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105話IF続き

活動報告にupしていたIFの続きです。

 セシル君が、私の事好き?

 ……いやいや、何で好きとか。嘘じゃないのは分かりますけど、あまりにも唐突で、実感が分かりません。

 だって、セシル君最初は私の事凄く嫌ってたし近付かれるのすら嫌がってたじゃないですか。近付いたら唾棄せんばかりの勢いで舌打ちされたし。


 それからゆっくりと仲良くなった訳ですけど、小さい頃から一緒に過ごしてるから、私の欠点なんか分かってる筈なのに。自分で言うのもあれですけど、一人で突っ走るし、結構子供っぽいし。

 ……何で、私の事好きになったんですか。というか、いつから好きだったんですか。そんな素振り、なかったのに。


「姉さま、兄さま来たよ」


 居候させて貰っているベッドで唸る私に、ルビィのにこにこ顔が届きます。兄さまの一言で、一気に体内の熱が顔に集まっては頬を更に染め上げている事でしょう。

 せ、セシル君のせいで熱が下がらないのですよ。魔力増加のせいもあるのでしょうが、あのお見舞いからずーっと頭がぽわぽわして心臓が痛い。

 セシル君の事を考えるだけで胸が痛くなるから、なるべく考えないようにしてはいます。でも、人間という生き物は抑圧されればされる程解き放たれようと反発するので厄介です。お陰で何度悶えた事か。


「か、帰って貰う事とか」

「残念だったな、もう居る」


 色々パンクしそうだからお引き取り願おうと思ったのに、その選択すら許されていないなんてずるいです。


 ルビィの後ろからひょっこりと顔を覗かせたセシル君は、私の顔を見るなり口許を困ったように緩めていました。それで更に私の羞恥がぶわあっと湧いて来るから、見られたくなくてシーツを被り隠すという暴挙に走ります。


 本来客人に対してやってはいけないのですが、……今顔を合わせると、顔が茹で上がりのたこになってしまいます。もう遅いとか知らない。


「ルビィ、二人きりにして貰っても良いか? お前の姉さん襲ったりはしないから」

「うん! じゃあぼくお庭に行ってるね!」

「薄情者ですね!」


 要らない所で本当に空気を読んでくれる愛しの弟、セシル君を気遣って笑顔でお部屋を後にします。去り際に「兄さまがんばって!」と愛らしいスマイルと応援をセシル君に残した辺り、本当にルビィは変な所で成長を見せているのだと痛感しました。


 ぱたぱたと軽い足音が徐々に遠ざかるのを、顔を隠しながら聞いてはあううと意味のない唸りを上げる私。二人きりという現状に羞恥が湧いて、それに加えてセシル君の近寄る音がするから頭がぐるぐるしてしまいます。

 だ、だって、セシル君、私の事……好きとか、考えた事なかったのに。いきなり、求婚とかされても、混乱するし恥ずかしくて仕方ないです。


「リズ、別に無理強いとかしたりしないからこっち向け」

「や、やだ……はずかし、のに、死んじゃう」

「そういう所は俺以上に初心だよな」

「なっ、」


 せ、セシル君に初心とか言われたくない……! くっついただけで慌てて顔真っ赤にしてたのに!


 不満を言おうと顔を上げると、金色の瞳とぱっちり目が合います。柔らかい微笑は少し苦笑いも含められていて、僅かに眉が下がっていました。

 それでも私と視線を合わせると、自然と緩んでいく頬と眼差し。私の隣に座るように近付いたセシル君との距離は、私が想像するよりもずっと近くて。

 丸みを帯びた視線は、愛おしそうに私を捉えて、いて。


「……あ、う」

「漸く目が合った。そこまで意識されてもやりにくいんだが」


 友人に向ける眼差しなんかじゃないのがひしひしと伝わって来るから、心臓がきゅううっと縮こまったように、どきどきとくらくらが襲って来ます。


 嫌じゃない、それは分かってるし、女の子として求められる事自体が嫌な訳ではありません。ただ、いきなり過ぎて何が何だか分からなくて、関係の変化に対応しきれない。

 女の子として好かれているという事はつまり、……結婚したい、とかそういう事で。というか好きという言葉の前にほぼ求婚の言葉を頂いたから余計にこんがらがるんです!


 決して嫌ではないけれど、物事にはもっと順序があって、この事もそれに則って然るべきなのですよ。も、もう少し、早く心の準備とかさせてくれないと。いきなり求婚されたって、胸が苦しくて頭がぽわーってしてしまって考えられないんですから!


「せ、セシル君が近付くのが悪いんです。どきどきさせて何が楽しいんですか!」

「その反応が可愛くて楽しいぞ」

「……っ! こ、このセシル君は偽物ですね、か、可愛いとか素面で言える訳がありません!」

「頑張ってるに決まってるだろ!」


 へっ、と息を飲んでセシル君を恐る恐る見上げると、顔を真っ赤にしながらぷるぷるとしている男の子が一人。

 ……あ、だめだ……私まで、すっごく恥ずかしくなって来ました。せ、セシル君、発言通り頑張ってるの、分かるから、私まで恥ずかしくてどきどきしちゃいます。


 元から口説くなんて器用な真似がセシル君に出来る筈がないんです。セシル君、思った事を素直に言う人だから。

 ……という事はさっきのも恥ずかしがりながらも本音だったという事で、もう沸騰して蒸気によって蓋が外れかけたやかんな気分です。


 互いに居た堪れないというか、お互い何だかとてつもなく恥ずかしいやり取りをしている気がして。

 二人して赤面しているなんて、傍から見たら実に滑稽な場面なのでしょう。


 とくとくとうるさい心臓を落ち着かせようと胸元を押さえる私。セシル君に視線をやると顔を掌で掴んで「あー……」と気不味そうに嘆息してます。勿論顔は赤いまま。

 ……セシル君ばっかり余裕ぶってると思いましたが、……セシル君にも、余裕なんてなかった、らしいです。


「……聞いても良いですか?」


 そう考えると少しだけ胸が楽になって、私は躊躇いながらも隣のセシル君に声をかけます。

 微妙に立ち直れていないセシル君が「何だ」と少し淀みながらも聞き返してくれて、私は勇気を振り絞ってセシル君とちゃんと向き合いました。

 ……逃げるのは、失礼な事。

 恥ずかしくて、どきどきして、自分でも訳が分からななっているこの気持ちを、ちゃんと伝えないといけない気がします。


「セシル君は、ほ、本当に、私の事……好きなのですか」

「嘘だと思うか?」

「……思いませんけど」


 セシル君がこんな嘘をつくなんて、有り得ません。意地悪な所もありますが、優しくて友達想いで、……時々どきっとするぐらいに、私を大切にしてくれる。

 からかう為にこんな事を言ったりしません。


 それは分かっていても実感が湧かないし、……恥ずかしくて、上手く受け止められない。


 私の葛藤をどう捉えたのか、頬の赤らみを漸く薄めたセシル君はふっと眉を下げて苦笑いを形作ります。


「……ああ、別に気にしなくて良いぞ、俺が勝手に好きで、勝手に貰おうとしてるだけだから」

「も、貰っ、」

「ああ、話は行ってないんだな。婚約を正式に申し込んだ」

「は!?」


 待って待って、こ、婚約って。

 私、ついこの間セシル君に口で求婚されて戸惑ってたのに。今度は家を通して、正式に婚約、の申し出? つまり、私が受け入れてしまえば、数ヵ月後には夫婦とかそういう関係になる、訳で?


 急展開過ぎて目を回しそうな私、セシル君は少し怪訝そうなお顔です。


「何だよその顔、聞いてなかったのか。てっきりそれだから顔を合わせなかったのかと」

「聞いてません! ……だ、だって、まだ一週間も経ってないのに」

「そうだな。……嫌か?」


 普段通りの顔、いえ、少しだけ悲しそうに微笑んだセシル君。無理強いしないのが、彼の優しさなのだと分かっています。恐らく本気で拒めば引き下がってくれる事も。


「い、いやという訳では。ただ、……わ、私なんか、嫁に欲しいのですか」

「……お前は自分の魅力とか価値に無頓着だよな」

「……魅力」


 私の、魅力。

 セシル君が私を乞うような魅力、って


「自分がどれだけ恵まれて優れた存在なのか、自覚してないな。魔力も家柄も容姿にも恵まれて、お前は他の奴等からすれば喉から手が出るくらい欲しい女だよ」

「……セシル君、も?」

「誤解すんなよ、俺はあくまでそれは付加価値だと思っている。……まあ出会うきっかけがその魔力だったから偉そうな事言えないけどさ、俺は今お前が魔力を無くそうが平民に落ちようが、お前を求めるよ」


 よくよく考えれば結構に情熱的な台詞で、頬にまた熱が集まってしまいます。今回ばかりは、セシル君は照れておらず真顔で私に囁いてはするすると髪を梳いておりました。


 ……何で、こんなにも、求めてくれるのでしょうか。

 魔力を無くして平民にでも落とされたら、客観的に見た私の価値なんてなくなるのに。それでも、私を好きだと欲しがるのは、何で?


「……ど、何処が、好きなんですか」

「……い、言わせるのか? 恥ずかしいんだが」

「聞かせてくれなきゃ、受け入れません」

「……ずるいだろ、それ」


 だって。求婚された、のは、分かりますけど、理由が分からないんです。好きになった理由が。

 大切にしてくれているのも、好意が本物なのも、真剣に申し出てくれているのも分かるからこそ、何故好きなのかという疑問が深まります。


「ああもう、一回しか言わないからな」


 こほん、と咳払いをして視線を合わせて来るセシル君は、少し恥ずかしそうで、でも真っ直ぐな瞳をしていました。


「最初はお前みたいな女、大嫌いだったよ。苦労も知らなそうな、恵まれてへらへら笑ってた女」

「……知ってます」


 出会った当初は明らかに嫌われていた事くらい知っていますから、驚きも何もありません。寧ろ潔く言ってくれてありがたいくらいですよ。

 七年前、お互いにまだまだ子供だった私達は、非常に仲が悪かった……というか一方的に嫌われていたのです。それがどうして、私の事を好きなんかに。


「でも、関わるようになって、お前はただ恵まれた環境にぬくぬくとしている訳でもなかった。危険も無茶も抱え込んで、一生懸命に生きているのが分かってから、意識が変わったよ」


 少しだけ苦いものが浮かんだ笑みで、私の頭を撫でるセシル君。危険と無茶は否定出来なかったので唇を尖らせると、セシル君は「我が身を省みろよ」と忠告。

 ……まあ、命の危険は何回もあったから、こればっかりはセシル君の言う通りやのですけども。


「無邪気で無防備で無鉄砲で、危なっかしくて、俺の為に命を張ってくれて。……強いのに弱くて繊細で、でも逃げずに頑張って。ひたむきな姿が、眩しかった」


 セシル君が頑張って言葉を捻り出していて、何だか体が熱い。漸く落ち着いて来たというのに、心臓がまたらしくなく暴れだしていました。

 ……セシル君、は……私の事、とても大切にしてくれていて、見守ってくれていた。それがよく分かって、どきどきとしてしまいます。


 ぽわん、と頭がふわふわし始めてしまって、顔が熱い。たどたどしくも私の事を喋ってくれるセシル君が、今は何だか……凄く、男の子らしくて。


「……これじゃあ何処が好きっつー答えになってないな。そうだな、……多分、いつまでもあどけなくて、純粋で、優しくて……ひだまりみたいな温かさが、好きなんだ。大切に抱え込みたくなる。きっとこれが、愛しいって気持ちなんだろうな」


 息を飲む程、降り注ぐ眼差しは柔らかく、温かい。透き通るような穏やかな金色の瞳には、ぽーっと惚けたような私が写っています。

 ……心臓が、熱い。

 今までになく優しくて、物欲しそうに、それでいて遠慮がちな笑みに、胸の奥から色々と感情が涌き出て来るのに、言葉に上手く出来ません。


 私から言えるただ一つの事は、……セシル君の気持ちが、嬉しいという事だけ。


 正確に気持ちを伝える手段がなくて唇を動かせない私に、セシル君は困ったようで眉を八の字に描かせています。それでも、柔らかい眼差しは変わりません。

 そっと、腿の上で合わせていた私の両手を取り、包み込んで来ました。


「リズベット=アデルシャン。私と、結婚して頂けませんか」


 囁かれた言葉は激しくはなく、切なげに、そして甘い声音。シュタインベルトとしての求婚でもあり、セシル君個人としての求婚でもあります。

 とくとく、鼓動は相変わらず早鐘のように打たれていますが、答えだけは決まっていました。


「……喜んで」

「まあ返事は待つ、……って今何て言った?」

「え? そ、それもう一度言わせるので?」


 今私しっかりとお返事したつもりだったのに、何故かセシル君には疑われております。覚悟を決めて頷いた、のですが。


「……お前、本当に考えたのかよ。俺で良いのか、ジルとか」

「……えと、ね。私にもよく分からないんですけどね、……セシル君が、良いなあって」


 訝るセシル君に、私も何だか曖昧な答を返してしまって、更に顔が渋くなっていくセシル君。

 ……おかしいですね、セシル君の望む答えを返せた筈なんですけど。


「……それ、本気で受け取っても良いのか?」

「……多分」

「多分って、あのなあ」

「私、今までで初めてだから、よく分からなくて。……ふわふわして、ぽーっとして、もっと側に居たい、セシル君に触れて欲しいと思う感情は、恋ではないのですか……?」


 ジルに感じたものとはまた違う、どきどきと、ふわふわと浮かぶような気持ちよさ。側に居るだけで幸せになって、むずむずとしてしまうこの気持ちが恋なのか、私にはよく分かりません。


 でもセシル君が半信半疑だったので「違うのですか?」と首を傾げると、何故かセシル君が顔を真っ赤にしています。

 これが恋じゃなかったら、何なのでしょうか。


 セシル君はセシル君で林檎ほっぺで顔を押さえて「無自覚かよ」と小さく呟いていました。……これでも身に宿る恋情を自覚したのですが。


「……じゃあ、セシル君が私に、もっと恋を教えて下さい」

「……あほ」


 ねだるように首をこてんと曲げて耳を肩に触れさせると、色々悶えていたセシル君が私を引き寄せました。


 逞しく育った胸に顔を埋めて、セシル君の匂いと体温に喉を鳴らして頬を緩めます。……セシル君も、凄くどきどきしてる。求婚して来たのは、セシル君の方なのに。

 でも、同じようにどきどきしてるから、お揃いだなあなんて思ったり。


「……セシル君、顔真っ赤」

「お前の熱が移っただろ、あほ」

「……もっと直接移してあげても良いですよ」


 もっと、触れて欲しい。

 好きという感情を認めてしまえば、抑圧されていたかのように幸福感と、欲求が際限なく滲み出てきます。

 セシル君に、ぎゅーっとして欲しいんだ、私。それが叶ったから、今度はもっと触れて欲しい。好き合った人がする、一つの愛の形をして欲しかった。


「っ駄目だ、口は正式に婚約してからだ」


 でもそこは律儀らしいセシル君、顔を茹でたこのようにして首を振るので諦めておきます。……されたら、きっともっと好きになるのに。


「……今は、これだけで我慢してくれ」


 そんな私の意思を汲み取ったらしく、セシル君が唇の横に優しくセシル君の唇を触れさせて来たから、私も恥ずかしくて照れ隠しの笑みを浮かべてしまいました。

 ……今、凄く幸せな気がします。


「セシル君セシル君」

「……なんだよ」

「幸せにしますね!」


 セシル君が幸せにしてくれたから、私もセシル君を幸せにしなきゃ。


 そう決意を露にする私にセシル君は瞬きを繰り返し、それから少しだけ苦笑いして「俺も幸せにしてやるよ」と囁いては頬に口付けされました。


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