顔も、分かってます。

 それでも私は選べないし、欲張りだから二人を求めてしまう。二人とずっと一緒に居たい、二人なら私は全部あげても良い。……世間では悪女とか呼ばれてしまうかもしれないし、下品だと罵られるかもしれません。

 その汚名を背負ってでも、私は二人が良い。……二人が嫌がるなら、私は選ばない。選べないんです、どっちも、好きだから。


「セシル君もジルも好き、じゃ駄目ですか」


 自分の決断力も節操のなさに呆れてしまう、でしょうか。


 おずおず、と二人を見上げると……ジルは、何だか想像したいたらしく困ったような笑み。セシル君は呆れがありながら、でも拒むような眼差しではありません。


「……まあ多夫一妻が法で駄目とは言われてませんけど」


 てっきり駄目出しされて振り出しに戻る、と思っていた私に、ジルの言葉は意外なものでした。

 言い出した本人が目を丸くしているというのに、ジルは仕方ないですねと言いたげな、でも柔らかい表情。……私の我が儘で自分勝手な都合なのに、ジルは、拒みませんでした。


「私としては独占したいのですが、リズ様がそう仰るのなら拒む訳にはいかないです。リズ様の幸せが一番ですから」

「はあ。……お前が幸せならそれで良いよ。正直こいつは要らんが」

「奇遇ですね、私もです」


 ジルに加えて、セシル君も致し方なさそうに頷いています。但しジルに対する敵対心は消えないらしく、ジルに向ける瞳が微妙に細められて剣呑な光を宿していますが。

 ジルはジルでセシル君が気に食わないのか笑顔で対抗しています。言わずもがな、眼差しは冷ややか。


 ……ふ、二人に受け入れられたのは良いものの、これはこれであまり宜しくないような状況な気がします。


「そろそろどっちが立場上なのか決めておかなきゃ不味いと思わないか?」

「ですね。表に出ますか?」

「だから二人とも止めて下さい!」


 全力で止めたので事なきを得ましたが、毎回これでは困るので何とかして仲良くなって貰わないと。

 素直に感情を出して欲しいものを欲しいと言えるようになったセシル君とジルは、結構に独占欲があったのだと改めて思い知りました。






「……ジル、セシル君ににこやかに敵意飛ばさないで下さい」


 次の日も例に漏れなく訪れた二人。

 ジルは私をソファに座らせて、私の肩を抱いています。心なしかセシル君から遠ざけるような、というか意図的に遠ざけている事間違いなしの体勢です。

 セシル君はセシル君で隣に腰掛けて、独占欲丸出しなジルに冷ややかな眼差しを送っていました。ジルの方が独占欲は強いらしいですね。あとセシル君は結構照れ屋さんなので、直ぐに直ぐくっついてくれる訳でもなさそうです。


「飛ばしていたつもりはないのですが」


 とか言いつつジル、笑みはにこやかに、瞳は笑ってないです。


「もー……仲良くして下さいよー」

「仲良くするのが難しいとは思うがな」

「セシル君まで」

「一つしかないものを分けるというのが無理だろ」


 ……セシル君の言う事は、尤もです。私は一人しか居ませんし、二人に分けるなんて出来っこないのです。スプラッターはご勘弁。

 でも、私としては仲良くして欲しいです。我が儘だとは理解しているのですが、三人で仲良くずーっと暮らしていけたらいいなあって。


「……二人とも大好きなのに」


 世間一般で言えば、これはとても宜しくないですし後ろ指指される事は間違いないです。一夫多妻、というか一応伴侶を複数持つ事が禁じられている訳ではありませんが、通常は一人に生涯を捧げるのです。愛人という形は陰であれど、堂々と夫を二人が居るとのたまうのは顰蹙を買うでしょう。


 ……でも、二人とも好きなんだもん。感情を理性で完全に押さえ付けられたら苦労しません。


 体はジルに引き寄せられているので掌だけでもと武骨な指を掴むと、金色の瞳を満月にして、それから少し恥ずかしそうに顔を逸らされました。情熱的な求愛を口にしたのにそこでは照れるちぐはぐ具合が、また愛おしいです。


「私もお慕いしておりますよ」


 ジルも空いていた片方の手に自らの指を絡めて、片腕は腰に回して抱き締めて来ます。改めて言われると恥ずかしくて擽ったいけど、……ふわふわして、幸せだなあって。


「よく言えるな」

「セシル君は、言ってくれないのですか?」

「……そういうのは、ジル担当だ」

「はーい」


 あの時はちゃんと言ってくれましたけど、セシル君は息を吐くように甘い言葉を囁くジルと違って口にはあまり出してくれません。その分行動や表情で愛情を伝えてくれるので、文句はありません。ちょっぴり、寂しいですけど。


「そこで言わないのは男が廃るのでは?」

「うるさいな。俺はお前みたいに甘い言葉を囁ける訳じゃねえんだよ、どうしようもないだろ」

「セシル君が照れ屋さんなのは知ってるから大丈夫ですよ?」

「うるさい」


 黙れ、と赤らんだ頬と細めた瞳で睨んで来るものの、顔が私の見解を肯定しています。

 口は素直ではないですが、存外セシル君は分かりやすくて、優しい人なのです。言葉は厳しくても声音が優しいし、表情も柔らかい事が多いですからね。今のセシル君は照れ隠しに強がってるだけって事は分かってます。


 ころころと喉を鳴らして笑う私に、セシル君はとうとう唸り声を上げてそっぽ向いちゃいました。不貞腐れたように私と反対側の背凭れに頬杖をついています。

 そういう所だけ見れば、セシル君は私を馬鹿に出来ないくらいに可愛い言動してるの、本人は分かってなさそうです。ツンデレに萌える人達の気持ちがセシル君のお陰で分かるようになりましたよ。


 くすっと止まらない笑みを溢しつつ、体の内側から来る気怠さをそのままに背凭れに体重を預けます。セシル君に持たれかかってしまおうかと思いましたが、セシル君が逃げそうだしジルも拗ねちゃいそうです。

 それに、ただでさえある熱が増えそうだから。


「というか、一つ言っても良いですか?」

「何ですか?」

「私、そろそろ寝たいのですけど」


 二人の相手をするのでソファに移動していましたが、本来はまだ寝ていた方が良い身です。私から起き上がったから二人には非がありませんけど、二人と一緒に居るとふわふわ幸せなのと心拍数が上がって熱が余計に末端まで行き渡るから困りものです。

 倦怠感こそ大分薄れたものの熱による気怠さと頭のぼんやり具合はまだまだ残ってました。二人と一緒だと、尚更ぽわぽわぽかぽかするし。


「あ、……悪い、まだ体調悪かったよな」


 平常通りの対応はしているものの、体はやっぱり素直で熱を頬に表してしまいます。セシル君は顔を覗き込んで、開いた片手を額に押し付けて検温。直ぐに顔を顰められたので、熱が上がったっぽいです。

 ひんやりした掌の感触に頬を緩めて、小さく喉を鳴らす私。セシル君は眉を下げて「悪い」としょげたように謝って来たので、二人のせいではないので首を振っておきます。


「ベッドに運びますので、じっとして下さいね」

「はーい」


 ジルは軽々と私を横抱きにして、ベッドに輸送してお休み前の体勢を作ってくれます。こんなに甘えてて良いのかなあと、偶に思うのですが……二人に甘えるの、凄く満たされて幸せだから、許して欲しいです。


「では私達はこれで。……おやすみのキスでもしましょうか?」

「お前は自重しろ」


 冗談なのか本気なのか、……多分本気なジルの発言に鋭く突っ込みを入れるセシル君。

 照れ屋さん且つそういう事は慣れないであろうセシル君は、お休みのキスとか有り得ないって良いそうですね。


「……セシル君はしてくれますか?」


 ジルだけにして貰うのは寂しいし、ちょっと不公平かなあとセシル君を見上げると、溜め息をつくセシル君と視線が合います。


「や、やっぱり、」


 駄目ですよね、そう続けようとしたのですが、唇の動きを強制的に止められます。

 私はてっきり、してくれても頬にするものだと思っていたのに。


 思った以上に大胆な行動に出たセシル君、ちろりとご自分の唇を舐めては「甘い」と小さく呟きます。頬の赤らみが可愛らしさではなく艶かしさに変貌する事を、改めて痛感しました。


 どっ、どっ、と心臓がうるさくて、でも、嫌ではない熱と動悸。


「……これで文句ないな。おやすみ」

「……おっ、おやすみ、なさい」

「では私も」


 羞恥と幸福でふわふわとした浮遊感を感じていたのに、今度はジルまで同じように口付けて来るものだから、もう頭のくらくら度合いが半端ないです。


「これでまた熱出さないで下さいね」

「は、はひ」


 ……二人共大好きだから我が儘で二人まるごと選びましたけど、失敗だったかもしれません。

 私、キャパシティオーバーで持たないかもしれません。心を強く持たないと私がお花畑で死んじゃいそうです。


 最後まで愛おしそうに私を眺めては背中を向けて去る二人に、私は顔に集まってしまった頬の熱を抑えるのに一生懸命で当分寝られそうにない事を悟りました。

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